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レース終了と共に、


「やった!」


これまで大人しくしていた天宮が、ガッツポーズしながら声を上げた。彼女が目を向ける画面上には、1位と表示されている。


「あー、くっそぉ……。結構長い間このゲームやってる俺が3位かぁ……。」


そんな天宮とは裏腹に、隼人は3位。もちろんあの順位変動があった後すぐに立て直し1位を独走していたが、なんと朱莉が一位に当てられる道具を当て、最後の周回となる3周目の終盤、隼人にぶつけた。結果、隼人に当たったアイテムの衝撃波をうまく避けた2人が争う形となり、最後には天宮が勝利したのだった。


「ホラ、冬樹もやれ。そして難しさを知れ。そして無様に散れ。」


隼人は俺に向けてコントローラーを放り投げる。どうやら交代らしい。


「うーん、どうしてみんなそんなに早いんでしょう。」


朱莉、それはな。多分センスがないからだ。最初のアイテムにあれだけ時間を取られて、なぜ隼人の背中を捉えることができたのか、そちらの方が俺にとっては疑問だ。


「操作は分かるよな?Aボタンでアクセル、Bでブレーキ。そこのスライドパッドで方向の操作。ドリフトはR。それぐらい。」


R。意味が分からんが受け取ったコントローラーを手の中で回しながらよく見るとRと書かれたボタンを見つけた。更に、ZRやらZLといったボタンがある。もっと意味がわからなくなる前に、俺はそれについて、考えるのをやめた。







『3…2…1…』


カウントダウン。早くも天宮は本気モードに入ったようだが、一体何をしているのだろうか?と思っていたら、『GO‼︎』の合図と共に天宮がものすごい速さで飛び出していった。それは俺の知らない操作であったから、俺のすぐ隣で画面を覗き込んでいた隼人に聞いてみた。


「天宮のあれはなんだ?」


すると、こんなことも知らないのかと言わんばかりの顔で、


「ロケットスタートだけど?」


と言ってきた。こんなことも知らないやつで悪かったな、と思いながら、モニターを見て、キャラクターの操作をする。


こういうゲームの用語など知らないので、用語ではなく「スタートが速くなる不思議な技術」であるということだけ頭の片隅に置いておくことにした。








レースが終了した。俺と朱莉、美晴に天宮としたレース後、


「走行の技術は俺より上手いクセに、アイテム運が壊滅的にないな。」


隼人がつぶやく。


俺はどうやら、アイテム運という物がないらしい。四人なので、最下位が4位なわけだが、4位でも加速アイテムすら出ない。


「こういう物なんじゃないのか?」


そういう仕様なのではないかと問うと、


「いや、順位によって出るアイテム結構変わる。お前の出てたアイテム、大体一位の奴が引くやつだ。バナナとかコインとか、大抵4位3位はひかねえぞ。」


と返され、


「そうか。バナナの皮と金貨みたいものしかでなかったのがおかしいのか。」


と呟けば、


「おかしいってもんじゃねえだろ。普通有り得ねえよ。」


あり得ないと断言される。


「というか、朱莉さんやべーよ。アイテム運半端じゃねえ。」


「そうですか?しーちゃんはどう思ってますか?」


「凄いと思ったわ。真横で見てたけど、怖くなったくらい。逆に冬樹君の方は……。ドライビングテクニックはすごかったし、ドリフトするところも上手く出来てたし。ほんとに初心者?って思ったけど、アイテム運がなさ過ぎた気がする。」


天宮にも、アイテム運なしと言われた。なんだか、俺は運がないのかと思った。


「うーん、冬樹ってさ。」


ショックを受けている俺に、隼人が話しかけてくる。


「運以外のスペックは超高いよな。」


聞いた俺が馬鹿だったかもしれない。











『ピンポーン』


パパがビクッとなった。まるで、何かまずい事があってママにバレた時みたいな感じだった。


「紗希……ちょっと行ってきて。ご飯作ってる最中だから。」


母が昼食の料理をしているので、私が対応することになった。一体誰だろう?


「はーい。」


扉を開けると、これまで電話でしか見なかった存在がそこにいた。


「お祖父ちゃんとお祖母ちゃん?」


「おお、紗希か。久しぶり。向こうの仕事がようやく片付いたから帰ってきたぞ。」


「ごめんなさい、お母さんはいる?」


「ちょ、ちょっと待ってね。」


確かに目の前にいるのは祖父と祖母だ。でも、来るなんて聞いてないし、私が生まれた時以来会ってないとパパとママに聞いた。


混乱しながら部屋に戻る。


「お祖父ちゃんたち、きた。」


「は?」


パパが、聞いたこともないような声音でそう言った。


その声にびっくりして固まっていると、パパは玄関に向かっていた。


「どうして連絡なしで帰ってきたのか」と怒っているようだった。


祖父は向こうアメリカの支社で働いており、大抵私たちが向こうに行くことでしか会ってなかった。ふゆにいは、毎回パスしていたけど。


一通り父が怒った後、祖父母は部屋に通された。そして、ママがここに座ってくださいと椅子を用意。パパとママ私と対面して座ると、


「……冬樹は、どうしてる?」


祖父が唐突に切り出した。


「相変わらず、だな。親父が無理矢理進めたあの話も、すぐに肯定した。」


「そうか……まだ、ダメだったか。」


どうやら、ふゆにいの話のようだ。私、ここにいていいのだろうか?


「仕方ないのは分かってる。たった5歳で親族から散々罵倒されて、暴力も受けた。そりゃ、私たちにも会いたくないだろう。だが、まだそうだったのか。」


死んでしまったおじさんとおばさんの件だろうか?私は小さくて記憶がないので、ふゆにいが悲しんでいるところも見たことはない。それどころか、ああいう状態のふゆにいが普通なんだと、少し思っていた。


「ああ。『いいか?』なんて聞いたら、『了解しました』だぞ。」


「……。そうか。」


祖父は、父の言葉にショックを受けたような感じだった。そして、その日は私と話をしたり、仕事の話をしていたりして、「今日はホテルに泊まっていく」と言って帰っていった。












———後書き———

一週間謹慎が決定し、現在自宅に篭っています、しろいろ。でございます。

いや、一週間家ん中ですよ。何やってんだ、あの野r……おっと、口が滑りましたね。というわけで、一週間家の中から一度も出られなくなりました。以上同居人が感染したものの自分は超元気(やる気はない)、しろいろ。でした。


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