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『本年の桜の開花情報は……。』


テレビでは、日本の何処かで起きた事件やら国際情勢やらを報道していたが、天気予報の前に、そんな情報が流れてきた。


「もう桜が咲く季節ですかぁ……。」


それまで無言でいた朱莉が、唐突に口を開き、そう言った。


「昼はもうだいぶ暖かくなってきてるしな。」


「そうですねぇ……。あ、テレビに映ってる桜、綺麗ですねぇ……。」


「……、桜、見に行くか?」


「え?あ……その。」


「いや、このままいたら、ここで一日を過ごしそうだし。どうせならどこか出かけるかな、と思って。嫌ならいいんだ、別に気にしないから。買い物でもいってくるよ。」


気まずくなってしまい、立ち上がってその場から離れようと、テーブルに手をついて立ちあがろうとしたその時、


「…い、行きたい……です。」


今にも消えてなくなりそうな声で、下を向いていた朱莉はそう言った。









「うむむむ……。眼鏡、意外と似合ってますね……。」


「そうか?」


「これで、一人称を『僕』にして、私と同じように敬語にして見てくださいよ。きっと全く別人みたくなりますよ。」


少しくらいなら、こういうものにも付き合ってみてもいいかもしれないと思ったので、やってみた。


「俺……俺‥‥僕。よし。これでいい、朱莉?」


まあまずはこれくらいでいいか。


「!? ふ、冬樹くん!?」


反応が面白いな。


……決めた。イジり倒してやる。


「どうかしましたか、朱莉さん。」


「や、やってくれるんですか…?」


「ええ。そのつもりです。何か良くないことでもあったでしょうか?」


「い、いえ。特に何もないですけど、なんだか新鮮だなあって。」


「一人称と語調が変わった程度で、お…僕はなんら変わりはしませんよ。」


簡単だと思っていたが、意外と難しいかもしれない。もう『俺』が出始めた。気を引き締める必要がありそうだな。


「それじゃ、行きましょうか。」


隣町の川沿いの桜を見に。眼鏡をかけて外に出るのは初めてだ。


「はい、冬樹くん。」












「さくら、きれいですね、冬樹くん。」


「まあ、まだ満開では無いですがね。」


よくて5分咲きぐらいだろうか。蕾もまだ多いが、十分綺麗だ。


「あ。」


「どうかしました……」


俺が全てを言い終える前に、朱莉は俺の頬に触れていた。


「あ……え?何やってるんだ?」


目の前にあった彼女の顔を見る。


「桜の花びらがついてましたよ。」


「……だからって、……俺の顔に触ることはないだろ。」


文句を言いながらも、彼女が触れたところを確認する。そこから、体全体が熱くなるのを感じた。


「仕返しです。」


顔が熱くなるような、なんだか変な気分だ。だが、イジられるのはあまり好きじゃない。俺はその気分を無理矢理心の奥に押し込めて、平静を保とうとした。


「なんの仕返しだ。」


「分からないならいいですよ。」


「そうか。」


口調を戻して、いつも通りに徹する。


「あら。口調も戻っていますよ。」


「もうやめる。」


「そうですか。」


にこり、と笑う朱莉を見て、もう絶対にこれはやらないと、そう心に誓った。















「……お腹、空きましたね、冬樹くん。」


「そうか?……ああ、もう12時過ぎてるのか。」


彼女の体内時計、いや腹時計はいつも正確だ。昼の12時を過ぎればお腹が空いたとばかりにお腹が鳴るのだ。学校ではなった記憶はないのを聞くと、鳴っているのを隠しているらしい。どうやって隠しているのか気になる限りである。


「はい……、お腹空きました……。」


元気がないが、ただ腹が減っているだけのようだ。


「家に帰るんじゃなくて、何処か店にでも入るか?」


「家まで待てる気がしません。」


キリッと此方を向いて、朱莉はそう言った。


「‥‥自信満々で言うことじゃないが、まあいいだろ。歩いて駅の方行くぞ。店なんかそっちにいくらでもあるだろうからな。」


「わーい。」


「ホラ、歩くぞ。」


『ぐぅ。』


最後はお腹が返事をしたのだった。











「私は、えっと。このサーロインステーキでお願いします。」


ステーキ。凄いな、朱莉は。


「俺はトマトガーリックスパゲッティでお願いします。」


「以上ですね、かしこまりました。少々お待ちください。」


駅のすぐ近くにあったファミレスに入り、食事を注文した。


「冬樹くんスパゲッティだけでいいんですか?」


「ステーキ注文する朱莉に心配されると、自分がおかしいのかと思うからやめてくれ。」


「少なくないですか、あれ。」


「いつもそんな食べてないだろ、俺は。あれぐらいがちょうどいいんだ。」


いつも俺の料理の大半を食べるのは、朱莉である。俺は鍋いっぱいにカレーがあっても、最低でも消費に6日かかる。朱莉が来てからは2日で大体なくなるようになったのだ。


「そういえば、いつも私が食べるより先に席を立ちますね。」


「そういうことだ。」







「お待たせしました。サーロインステーキとトマトガーリックスパゲッティです。」


店員が持ってきた皿の位置は。


「逆だな。」


俺の方にステーキ、朱莉の方にスパゲッティだったのだ。


「まあ、皿の位置を変えればいいだけですから。」


「そうだな……朱莉、そんなにスパゲッティ欲しいならやるぞ。」


「いいんですかっ!?」


「あ、ああ……。」


結局、朱莉はステーキと俺が分けたスパゲッティを平らげたのだった。
















————後書き————

☆が!おとといだけで!きゅうこもついてた!!わーい!!!


……あ。









ごほん、ごほん。あー、えーと。失礼、取り乱しました。☆有難うございます。なんか凄い嬉しかったので、昨日も一昨日も頑張ったんですが、無理でした。…‥ギリ、日付は変わってないので、多分大丈夫……なはず。次の投稿日の予定は未定ですが、明日か明後日になるでしょう。ではまた。

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