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「「「「「「誕生日おめでとう(ございます)!」」」」」」


家のドアを開けると、六名の声がクラッカーを鳴らして俺を出迎えた。


「……」


クラッカーの音に驚いて、俺は声が出なかった。


「おかえりなさい、冬樹くん。ご飯を用意していただいたので、皆で食べましょう。」


朱莉は、まだ靴を脱いでもいない俺の背中を押して奥へと行こうとする。


「ちょっと待て。まだ靴履いてるから。」


「早くしましょう冬樹くん。私、お腹空いて仕方ないんです……。」


どうやら、少々朱莉が急ぎ気味だったのは、自身の腹がもたないからだった。……もう少しくらい耐えてほしい限りである。










「食材はどうやって集めたんだ?」


俺は目の前の料理を見て、どうやってこんないい物を集めたのか気になった。


「ああ、それはね。美晴さんが僕の家のところに来て、買ってったんだよ。」


「うん。朱莉ちゃんから頼まれたからね〜。」


私がお願いしましたと言わんばかりに、ドヤ顔で俺を見る朱莉。


「そんな買ってて、金は大丈夫なのか?大丈夫じゃないなら俺が後で払うが……。」


持っていても、ほぼ使わない金だ。叔父上に全て返すことができなくなったと、次会う際に正直に話をしよう。


「いいですよ。私がしたくてやったことですし、冬樹くんが払う必要はありません。」


「……そうか。なら、これから少しだけ食費を上げてもう少し美味しい物を作ることにするよ。」


「ま、まあ、頑張らなくても冬樹くんのご飯は美味しいんですけどね。」


彼女がとてつもなく嬉しそうな顔をするものだから、俺は他の五人のことを忘れかけていた。


「……もしもーし?俺たち置いて2人のワールド展開しないでくださーい?聞ーいーてーまーすーかー?」


「え?あ、ああ悪い。部屋の装飾は河合と隼人と紗希か?」


「へへーん、ふゆにい。どうよ。」


「どうって言われても。凄いな、くらいしか言えないぞ。」


「お礼はまたご飯ご馳走してくれるだけでいいからね?」


それは、だけ、と言えるのだろうか?というか、お礼とは催促するものなのだろうか?でも、それで彼女の気が済むのであればいいか。


「了解した。来る時は俺か朱莉に連絡を入れてくれ。分かったな?」


「うん。分かったよーん。」


そして、隼人が口を開いた。


「俺の誕生日また祝ってくれるって約束で、十分だぜ。」


また外に連れ出されて、何か買わされるのだろうか?……まあいいか。


「勿論だ。それと……河合と畑中には。あー、そうだな、お裾分けでも今度持っていこう。」


「いいのかっ!?」


河合がガタっと音を立てて立ち上がる。


「ちょ、ちょっと芽依!食器が……。」


「あ……。ごめん。」


「アレルギーがあったら、言ってくれ。まあ、今も何も気にせず食べているあたり、アレルギーは無さそうだが。」


「あたしはスギ花粉だ。」


「芽依、花粉は関係ないよ……。」










「よぅし!北代!あたしと潤からは、これだぁ!」


「はい、誕生日おめでとう。」


食後、2人から紙束の何かが渡された。よく見てみると、


「商品券、だな。」


商品券だった。どこで使えるものか、よく分からないが。


「おう。商店街のトコで使えるぞ。」


あそこの商店街で、そんなものあったのか。


「ありがとう、是非使わせて貰う。」


「あ、それとね、僕らのところで無理して使う必要はないからね。」


「他の店も見てみたいとは思っていたが、これまで行ってなかったからな。いい機会だ、今度行ってみることにする。本当に、ありがとう。」


「いや、これからもよろしくね、北代君。」






「私はこれ。」


美晴は手に持っていた何かを俺に渡した。


「これは……?」


「可愛いでしょ?」


可愛いかじゃなく、なんなのかを聞いていたのだが。


「そうじゃなくてな。これはなんのキーホルダーなんだ?」


どこかで見たことがあるような気がするが……微妙に違うから分からない。


「くまざぶろーの親戚、くますけだよ。」


あの、意味分からないキャラには、実は仲間がいたようだ。


「コイツは黒いんだな。」


「ああ、それはね、全身脱毛したからだよ。」


「……。脱毛?」


確かに白熊は皮膚の下の脂肪層に熱が伝わりやすいように肌が黒色だという話だが。


「東京に来て暑いからって、脱毛したの。」


なんともフリーダムな白熊だ……いや、黒熊なのか?







「ふゆにい、見て驚くなよ〜?はい、誕生日おめでとう。」


紗希は、綺麗にラッピングされた大小二つの箱を、俺に渡してきた。


「おっきい方は私から。ちっちゃい方はパパとママから。」


「何が入ってるんだ?」


「さぁね?開けてみたらいいと思うよ。」


叔父上と叔母上がくれたと言っている方を開けてみると、そこには。


「シャープナー……。」


「ふゆにい欲しがってたでしょ。パパママがそれ聞いて買ってたよ。」


一体、誰から聞いたのやら。まあ、紗希だろうな。


「じゃあ、次。こっちは、何が入ってるんだ?」


紗希が用意してくれたというプレゼント。俺は少し期待しながら中身を見た。


「………。」


その瞬間、中から大きな白熊が登場。


「まさかとは思うが……、これは。」


「ぬいぐるみ。くまざぶろーの。」


「なんでこれなんだ?」


「クマのぬいぐるみ大事そうにしてたから、ぬいぐるみ好きなのかなって。」


確かに飾ってあるが。だからといって増やすのか、あれ以上。


「好きかと言われたら言葉に詰まるが、部屋に飾っておくよ。次があるなら、もう少しまともな物を頼む。」


「くまざぶろーのって、まともじゃないの?」


「そうだ。そのキャラから離れろ。」


まだそんなことを言うので、俺はしっかりと言ってやった。こいつの自由にさせていると、いつかアザラシやらの人形を連れてきて、俺の部屋が北極になりそうで怖いからだ。







「今日は本当にありがとう。お祝いなんてしてくれて。」


皆は、流石に夕食はうちで食べるわけにもいかず、自分の家へ帰っていった。そして、また静かな2人の時間が戻ってくる。


「いえいえ。喜んでくれたならよかったです。」


「そわそわして、どうかしたか?見たい番組でもあるのか?」


どこか落ち着かない朱莉にそう言うと、


「いっ、いえ。何もありませんよ。」


と帰ってくるので、


「そうか。……ご馳走様。食器洗ってるから、食べ終わったら持ってきてくれ。あとは……お茶は片付けてもいいか?それともコップに入れてからの方がいいか?」


「入れてもらえますか。お願いします。」


「ほら、入れたぞ。」


「ありがとうございます。」


俺はそのまま立ち上がって、キッチンに入って食器を洗ったり残り物を冷蔵庫にしまったり、後片付けを行った。










「ん、あれ。まだ寝てなかったのか?」


もう12時を回ろうかという時間なのに、朱莉はまだ起きていた。


「えっ、ええ。……。」


「どうかしたのか?眠れないとか、そんな感じか?」


「……。ちょ、ちょっとだけ待っててくださいね。今持ってきますから。」


「?」


持ってくる?何を?


そう聞こうとしたが、ピューっといなくなった朱莉には言えなかった。












「あの、えっと。誕生日のプレゼント、なんですけど……。皆の前では、恥ずかしくて。渡せなくてごめんなさい。」


そう言って、綺麗な小包が渡された。


中からは、黒のペンケースが出てきた。そう言えば、ペンケースは5年ほど変えていなかった気がする。


「皆がくれるのに、朱莉がくれないのかと思って少し不安だったが、どうやら杞憂だったみたいだな。安心してくれ、俺も昔、プレゼントを紗希に手渡しできなくて、部屋に『誕生日おめでとう』って書いたカードと一緒に包みを置いておくってことしか出来なかったから、お互い様だ。」


「そんなことあったんですね。」


「ああ。何年か前にな。……お礼は、そうだな……。今度、朱莉の誕生日にお返しを用意する。」


「私の誕生日、知ってるんですか?」


「……知らないな。」


「六月二十日です。」


「分かった。すまんな、知ってなくて。」


「言ってもいなかったですし。仕方ありませんよ。」


俺は、その日を忘れないように、後で紙にでも書いておこうと思ったのだった。














———後書き———

一昨日の夜は地震がありましたが、皆様は大丈夫でしたでしょうか?僕は机での作業中にうたた寝してたんで、突然の地震で心臓が飛び出るかと思いました。それ以上に何もなかったのが幸いです。

……今日は寒いですね。外には出たくありません。

以上、しろいろ。でした。ではまた。

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