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 公園のベンチに座って待っていた紗希ちゃんを確保して、朱莉ちゃんに電話をかける。


『もしもし?』


「あ、もしもし?紗希ちゃんと合流したよー。」


視界の先で捉えた紗希ちゃんは鳩と戯れている。

……次第に彼女の周りに鳩が集まって来る。


『紗希ちゃんとは合流できたんですね、安心しました。』


その紗希ちゃんが。


「うん。だから、今から戻るねー。うえっ!?」


『えっ?どうしたんですか?』


「いやえっとその。紗希ちゃんが鳩に……。」


紗希ちゃんは鳩に囲まれて、名付けるとすれば鳩人間。流石に顔にまでは鳩は乗っていないけど、表情を見ても別に気にしていないようだ。というかいつも通りって顔で、ニコニコしてるくらいだ。


『そ、それは凄い……って違います!冬樹くんがそろそろ帰ってきてしまうので、ちょっと急ぎでお願いします……。』


まあ気になるよね。わかる。私も今釘付けだし。


「了解ー。じゃあ切るよー。」


でも、流石に糞とかついたら可哀想だし、早くはらってあげないと。


『はい。後でその話は詳しく。』


「りょーかーい。」


電話を切ってポケットにしまう。そうしたら、待機中の紗希ちゃんの所へちょっと走る。鳩は私が来たからか一斉にバタバタと飛び去った。


「ばいばーい。」


飛び去っていく鳩に手を振る紗希ちゃん。話でも通じているのかな?


「ねえ紗希ちゃん、鳩すっごかったけど、どうしたの?」


「あー。私、いつも動物に好かれるんですよ。びっくりするくらいついてましたもんねー。分かりますよー、いつも聞かれるので。『さ、紗希ちゃん、凄いね。』って引き気味で。」


ヤバい、簡単に想像できる。話し相手がドン引きする瞬間が。


しかも、びっくりするくらい何も気にしていない。糞ついてないかとか、普通は気にするはずなのに。


「凄いんだねぇ……って違うんだよ。北代が帰って来るらしいし、おぶるから走って行こっか。」


「え?」


背中に紗希ちゃんを担ごうとすると。


「だ、大丈夫です!走って帰れますよ!」


「あたし、元陸上部だけど。ほんとに大丈夫?」


元々は陸上部で、長距離走をしていたのだけど、潤と付き合うようになってから辞めた。元々ただ足が速いとか体力がすごいってだけで入部させられただけだったし、楽しくもなかったからね。


まあ、そんな自分語りはどうでもいいか。


「あたし、一応だけど長距離走者だったんだ。ついてこれる?」


「私はバレーやってるんですけど、練習でいつもランニングは欠かしてません。だから多分付いて行けます。」


「じゃあ、大丈夫なのかな?」


「はい!」


「あたし、走るのだけは昔から得意だったから、離されないように気をつけてね。」


走れば汗をかくなんてそんな当たり前のことを、その時は忘れていた。その時は紗希ちゃんをギャフンと言わせてみたいと思っていたからだ。















「はぁ、はぁ……。」


「さ、紗希ちゃん……。い、意外と、速かった、ね。もしかして、あたしの体力が、落ちてるのかな……。」


「け、結構速かったですよ……。私も部内じゃそれなりに速い方なんですけど……。」


ぜえぜえはあはあと息遣いの荒い二人は、彼女たちの周りだけが夏であるかのように汗だくだった。











「あ、ふ、二人とも、早く上がって……なんで汗かいてるんですか?」


玄関を開けた先には、息遣いが少し荒く、汗だくになった芽依ちゃんと紗希ちゃんがいました。


「……。ふぅ。走ってきたからね。」


一回だけ深呼吸をして落ち着いた様子で、芽依ちゃんはそう言いました。


「朱莉さんが、早くって言ってた、って。」


まだ少し息遣いが荒い紗希ちゃんも、それに同調しました。


「別に走って来て……とは一度も言っていませんが、早く来てくれたのは嬉しいです。タオルを持ってきますので、それで体を拭きましょう。幸い、冬樹君はさっきようやく電車を降りたらしいので、まだまだ時間がかかるはずです。そうしたら最後の準備だけ少し手伝ってくださいね。」


「拭き終えたら洗面所にあるカゴの中に入れておけばいい?」


「ええ。あ、でもタオルを取る前に手洗いうがいはきちんとしてくださいね。」


私が冬樹くんに怒られてしまいますので、本当にお願いします……とは言い辛いですけれど。


「ありがと。じゃあ借りるね!」


にっこり微笑みかけてきた芽依ちゃんは、ゆっくりと洗面所まで歩いて行きました。スーパーの近くにある公園……かなり距離があったはずなのですが……あの電話から10分もせず着くのはびっくりです。一体どんな速度で走ればこんな早く着くのか、ちょっと気になります。














さて。もう朱莉もご飯を食べた頃だろう。俺もどこか適当に入るか。


スマホを見てみれば、そろそろ1時になろうかという時刻。入れるところがなければスーパーでおにぎりでもいいか?


幸い時間はあるしな、と考えながらぶらぶらしていると、携帯が鳴った。


びっくりした。怖かった。この間見たホラー映画よりも、ずっと怖かった。


「な、なんだ……?」


携帯を取り出せば朱莉からだった。電話から出て、キッチンで何かあったのかも、と聞いてみても、違うようで。早く帰ってこいとのことだ。




———後書き———


 どうも、しろいろ。です。

 本来ならば投稿の予定は無かったのですが、不思議な人に出会ったのでその勢いのまま書いた次第です。


 用事で外に出ていたんですが、歩道にあるベンチのところで、スマホ六台並べてるおじさんがいたんですね。そのうち三台は、ベンチに座っているおじさんの隣に置いてありました。もう三台はトレーっぽいやつに入れていて、そのトレーっぽいものをおじさんがじいっと覗き込んでたんです。どれも全く大きさが違くて、大きいのから小さいのまで六台をおじさんは持っていた訳です。そのあと振り返っておじさんの顔を覗くと、スマホを覗き込んでニヤニヤしていました。もしかすると、七台を集めて合言葉を言えば願いが叶うから嬉しかったのかもしれませんね。あと一台、頑張れ。……まあ正直に言うと不気味で不気味で、怖くて仕方がなかったわけですが。


まあおじさんにはおじさんなりの事情があったのだろうと思っています……。

スマホ六台おじさん、話のネタにしてすみません。

ではまた。

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