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「ここだ……。」


私はふゆにいの家を初めて訪ねることにした。なぜか。それは、朱莉さんという人がいるから。なんと、私は駅からだいぶ迷った。ナビでは20分って書かれてるのに、40分くらいかかったのでちょー疲れた。


——これを別名、方向音痴と言う。


「よし。合鍵は受け取ってるから、いきなり鍵を開けてびっくりさせる!」


私は鍵についているセンサーを利用してオートロックを突破、そのままふゆにいの住んでいる部屋へ突撃。


玄関のチャイムを鳴らしたら、朱莉さん……が出てくることはなくて、やっぱりふゆにいが出て来た。あれ?私そういえばさっきいきなり鍵を開けてびっくりさせるって言ったんだったっけ。……ま、まあ、いいのっ!


「紗希?どうしたんだ、今日は来るなんて聞いてないぞ?何かあったのか?」


ふゆにいはちょっとだけ迷惑そうな顔。でも中に通してくれた。優しいよね、ふゆにい。


「冬樹くん?なんだったんですかー?」


!朱莉さんの声だ!


「紗希。走るな。」


私が走って声の方向まで行こうとすると、肩をガシッと掴まれた。


「うう……。ひどい……。」


「誰が酷いんだ。勝手に走り出す紗希だろ。」


ふゆにいの口から出たのは、ザ・正論。私は黙るしか無くなった。それにふゆにいの顔怖いし。









「ねえねえ、ふゆにいはなんでまだこたつ出してるの?」


びっくりしたことが二つ。一つ目は今言ったようにこたつがまだ出ていること。もう一つは、そのこたつに入っている……というよりはこたつで寝ている、朱莉さん。


「寒いからだ。」「寒いからですよ。」


え、ええ……。二人とも超寒がりじゃん……。


「あれ?でもこの部屋結構あったかいよね?」


私は部屋の暖房器具を探した。……やっぱりついてる。


「ふゆにい、すっごい寒がりだったよね。もしかして朱莉さんもなの?」


「まあ、はい。私はかなり寒がりだと思ってたんですけど……。冬樹くんがもっと寒がりだったんです。」


こんな私にも敬語なんて……朱莉さんに感動。


「紗希?何か飲み物いるか?紅茶もあるぞ?」


「あ、冬樹くーん!私は紅茶欲しいですー。」


いやなにこれ。めっちゃ距離近いじゃん。ウチのパパとママみたい。……まあ、朱莉さんは力強くはなさそうだけど、かわりにふゆにいが滅茶苦茶強いんだよねぇ。


「朱莉……。まあいい。で?紗希は?」


おおっとぉ、もともとは私に聞いてたんでした。


「ダージリンあったでしょ?それでー。」


ママが今年も紅茶の葉っぱ送ってたし、それでいいでしょ。


「ああ。分かった。」


ふゆにいは5分ほどで紅茶を入れて来た。もう片方の手にお菓子を添えて。















「おいしー!なにこれ、すごいねふゆにい。」


「それはパウンドケーキだ。材料を1ポンドずつ入れることからパウンドケーキというんだ。フランスのブルターニュ地方、イギリス発祥の家庭向けケーキで、フランスでは『カトルートル4分の4』、を示す。発展形としてはレモンピールで香り付けしレモン風味の糖衣をかけたトーフェが……」


途中で聞くのやめたけど、やっぱり知識量すごくない?「完全記憶」持ちなんじゃないの、ふゆにいって。


「ね、ね、朱莉さ……。」


私はそのおいしさを朱莉さんに確認しようと、朱莉さんを見た。しかしそこには、無心でぱくぱくパウンドケーキを頬張る朱莉さんがいた。……ケーキは逃げませんよー?ねー?朱莉さーん?


「朱莉?どうだ?美味しいか?」


ふゆにい。朱莉さん、今言っても聞かな……


「美味しいですっ!」


いや反応すんのかいっ!


「そうか、よかった。」


いや私が美味しいっていった時より嬉しそうにすんじゃねーよふゆにい。


「おかわ……」


お、おかわり?あ、お腹みて首振った。


「なんでもないです、冬樹くん、美味しかったです。」


ちょー我慢してんじゃん。あ、朱莉さん紅茶飲み干した。「んー!」とかいってる。熱かったのかな?


「朱莉さん、大丈夫?」


「大丈夫か?朱莉……食べたいなら言え。ランニングくらいなら付き合ってやるから。」


「うう……。食べ、ます……。」


「なんでそれを罪の告白みたく言うんだ……。」


いや、ふゆにいそれは同意見。激しく同意。でも、ランニングって?全然太ってないしこれくらいしなくても……。


「ほら、持って来たぞ。紗希はいるか?」


え、どうしよう。食べようかな?食べよ!


「ちょうだい、ふゆにい。」


やっぱ、ふゆにい器用だよね。すごい美味しいし。私もそういうのできたら良かったのにな。ちょびっとしかできないんだよねぇ。得意料理カップラーメン、ッテホドデハナインダケド。


……料理とか勉強しよ……。














「相変わらず独房だね!」


ふゆにいの部屋、びっくりするくらい何にも置いてないの。私はまさに独房というその部屋で、ベッドに座った。すると、枕元にぬいぐるみを発見。


「あれ?なにこれ。」


手に取ろうとすると、ふゆにいがぬいぐるみを取り上げる。


「これは違……。」


いや顔赤。恥ずかしいんかい。


「クリスマスに私がプレゼントしたんですよ?」


部屋にはいつのまにか朱莉さんがいて、くまのぬいぐるみを抱えたふゆにいをニコニコで見つめてる。


「……」


黙るなふゆにい。負けるなふゆにい。


「大事にしてくれてるようで、安心です。」


悪魔か、朱莉さん。この状態で追い打ちかけるなんて。悪魔の微笑みを、私とふゆにいは見ていた。


「……。」


HP0。これは完全敗北です、ふゆにい!


「朱莉、俺の作ったもの最近つまみ食いしてるよな?」


「え?あ、その……。」


おおっとふゆにいはガッツで耐えたようだ。HPは1だけ残っているみたい。だってまだちょっと顔赤いし。お?ふゆにいはカウンター攻撃を喰らわせるぅぅぅ!


「なんでだ?」


追い討ち!ふゆにいの負けず嫌い発動だぁ!……なんでこういうとこで発動するのかな?


「あ、え、そ、その……。」


言葉が出ない〜〜ッ!さあどうだ反撃は来るか!?


「あ、お、美味しいからです!」


おおっとめっちゃ顔赤い。写真欲しい。さっきのふゆにいのも。私の部屋の壁に、この写真2枚をそれぞれ額縁に入れて飾るから。


「そうか。」


いやめっちゃ嬉しそう。まあ、料理褒められて悪い気はしないよね。私は料理を家庭科でやった時しかないけど。


「ふゆにい、そろそろ帰ろうかなと思うんだけど。」


どうやら私はお邪魔虫だし、帰ることにします!


「もう帰るのか?そしたらパウンドケーキをおb……由紀さんに届けてくれ。」


おおう、ママにおばさんなんて言えないか。でもふゆにい、ママより圧倒的に強いし大丈夫じゃない?


——そういう問題ではないのである。


私は、そうして帰路につこうと思ったのだが。


「送る。」


「ええ、いいよ。20分くらいでしょ?」


ふゆにいが外に出る支度を始めた。


「紗希は方向音痴だろうが。それに夕食の食材も買おうと思ってるし。」


ご飯か……。


「夜ご飯食べてから帰ることにする!一緒に買い物行こっ!」


めっちゃふゆにいのご飯食べたい。








——後書き——

ども。コケていろいろゴミがついてはいいろになっているしろいろでございます。

先日関東の方で雪が降りましたが、寒すぎて一歩も外に出なかったのです、僕。

今日外に出たら道路が凍ってて、滑ってコケました。尻痛え。

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