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休日。暇で仕方がありませんが、特に用事もありませんので、だらだらとしています。そうしていると、朝6時に起きて朝ご飯を食べていたはずなのに、時計は10時を回っていました。


「暇、ですね。」


「ああ……。」


「暇。ですね。」


「ああ……。」


「……。なんで同じ返答しかしないのでしょう?」


「ああ……。」


よく見れば、少し眠たそうにしている気がします。


「眠いんですか?」


「ああ……。」


仕方ありません。少し強硬手段に出ましょう。


「冬樹くん!眠たいならここでじゃなくてベッドで寝てください。」


「っ!?あ、朱莉か。ああ、昨日は寝てなくてな……。いつもなら1時間は寝るんだが……、昨日は一睡も……ふわああ。」


「ちょっと待ってください?いつも何時間寝ているんですか?」


今聞いたことが正しいのであれば……。


「2時間半くらいか?長い時は3時間かな。」


「なんですかその睡眠時間。ショートスリーパーだったんですかとかそういう次元じゃないですよ、それじゃあ疲れ取れるどころか横になるだけで終わりじゃないですか。それに中学生の頃もそんな睡眠時間なら、私と30cmも差なんてつきませんよ。」


「……叔父上の家で無理やり寝させられてな。『成長期に寝ないでどうする』って。それでもその数年は8時間くらい寝させられたぞ?だいぶ寝たふりだったが。今は、特に止めも入らないし一時間だけとかざらにあるぞ。」


確かに、私が寝る時も必ず「おやすみ」って言ってくれますし、朝私が起きた時も「おはよう」って言ってくれてましたね。


「ナポレオンみたいな感じですか……。」


「ああ、あの人も3時間とかだったか?にてるな。すまないが……すこしよこになってくる。」


「はい。おやすみなさい。」


彼が寝室へ向かうのを見るなんて初めてですね。なんだか新鮮です。


「……。暇って事、解決してないじゃないですか。」


ここで私は、自分も寝てこようか迷います。でも、今日は7時間しっかり寝ていますので、目も冴えてしまっています。どうしたものですかね。


テレビをつけても、内容が頭に入りません。十数分すると、テレビを消します。


「……冬樹くんの寝顔、気になります。」


私の口からぽろりとでた独り言は、私の足を動かし、冬樹くんの寝ている部屋へと誘うのです。


音を立てないようにゆっくりと、ドアを開けて。


「すー。すー。」


中からは寝息が聞こえます。可愛らしい寝息です。


私はゆっくりとドアを閉めます。暗いので、中はまだよく見えません。


少しすると暗闇にも慣れ、ほとんど何も置いていない冬樹くんの部屋が姿を表します。


「足元は何もないですね。」


私はそろりそろりと枕元へ。


「……!綺麗……。」


思わずその寝顔にそう漏らしてしまいます。


ええ、冬樹くんの寝顔は、この部屋の中でとんでもなく輝いています。


おおいぬ座の「シリウス」よりも眩しいです。これに異論は、誰であろうと認めません。全宇宙に存在する何よりも明るいです。絶対に。


そう思いながら、手を合わせそうになっていると(これが、「尊い」ということなのでしょうか)、彼の閉じた目から、一筋の涙が伝いました。


「……。父さん…母さん……。」


ど、どうしましょう。うなされているのでしょうか?


「ごめん…なさい……ごめんなさい……。」


なんででしょう。なぜ謝っているのでしょう。冬樹くんの悲痛な、涙で濡れた声。その声を聴くと何故だか、私まで悲しくなってしまいます。


「行かない…で……。お願い…だから……。」


ああ、それは。


「冬樹くん……。」


私は、悲しさでいっぱいでした。彼の悲しみを私にはどうする事も出来ないこと、彼の心の内を理解出来ていなかったこと。そんな感情は、先ほどと違う意図をもって、私の体を動かします。


「大丈夫、私がいます。大丈夫。安心してください。」


私は耳元でそう呟きました。私が風邪をひいた時、母様が言ってくれたのとほとんど同じですけど。それでも、とても安心したのだけは確かだったのです。


彼に必要なのは、安心できる場所。私が来たことで、少しそれが壊れてしまったのでしょう。ならば、私が安心できる場所になればいいのです。それは簡単なことではありません。たかだか三ヶ月程度で、そこまでになれるかといえば、無理でしょう。でも、ならなければならないのです。冬樹くんの為に。


「ん、ん?……かあ、さん?」


「あら。起きたのですか?」


どうやら起こしてしまったようです。


「かあさん……おこって、ない?おれのこと、おこって、ない?」


私のことを冬樹くんのお母様と勘違いしているようです。


「まさか。今まで辛かったでしょう?泣いていいんですよ?」


彼は、目に涙をたたえて、こちらへふらふらと歩いて来ます。おぼつかないながらも、しっかりとこちらへ。私はゆっくりと立ち上がり、私よりずっと大きな彼を、ぎゅっと抱き締めます。


「辛かったでしょう。一人にして、ごめんなさい。」


私は、彼の母親ではないけれど。彼と一緒に過ごす人として、そう謝りました。


「かあ、さん……。」


そう呟いて、彼は膝から崩れ落ちてしまいます。嗚咽と共に、ずっと懺悔の言葉が漏れています。この前は、楽になったといっていましたが、あれで全てが消えたわけではなかったのでしょう。それ程までに、彼の心の傷は深いのです。表面上はそう見えても、どれだけ雰囲気が柔らかくなっても、奥底ではずっとある。だから、誰かが見ていてあげないといけません。こうして私がやっているように。


「もう、一人じゃないです。大丈夫。貴方はもう、大丈夫ですから。」


一人ではないということが、どれだけ安心することか。


「ほんとう、ですか?」


「ええ。私がいますから。」


「そう、か…。いや、大丈夫。俺には、朱莉がいるから。大丈夫だ。母さんは、寝てて欲しい。」


「母親思いですね。」


私がいるから大丈夫、なんて……。は、恥ずかしい……。


それから、彼をぎゅっと抱き締めていると、すやすやと眠ってしまいました。


起きた時、「母さんが夢に出て来てくれた」と話してくれました。


ですが、なぜ私の膝で眠っていたのかは、分かっていないようでした。











——後書き——

……はいどうも、惰眠を貪り食って、食い散らかした惰眠の破片の片付けに追われているしろいろでございます。いやあ、クリスマスには投稿できませんでしたが、今日は投稿しましたよ!あとですね、大晦日と元旦は多分、投稿しません。なぜなら実家に帰るからです。サーセン。皆さんも、良いお年を。


明日・明後日の投稿?気が向けば、だよ!(所詮僕はそんなもんです。)

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