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「いらっしゃいませ。」
「すみません、予約してた一ノ瀬ですが。」
「ああ、一ノ瀬様ですね。少々お待ち下さい。」
俺たちを迎えた店員さんはレジの奥へ。そして彼女は、縦長の小さなダンボールの箱を持ってくる。
「てっきり花を買いに来たのかと思ったが、違うのか?」
花屋に来たにも関わらずダンボールに入ったものを受け取った俺に冬樹はそう言った。まあ、たしかに花束かなんかを受け取ると思うのは当然だろう。
「花はなー、すぐ枯れるからイヤなんだよなー。」
すぐに枯れてしまってゴミになってしまうのも美晴に悪いし、どうせなら造花で部屋を飾って欲しいと思ったんだ。
「それで造花というわけか。それはどういうやつなんだ?」
「んー、まあ、薔薇の造花なんだが、どんなのかは美晴のところで見せてやるよ。見せられるかは分からんけど。」
俺は5000円札を取り出し店員に渡す。今ここでバラすのは惜しいのだ。冬樹にも驚いて欲しいと思う。ふふん、今からでも冬樹のびっくりした顔が思い浮か……思い浮か……ばない……。あいつの顔って鉄でできてんのか。
どこかで一緒に行って顔緩んでるところ見たいなあ。旅行先とかなら少しくらい緩むと思うし。あ、あと朱莉さん連れて行きたいな。あの、冬樹を見る顔は——。
「あっ、いらっしゃーい冬樹くん。隼人、なんで来たの?」
あ、怒ってる。終わった。
「世話になる。これ、手土産だ。」
おお冬樹ナイス!美晴の怒りメーターが1下がった!やったね!
「あ!これこの前話してたマカロン!?ありがとう!おかーさーん!これ冷やしとくねー!勝手に食べないでよー!」
テンション高い今がチャンス!俺はすかさず手に持っていた紙袋を渡……す前にどっか行った。多分2階の冷蔵庫だな。
「美晴?あの「冬樹くん、バーチ・ディ・ダーマだっけ?どうやって作るのか教えてー。」
とてとてと彼女は階段を下る。ええ、すごく避けられてるじゃん。
「分かった。見ていれば分かるだろう。ゆっくりやるから覚えろ。」
教える、ってそういうことじゃないと思うぞ、冬樹。
「うっひょー!こんな美味いの店でも食ったことないぞ!?」
なんなんだあの動き。完全に機械の動きだったぞアレ。一個一個が同じ形で、ほんと機械の型でとった感じなんだよな。ほんとにおんなじ人間なのか怪しく思える。
「ほんとおいしい。簡単に作れるのがいいわね。」
もしかすると俺でも作れるかもってぐらいだもんな。
「おっと。これ以上は渡せんな。小分けでまた渡すからそれで許してくれ。」
俺が手を伸ばしもう一つ取ろうとしたのを、冬樹は見たのだろうか?それらを乗せたトレーを持ち上げ、冬樹はそれを用意していた袋に入れていく。今の季節と自らの名をかけているのか、雪の柄の綺麗な袋だった。
「冬樹、その袋は?」
俺は、その袋が無性に気になってしまう。
「これか?この柄のことだよな。これはな、あ……新堂の好きな季節だと聞いたんだ。彼女の大切な人と会ったのも、この季節なんだってな。」
冬樹は、心なしか微笑んでいるような気が、俺にはした。
「ありがとうな。」
そう言った冬樹は早々に帰宅して、この家には俺と美晴と、美晴の母親だけが残った。
「あの、美晴?」
俺はこれまで話しかけることすらできなかった美晴に、ようやく話しかけた。
「なに?」
oh.見るからに不機嫌ですね美晴さん。
「いや、今日ってホワイトデーだろ、その、プレゼントをな。」
俺はようやくその箱を渡すことが出来た。
「なにこれ。」
不機嫌ながら箱を開ける。
「あっ、これ。」
薔薇の造花はガラスの筒で包まれている。底の部分には電池を入れる部分があり、LEDによってその造花が照らされ、綺麗に映る。
「綺麗……。」
彼女は感嘆の声をあげこちらを見るが、すぐにそらしてしまう。
「その、ごめんな。俺、今日ホワイトデーってこと忘れてたんだよ。」
俺は正直に話すことにする。
「ほんと、ごめん。」
俺はしっかり頭を下げる。
「ふふっ。忘れてたって、ふふふ。」
いやマジで忘れてたんだって。笑うことなくない?
「いや、それは本当なんだって……」
俺は信じられていないのかと焦ってしまう。まあ、当たり前なんだけどね、そんなこと信じる方がおかしいでしょ。
「いや、信じるわよ。隼人はそういうちょっと抜けてる感じが可愛いんだもの。」
かっ、可愛!?
「ありがとうね。嬉しい。」
あ、この笑顔もそうだけど、やっぱ俺、美晴のこと大好きだわ。
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