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土曜日。


「なんでだ、なんであるんだ。いくらなんでも酷すぎるぅ!」


机に突っ伏してそんな事を言う隼人。


「毎週そうだろう、今更言うな。」

 

「でもさあ、中学ん時はなかっただろ?酷くねぇ?」


高校に上がってからは毎週土曜日も授業がある。といっても半日だが。


「他にやることも特にないから、俺はありがたいんだがな。」


代わりに夏休みや冬休みが少し長いのだ。まあやることと言えば予習と復習、あとは旅行くらいなもの。課題はそれらの邪魔になるので最初の一週間でかたをつけるが。


「やることいっぱいの俺には無理な相談ですぅー。」


「柊木とべたべた、加えて部活か。」


「そうだよ、俺には部活がある!ってことで、これ写させて。」


そういうと、今日の午後にある数学の課題のプリント(もちろん真っ白)を見せてきた。


「はぁ……。隼人、だから昨日電話してきた時聞いたのに……。それに冬樹君、距離を感じるから苗字はなしって約束どうしたの?」


気ががつけば隼人の後ろに美晴が。しかも先程の『柊木』をしかと聞いていたらしい。


いいぞ柊木。隼人にしっかり言え。


「美晴……昨日の電話、寝落ちするまで離してくれなかったのは覚えてないのかなー。」


「そんなことな……昨日はそうだったわ……。」


あっさりやられた。一撃だった。脆い。一撃くらい防御して欲しかった。


「てなわけで、おねがいしますよ。」


もはや逃げ道は存在しない。


俺は仕方なくプリントを見せてやるのだった。






午後になり、俺は隼人の家を訪ねる。


「今日作んのか?」


「……」


呆れてものが言えないとはこのことか。今日はホワイトデーなのに。周りでは男子がお返しをしていたというのに、自分の彼女からもらったものを返すことすら忘れているらしい。


「え、あ。は!?今日!?」


教えてやるととてつもなくびっくりして、飛び上がる。


「不機嫌モード突入前に言ってくれてありがとう!今から取りに行くわ。」


言わなくても良かったが、友人と呼べる彼らの仲が悪くなってしまってもやりづらいので、言うのが正しい判断だったようだ。


「そこのケーキ屋で何か買っていくんだが、そのあとでいいか?俺は手土産を買いに行くだけだから、一緒に来て欲しい。」


「別にいいぞー。早くしろ、行くぞ。」


俺は隼人と共につい最近入ってすぐ、そのあと出てきてしまったケーキ屋へ立ち寄ることとなった。








「いらっしゃ……しょうねん……。」


なんとそこには、スーパーのレジ係改め携帯ショップ店員の横川奏さんがいた。……一体いくつアルバイトを掛け持ちしているのやら。


「横川さん、ここでもやってるんですか、アルバイト。」


「えへへ、いやぁ、それほどでも。」


褒めているつもりはない。


「いくつ掛け持ちしてんすか、アルバイト。」


隼人は言外に呆れたという風を表しながら、そう聞いた。


「ん〜、五つくらい?」


驚いた。これを含めた三つだけでなく、あと知らないだけで二つも掛け持ちしているらしい。


「なんで正職就かないんすか?収入はそっちの方があるでしょ?」


「いやぁ、それは——「おい横川、何だべってんだ何買うのか聞け。」


奥の方から男性と思われる野太い声が聞こえる。


「あっ、そでしたね。すいませんセンパイ。」


彼女の敬語など初めて聞いた。まあ当然か。先輩にタメ口を使うのは気が引けるし。


「や、ごめんねぇ。はい、何買うのかな?」


ひらひら手を振ってヘラヘラ笑っている。なんなんだこの人は。


「あ、いや。僕は買いません。」


隼人はそう言うと俺を見る。


「こいつが買いに来たんすよ。」


「友達の家に行くので手土産を、と。えーと、これでお願いします。」


俺は陳列されているマカロンを指差し、頼むと、


「はいはいっと。3,240円だね。」


俺は、叔父が毎月送ってくれる10万円をほぼ使わないので、財布にはかなりの額が残っている。年末年始や長期休暇であったときに多すぎると言って返すくらいには。


「ん、一万円ね。6,760円のお返しでーす。じゃーねー少年たち。また会おーねー。」


俺は隼人に連れられ、別の場所へ向かう。


現在時刻14時35分。俺が作ろう決めたバーチ・ディ・ダーマがあまり時間をかけず作ることができるものであることを祈るばかりである。

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