38
「やあ、今日はどうしたのかな?」
「ここでもアルバイトしてるんですか。もしかしてこことスーパー以外にもアルバイトしていたり?」
「アハハ、ソンナコトナイヨ。」と棒読みで笑う彼女は、いつもならスーパーのレジ係の横川奏さん。
「ええと、あっ、そうそう。ここに来たのってもしかして買い替え?それとも新規?」
アルバイトばかりで正職はないのかと尋ねると、誤魔化すようにそう言った。もしかすると、アルバイトだけで暮らしているのかもしれない。
「ガラケーから買い替える形ですかね。これなんですけど。」
俺は8年前に買ったガラケーを差し出す。
「えっ、えっ。なにこの懐かしい機種。これ確か10年前の……んはっ!」
彼女は珍しそうに俺の携帯を触る。8年で色々と進歩しているのか、同じような機種は買った当初こそ見れたが最近では一人として見たことはない。たしかに「絶滅した」という表現も間違いではなかったのかもしれない。
「んー、なんか私歳食ってるなぁって思って絶賛傷ついてるとこなんだけど。まあ買い替えだと、そこの彼が持ってるやつは5000円くらい割引ね、黒髪の子のだと4000円、金髪の彼女のもかな。」
彼女のジョーク(?)はスルーしておく。
まあ叔父曰く「どれでもいいが使いやすいのにしておけ」とのことなので、値段よりも機能性について尋ねることにする。
「一番性能がいいのは?」
「あー、それは金髪ちゃんのね。」
ついに朱莉は【金髪ちゃん】と呼ばれてしまった。まあ、たしかに髪は金色に近いし、他に特徴といえば青藍の透き通った瞳ぐらいになってしまう。それよりか金髪であることの方があだ名としては適当な気がする。
「ベンチマークスコアも60万点超えてるし。やっぱそれがいいんじゃないかな?あーでも問題はお値段ね……。」
「それについては特に問題ありません。いいものを選べとのことでしたし、多少値段は目を瞑ってくれるそうです。」
何故こんないいものを買う必要があるかと聞いたら延々とゲームの話をされた。そこまで心は惹かれなかったし、勉強する方がマシだと言ったら、彼らは絶句していた。ついでに後ろから二つほど黒いオーラを感知した。一人は俺と同様に考えていたようで、「分かります!」と首を縦にぶんぶん。二人から引かれていた。
「じゃあ、登録おしまい。よかったわねー在庫あって!あ、でも家で彼女に手取り足取りの方が良かったのかな?」
ニヤニヤも笑う彼女は、朱莉を凝視する。
かああっと赤くなる朱莉を見て、俺に耳打ちする。
「あの金髪ちゃん、前言ってた子でしょ?」
「察しのいいことで。」
「あら〜、私だって好きでフリーターやってんじゃないのよ〜?資格取ったらこんなとこ辞めてやるわ〜」
どうやら彼女は何かの資格を取るために仕事をやめ、現在アルバイトで生活しているらしい。
「なんにせよ、頑張って下さいね、その試験。」
「あら、ありがとう。」
「それとですね。」
「どうしたの?」
「後ろに店長さんがいらしてましたよ。」
「〜〜ッ!?」
全部聞いていたのに、「金貯めたらこんなとこ辞めてやる」と言ったのだ。キレるのも仕方がない気がする。
「横川さん……少し話そうか。」
後日談だが、この後彼女は相当絞られたようである。
「わあ、冬樹くんが登録されました!」
俺はスマホを家まで持ち帰り、面倒な設定を終わらせると朱莉とLINEを繋いだ。
「まあ、滅多に使わないだろうがな。」
「あ、一応一ノ瀬君と美晴さんのも送っておきますね!」
随分とハイテンションな気がするが、それはいいとして。
「連絡先を送る?朱莉とはQRコードでやりとりしたからあいつらともそうなんじゃないのか?」
俺は初めて手にするものなので何も分からないのだ。
「はい、じゃあ見せますね。まず、冬樹くんとのルームに入ります。そうすると左下に+マークがありますね?」
彼女の言う通りにして見てみると、確かにあった。
「そこを押してください。」
ぽちっ。
「連絡先、というのを押すと、そこから連絡先を送れるんですよ。」
「おお、すごい。」
携帯電話の進歩に驚かされた俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます