35
今日は、一月二十八日の日曜日。朝食後少し話をしつつ、今日の予定を伝える。
「すまんな、少し出掛けてくる。」
「あ、はい。何処に行くんですか?」
「そろそろ父と母の命日だから、お参りに行こうかと思ってな。」
あの日、一月三十日。その日に俺は失ったのだ。親と、そして全ての感情を。
「私も、行きます。」
彼女はすぐに消え、俺が拒否する間もなく自室に入っていき、間もなく衣擦れの音がして俺は止めるのが出来なくなったと悟り、彼女が着替えを終えるのを待つこととなったのだった。
朱莉はや薄いグレーのチェスターコートに、それよりも少し濃いグレーのロングスカートを着て来た。このコーデで彼女の髪色が引き立てられ、俺は彼女が綺麗だと思った。墓参りには黒や灰色が望ましいとはいうが、俺だって黒のロングコートを羽織っているので少し被ってしまった感が出る。
「どうですか?」
少し長く見過ぎてしまったのかもしれない。彼女は俺が凝視しているのを気にしているのが見て取れた。
「似合っていると思うぞ。」
「そ、そうですか……ありがとうございます。その、冬樹くんもそのコート、似合ってると思いますよ?」
なんだか凄く嬉しそうだ。言葉の節々からそんなことが分かった。
「……それはありがたいが、とりあえず出発するから早くしてくれ。」
「……っは、はい。」
未だ顔を赤くしていたが、急いで靴を履き、外に出てくる。
電車内にて、席に座ったのだが。電車の中では話しかけ辛い。その気まずさを破ったのは俺ではなく朱莉だった。
「い、いつも思いますけど、冬樹くんって髪すごく綺麗ですよね。」
「服はどうとでもなるが顔と頭だけは毎日ケアしろと言われてな。最初にシャンプーもリンスもかなりいいものをもらったんだ。それの使い心地が良くてずっと使ってるが……もしかしてあれじゃ気に入らないか?」
女性も使う人がいるというくらいいいもののはずだが、やはりもっと高くていいものがあるのか?
「凄い使いやすくていいんですけど、ってそうじゃなくて!冬樹くんの髪質の話です!なんというか、すごくツヤツヤしてて見た感じサラサラで……。一回触ってみたいと言いますか、その……。」
ひとまずシャンプーは気に入っているようで安心だが、髪を触りたいと言ったのか、彼女は?
「髪を?朱莉も綺麗な髪だし自分のを触ればいいんじゃないか?」
「冬樹くんの!髪が、いいんです……。」
大声で俺の名を呼んだことで恥ずかしくなったのか、尻すぼみに声が小さくなっていく。遂には顔を覆ってしまった。手で覆われていない耳がとても赤くなっていた。
「あの……さっきのはなかったことに……。」
「髪ならいくらでも触らせてやるぞ?なかったことにするのか?」
「……お家でゆっくり触らせてもらいます……。」
いまいち朱莉が恥ずかしがる理由がわからないが。
「時間はあるからな。家に帰ったら好きなだけ触ればいいさ。」
俺はこの時の選択を後悔することも知らず、快諾してしまうのだった。
「さて、もう着くわけだが、どうして墓参りなんかに着いてきてくれたんだ?」
俺はようやく質問したかったことを聞くことが出来た。
「ここでなら、冬樹くんのお父さんとお母さんにお会いできるかなと。」
「同居していると伝えるのか?」
「はい。」
彼女は大きく頷き、にっこり笑ってみせた。
墓の前で手を合わせる。俺は水を墓石にかけ、朱莉よりも少し遅れて手を合わせる。
数秒そうして、顔を上げると朱莉はまたにこりと笑いかけてくる。その顔を見ているとまた笑みが出てくる。朱莉といると、自然と笑えるようになってきたのだ。朱莉には本当に感謝している。
「ありがとうな、朱莉。」
「またですか?この前も、何について言っているのか聞いても、『とても大きなこと』としか聞けませんでしたけど、今日こそはお家でゆっくり聞かせてもらいますからね。」
俺はこの言葉を聞き、この追求をどうやってかわそうかという方に考えてしまったのだった。
——後書き——
誤字脱字等あればおしえてください。調べて使いはしますが間違いも多々あります。教えてくれるとありがたいです。
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