33
「西園寺、少しいいか?」
堂島と約束した次の日。俺は帰り際一人でいた西園寺に声をかけた。
「ひっ、は、はい。」
やはり怖がられているのが正しかったようで、俺が彼を連れて教室を出るとき、彼は少し震えている気がした。
「帰りはどこなんだ?」
「電車で二駅行ったとこの一軒家だ。」
「意外と近いんだな。」
「ああ。」
やはり話し辛い。避けられている感じがするのだ。俺が黙れば必然的に静かになってしまう。まあ、駅へ向かっているわけだから人とは会うし、まわりは静かじゃないのだが。
「その……。」
彼は突然真面目な声でそう言った。ようやく彼から話が聞けるようだ。
「すまなかった!許して欲しいとは言わない、でも俺は、心から悪かったと思っている。」
突然頭を下げた彼は、周りの人にジロジロ見られていた。彼がその視線に気がついても頭は上がらない。彼の「心から悪かったと思っている」は正しいものだと思った。
「俺はもう、どうも思っていない。だからそこまでする必要はない。」
「たとえそうだったとしても、俺がしたかったからやったんだ。」
そこまでする必要はないと言ったのに、更に深く御辞儀をする。
「はぁ……。頭を上げてくれ。」
俺がそう言うと、彼はゆっくりと顔を上げ、こう言った。
「もし、もし良ければ。俺と友達になってくれないか?」
「……。なんでだ?」
俺は未だ友情や愛情と言われるものが分からないのだ。こういう目に見えないものは脆く、崩れやすい。親でさえ簡単に断ち切れてしまったというものだからこそ、俺はそれは信用できない。表面上は仲良くしていても、心の奥底では疑ってしまう。
「俺は憧れたんだ、北代のその優しさに。俺は、何もすることはできなかったけど、俺がどうして避けられているのか、それをどうにか出来ないのか、助けようとしてくれていたって、堂島が教えてくれた。」
「……。」
あの堂島という男は、周りが西園寺を避けている中、俺が何をしていたのかを伝える為に近づいたということなのか?それが出来るくらいなら問題自体を解決することだって可能だったはずだ。なのに、それをしなかった。きっと何か理由があるのだろうが、今の情報量では全く分からない。
話を戻そう。コイツは俺が何をしていたのか聞き、それに憧れを抱いた。それを近くで学びたいから、仲良くなりたいということか。
「いいぞ。」
「本当に、いいのか?」
「嘘を言って何になる。」
コイツや隼人、そして堂島。彼らからは何か学べる気がするのだ。もしかすると本当に友情や愛情が分かるかもしれない。彼らに望みを託すという面でも、俺はコイツと仲良くなるべきなのだ。
「これから、宜しく頼む。」
——冬樹の、片手で数えられる数の友達が、一人増えたのだった。
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