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一週間。俺は学校内で常に西園寺の気配を感じていた。そのせいもあり、今俺は非常にイライラしている。その憂さ晴らしとして、体を動かしたくなったので、体育で少し全力を出すことにした。


現在の体育ではバレーをやっている。教師は、「習うより慣れろ」がモットーらしく、細かなルールや動作の方法は動きを見てその都度私事しているようだ。……俺はそもそもあまり動かないためか、特に何も言われたことはない。


「よっし、それじゃチーム分けしてくれ。」


仲の良い者同士で彼らが固まった結果、俺は情けで一緒に居てくれた隼人と共に孤立した。


「北代をいれてやれ〜。」


体育教師の声で、三人だったグループに入れられた。


よく教室の後ろの方で『アニメ』の談義をしていた堂島光、佐伯晃一、木村宗治の三人と隼人、それに俺というチームが出来上がる。


「隼人君、その……北代君はどうすれば……。」


真島だったか、隼人に何か聞いている。他の2人は俺を見てビクビクしている。


「そんなに萎縮するなって、あいつはいい奴だから。普通にしてりゃ何もされねーよ。」


「う、うん……。」


何だろうか、非常に気になる。


「ホラ急げー!練習始めるぞ!」


しかしそれを確認する間も無く、チームごとに練習を開始する。




5人で円を描き、パスを回す練習。……俺は隼人からしかパスが来ない。


隼人の完璧なパスのおかげか、とてもトスしやすい。


堂島、佐伯、木村の順番でトスをあげる。真島ではなく堂島だったというのを、さっき体育着の刺繍を見て確認し直した。


次の練習に移行する直前。


「き、北代君、トス上手だね!」


堂島が駆け寄ってきて、声をかけてくる。確かバレー部だったか?こちらを見てそんなにビクビクしないで欲しい。


「そうか?ありがとう。」


「え、あ。うん。」


何だか拍子抜けしたような顔をしているが、よく分からないし特に聞くようなこともしない。


そして、グループごとの試合が始まる。


「じゃあ、レシーブはできるだけ僕がするね。」


堂島がそう言う。バレー部の彼がいるので、そういう面は全て彼に一任している。


「トスをあげるのはなるべく北代君と一ノ瀬君で。」


「おう。」


「了解。」


——とりあえず冬樹は返事をしたものの、内心では文句ばかりだ。


俺がトスをあげるのか、経験者でもないのに。攻撃するのに重要になる、セッターいう役割はチームでも上手い人が担うはずなのだが。隼人は運動神経も良い男だから分かるが、俺は今日になってようやく本気を出すような奴だぞ?


と考えているうちに、相手がサーブをしてきて、試合が始まる。






北代君は実はすごい実力者なのかもしれない。僕や晃一、宗治に対してトスをあげる時も、寸分違わぬトスで、思わず「すごい」と思い、声をかけてきてしまったほど。ウチの高校のバレー部は中堅レベルだけど、一度全国にも顔を出している強豪。そのセッターでさえここまで完璧なトスを上げたことはない。......まあそのセッターって僕のことなんだけど。


「はじめッ!」


いつも通りの大きな声で開始の合図。僕は腰を落としてボールが来るのを待つ。


「バシッ!」


ボールが光のところへ飛んで行く。かろうじて反応し、ボールを上にあげる。


「冬樹、いけ!」


一ノ瀬君が声を張り上げると、一瞬周りを見渡しボールのところへ向かっていく。


いとも簡単にボールをあげて、準備していた一ノ瀬君が相手コートへボールを返す。


相手は危なっかしくもこちら側へボールを返す。今度は冬樹君が最初にボールを拾う。


宗治がそのボールを受け取ると、僕に渡してくる。とてもアタックできるボールではないので、そのままトスをあげて返す。


今度は相手コートでミスが起きて、一点をもぎ取った。今度はこちら側のサーブ。


「バシン」


北代君の打ったボールは綺麗な弧を描き相手コートに落ちる。


あっという間に2点、3点と点を重ね、最終スコアは25-9という一方的な試合となった。




体を動かすのはやはりストレス解消になる。いつもそれほど動かない為少し息が上がっているが、十分体を動かせた。


「き、北代君、すごいね!あんなに上手だったなんて!」


堂島が俺にそう言った。でも俺はボールを拾ったりトスを上げたりしていただけなのだが。


「それは嬉しいが、俺はボールを拾ったりしていただけだぞ?」


「とんでもない!それが物凄かったんだから!あんなに上手くボールをあげて頭にトスするのが上手い人なんてそうそういないよ!」


ぐいぐいくるな、コイツ。


俺がちょっと引き気味になってしまう。彼はハッと我に帰った。


「ご、ごめん!僕、勘違いしてたみたいだよ。北代君はすごく優しいし怖がる必要なんて無かったよ!だよね、晃一、それに宗治?」


「うん!」「そうだね!」


待て。俺が男子から避けられていたのはもしかしなくても怖がられていたせいか?



——冬樹はようやく怖がられていることを悟ったのだった。

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