30
——更に数日が経ち。
「なあ、どうして俺、西園寺に目をつけられてるんだ?」
俺は西園寺がずっと近くをウロウロしていることについて朱莉に相談した。
「さあ、分かりません。何かしたいのでは?」
——ただ桐人は謝りたいだけなのだ。
「何をするんだ?仕返しか?」
「いえ、ほとんどクラスメイトからスルーされてますし、一人で敵わないのは分かっているとは思いますけど。」
彼が何をしたいのか、それさえ分かればどうにか出来るだろう。でも遠巻きにしかこちらを見ないのだ。俺が視線に気が付き目線が合いそうになると、すすすっと目線が外れていくのだ。
「多分敵対するつもりはないんだろう。敵意はない。そんな目だった。」
そう、彼からは全くと言っていいほど敵意を感じない。だからこそ気味が悪い。
「何がしたいのかわかりかねます。まあ様子見でも良いのではないですか?」
「そうだな、実害があるわけではないし、放っておくことにする。ああ、すまないな、勉強中に。」
「いえ、さっき区切りがついたので、大丈夫ですよ。」
では、とドアを閉めようとする朱莉。
「おい、待て。ご飯はどうするんだ。もう7時だぞ。」
瞬間、どこからか「ぐう」と音がする。さっと顔を赤くする彼女は、消え入りそうな声で、
「……食べます。」
と言った。
「で、美晴。突然俺を呼び出してどうした?」
隼人は美晴に呼び出され、彼女の家まで上がる。
「隼人、西園寺君の件だけれど。あ、これ、お茶。」
「あー、あいつか?なんかみんなに避けられてる気がするけど。ん、サンキュ。」
「その件でね、どうして彼が避けられてるのか知りたいな、と思って。」
女子の間では、彼の女癖が悪い事が広まった事で避けられているのは理解できても、男子にまで避けられる理由が分からないのだ。
「ん、ごく、ふぃー。んで、聞いたんだけどさ、あいつら全員、冬樹が怖いから話し掛け辛いって言ってたぞ。」
そう、西園寺桐人が避けられている最大の理由は、冬樹と敵対する事を恐れているからなのだ。
原因はやはり、桐人を一瞬で沈めた事だろう。運動神経も良く、一時期ボクシングを習っていた強者である彼を一瞬で倒した、体育に滅多に参加せず、参加しても本気など誰も見た事のない冬樹が怖いからなのだ。
「……?それだけ?」
「いや、うん、まあ。それ関連しかないな。」
また一つの理由として、彼らが戦ったその日、冬樹の体からは悍ましい殺気が放たれていたということもあった。
「じゃあ、今西園寺君が冬樹君の周りをうろついてるのは?」
「あー、あれね。本人に確認したわけじゃないけどさ、多分謝りたいだけだよ。でもアイツん中で、一度コテンパンにされたワケだから怖いんだろうな。まあ、冬樹が滅多にキレないってことわかってないあたり冬樹の交友関係の狭さが垣間見えるワケだが。」
「たしかに、一度明確な殺意を向けられた相手と話すなんて難しいわね。私はちょっと怖気付いちゃうね。」
要約するなら全て冬樹のせいでは?という彼らの結論は、ここに冬樹がいれば即行で否定しただろうが、生憎ここに来ることはなく、彼らの中でそのように結論づけてしまったのだった。
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