29
始業式から数日経った今日、教室内は1人を除いていつも通りだった。
「あ、おは……。」
クラスの全員に無視されている西園寺。それでもめげずに声をかけるなどしているようだ。昨日からそうだが、俺や新堂をチラチラと見てくる。何をしたいのかも分からないので、気味が悪いのだ。口に出すことはしないが。
「オラ、席につけー。授業始めんぞー。」
担任が教室にやって来ると、話をしていたクラスメイト達は蜘蛛の子を散らすように自席に戻ってゆく。
「きりーつ、れい。」
よく名前すら覚えていない学級委員が挨拶をする。
「「「おねがいしまーす」」
今日も、一点を除けば平和に過ごしたのだった。
「西園寺君、皆さんから無視されていますね。なんでなんでしょう。」
夕食時の話題は、クラスメイトである西園寺についてだった。
「元々あんな性格で、男子からはそんなに好かれるやつじゃなかったらしい。それが女子にも伝播したとすれば、あの反応も頷ける。」
「うーん、それだけじゃない気がしますけど……。」
自分たちが進んで避けているのではないで、事情は知らないのだ。
「まあ、俺はもう怒っていないからな、あいつがあそこまで避けられているのはかわいそうと思ってしまう。」
「お人好しですね。」
「……そうなのかもな。」
俺はそう言うと立ち上がる。
「食べ終えたらキッチンまで食器を持ってきてくれ。……別に早く食べようとしなくてもいいぞ。」
俺が立ち上がって「はやく」と言ったせいだろう、一気にご飯をかきこんで、むせている。
「けほっけほっ」
すぐ近くに寄って背中を叩いてやる。次第に咳が落ち着いてくる。それを確認し俺はキッチンでコップにお茶を入れて戻ってくる。
「ほら、朱莉。お茶だ、飲め。」
「んぐ、ん。ふう、ふぅぅ。ありがとうございました……。」
「もっと落ち着いて食べてくれ、そんなに慌てて食べて喉に何か詰まったらどうする。」
「……はい。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「もう、何にお礼を言ったのか分かってないのに返事しちゃいけませんよ。」
ふふふ、と笑う朱莉。
「いや、俺がお茶を持ってきた事だろう?」
「それもありますけど。もっと大きなことですよ。あ、食べ終わりましたよ。お願いしますね。」
話が逸れてしまい、その礼がなにを意味したものなのか聞きそびれてしまった。
謝りに行きづらい。なんとなく、返り討ちに遭った時の彼を思い出してしまい、なんとなく避けてしまうのだ。
「どうすりゃいいんだよ……。」
俺、西園寺桐人は1人になった。
無理もない、クラスメイトに対していじめまがいの事をしたのだから。いや、いじめまがいではない。あれはいじめと言っていい。俺はいじめをしたのだ。
「でも、俺を避けてる奴ら、なんか怯えてる気がするんだよな。」
とにかく、2人に謝罪しなければ何も解決しない気がするのだ。
「明日、誠心誠意謝りに行こう。」
今学期、何度目か分からない決心を固め、俺は眠りにつく。
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