10
西園寺桐人は憤慨していた。
「なんでお前が……!」
彼は自室にて壁を殴る。整った顔をしていて女子からの人気もあった彼は、今や醜く歪んだ顔をしていた。
「なぜ、なぜ朱莉ちゃんは僕を見てくれないんだ!あれだけたくさんのことをしたんだぞ!?アプローチだって散々かけた!北代を貶めて、僕が上になるように仕向けた!なのに、何故僕に……何故!」
そう言った行動全てが朱莉の好感度を下げているとは知らず、ただ自分の思う通りにいかないことに喚く彼の姿は、朱莉の目から見れば赤子同然に映ったことだろう。
「……そうだ!僕があいつから救ってあげるんだ!あいつから朱莉ちゃんを救わないと!」
嫉妬に狂った人間は、時に間違った答えを導き出す。たとえそれが目的にそぐわぬものであったとしても、今の彼とってには正しいもののように感じられてしまう。
また朝が来る。俺はいつも通り朝ごはんの用意を……。
「あ、おはようございます!」
ご飯は用意されていた。
「新堂……これは?」
「昨日、朝これを出すといいよって潤さんが作り置きして行ってくれたんです!」
畑中か。新堂には用意できないはずの朝食がこんなにも整っているのはそう言う経緯があったからか。
「そうか。感謝する。」
「感謝なら私じゃなくてあの二人にしてくださいね。」
「わかった。」
「私にも感謝していいんです!」
「そうなのか?」
俺は朝食を口に入れる。すると、少し違和感を感じる。
「少し塩辛い、か?」
「冬樹くんの味付けが完璧すぎるだけです!これくらいが普通なんです!」
何故か怒られた。完食した俺は、食器を洗い、制服に身を包み玄関へ向かう。
「じゃあ俺は先に出る。合鍵を渡しておくから、これで鍵を閉めてくれ。」
「分かりました。」
昨日、西園寺と思しき人物から手紙が来た。
『朝8時、校舎屋上にて待つ』
果し合いかと思ったが、彼のことだ、重い腰をあげてようやく俺に直接的な嫌がらせをしに来るだろう。ここで返り討ちにしておけば、これ以上まとわりつかれるのも終わりになる。そう思い現在歩いているわけだが
「寒い……。」
そう、今日は今シーズン最も寒い日なのだ。非常に行きたくない。
「……来てやったぞ。」
屋上は冷えるなあと思いつつ、目の前の男、西園寺桐人を見据える。
「やった来たか、悪魔め。」
「は?」
ライトノベルとかいうものの読み過ぎか。はたまた俺の聞き間違いか。
「朱莉さんを助ける為!正義の拳を喰らえェェェ!」
咄嗟にその拳をかわし、腕を掴んで関節をキメる。
「いっ!ああああああああ!」
彼は最初こそ抵抗したが、痛みに耐えきれずついにぐったりとしてしまう。
「昔に護身術を習っていた俺を襲撃するのは、馬鹿の所業だな、西園寺。」
昔、あることが原因で生活に支障をきたした為、叔父から紹介された先生と護身術を学んだ。その成果もあり、現在は特に生活で困ったことはない。
「くっ、どうして君が!どうして君が朱莉ちゃんと一緒にいるんだ!何故僕じゃないんだ!」
「さあな。自分のしたことを全て振り返って見るといい。それで、先生。これでいいですか?証拠になっていると思いますが。」
「何っ!?」
俺はここに来る前に、担任に言っていた。西園寺から嫌がらせを受けていることを。
「西園寺、少し話し合わないといけないようだな……。北代、すまなかった。」
「いいえ。表面上こそ彼は好青年でしたので、信用できないのも頷けます。」
俺に嫌がらせをしていただけで、他では至って普通の男子学生を演じていた西園寺。最初は話すら聞いてくれなかったが、ここまでの会話と行動を見れば嫌がらせをされていたことを信じる他ないだろう。彼は担任に連れられ、校舎内へ消えて行った。
「寒っ。」
とりのこされた俺はさっさと暖房のついた教室へ戻った。
翌日、西園寺の両親が西園寺を連れ謝罪に来た。
「愚息が本当に申し訳ないことをした。冬樹君、本当にすまなかった。」
「桐人!さっさと頭を下げなさい!」
「……ごめん。」
渋々と言った顔だったが、彼にもう二度と嫌がらせをして来ないことを条件に赦すことにした。新堂には俺の部屋に隠れてもらった為、見られることもなかった。
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