04









「ん?新堂に北代、お前らが遅刻ギリギリなんて珍しいな。」


担任がそう言ってくる。だが、それが彼女の作っていたものの後片付けであるなど言えるはずがない。俺は、


「すみません。これからは気をつけます。」


とだけ返す。


チラリとこちらを伺うような仕草を彼女は行ったが、すぐに担任の方を向くと、


「今日は申し訳ありませんでした。」


深々と御辞儀をした。


「あ、ああ。次から気をつけてくださいね?」


特に俺達が一緒に来たことなどには触れてこなかった。そのことに安堵しつつ、彼女に話しかける。


「新堂さん、明日からは俺がご飯を作ります。出来れば洗濯や掃除の方をやってほしいです。」


「はい、ごめんなさい。」


取り敢えず教室へ入っていく。


「おっ、今日は遅刻ギリギリかよ。」


「寝坊したんだ。気にしないでくれ、遅刻はしてないだろ?」


「ん、まぁな。それよりさ、朱莉ちゃんと来てるのは、偶然?」


必然だ、と言ってやりたくなったが、こいつにバラせばどうなるかよく分かっているので、何も言わない。


「ああ、たまたまだ。」


「ほんとかよー?」


こういう時無駄に察しがいいのだけは勘弁してほしい限りだ。


「北代君、少し良いですか?」


新堂。これ以上隼人の前で話しかけないでくれないかな。


「なんです?」


「こっちに。」


手を引かれて連れて行かれたが、男子達の視線が痛い。


そして廊下の奥の方で彼女は言った。


「同居していることは言いますか?」


「言わないですよ。男子に殺されますからね。」


あの視線から察するに彼女に好意を抱いているとかそんなとこだろう。


「じゃあ、そうしましょう。」


俺たちは時間を少しずらして教室へ戻った。





昼休み。


「ふ……北代くん、一緒にご飯食べに下に降りませんか?」


感づかれるようなことはやめろと言っているので、『冬樹』と呼ぶなと伝えてある。それを破りかけているのでつい睨みつけてしまった。


「新堂さん、こいつなんかより俺と行きましょ?ね、ね?」


綺麗とか可愛いとかそういった女性に目がなく取っ替え引っ替えしているともっぱら噂の、モテ男君だ。綺麗な黒髪が女子に人気らしい。名前は知らない。凄い圧だな、イエスって言わなければ無理にでも連れて行かれそうな感じがする。


「西園寺くん、あなたとは行くつもりないですよ。裏で女性を何股してるか私は把握していますよ?バラされたくなければ、ね?」


「ヒッ」


耳元で呟いた声俺や隼人にしか聞こえないレベル。隼人が聞こえていたのを確認したのは、彼が俺に耳打ちしてきたからだ。


「新堂さんこえーな。」


「彼がやっていることは同性としても気分の悪いものだったからな。」


「それもそうだなー。西園寺、どんまい。」


隼人が今名を知った西園寺君の肩をポンと叩くと、彼はわなわなと肩を震わせた。


「北代……。許さないからな……。」


何故か、怒りの矛先は俺なのだ。今の流れで俺を恨むのは違う気がする。無論そんなことは言わない。面倒だからだ。こういう輩ほど、絡むと面倒だということを、俺はよく知っている。


「そうか。」


だから、俺は何も言わない。


「北代くん、行きましょう。」


今度は男子全員から睨まれた。本当なんで俺が睨まれるんだ。


——朱莉と一緒に食べたいならそう言えばいいのにと思う冬樹だが、そもそも彼らには話しかける勇気すらないということを分かってあげて欲しい限りである。


俺と新堂は教室を後にする。






「あれでよかったん……よかったのか?」


俺は彼女にそう問うた。ちなみに今さっき食べる前に話しかけたら彼女から敬語をやめろと言われたので、2人の時はタメ口で話すことになった。


「四月からあんな調子ですよ?」


「本当か?」


「はい。」


もしかしなくても俺はクラスメイトの日常についてはおろか名前すら半年で覚えられなかったということになる。


「本当です、全く知らないことばっかりですね。」


「っ、まあそれはいいとしてだ。朝の弁明を聞こうか。なんだかんだ聞けなかったからな?」


「朝ご飯を作ってあげたくて……。それで気がついたらあんなことに……。」


事件当時の話を聞かせてください、と刑事ドラマにありがちなシーンを思い浮かべる。うーん、これは事件というなら事件なんだろうな、と思いながら話を聞く。


五分もかからず話は終わった。要約すると、俺に毎日家事をやらせるのは忍びないと思ったようで、せめて一日交代にしたら、と考えたらしい。


その結果これである。俺は昼食を食べながら頭を抱えた。


「取り敢えずご飯は俺が作ることにして、掃除機を毎朝かけるのをやってほしい。洗濯物や洗い物は、新堂さんの手が荒れるといけないから俺がやる。これでいいか?それと、新堂さんの下着類はどうしたい?俺に触られない方がいいだろうから、夕方にでも干してもらう形になりそうだけど。」


「しっ、下着……。冬樹くんのと一緒に洗って大丈夫です。そ、それに冬樹くんを信じてますから、一緒に干してください。」


顔を真っ赤にして言われても説得力がないということ、わかっているのだろうか。

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