02



「覚えていないんですね……。」


「何か言ったか?」


「なんでもないですよ。それで、スーパーに行くんですか?なら私が買い物してきましょうか?」


とてもじゃないが一緒に住めるようなほどのものが揃っているとは言えない。


「ま、待ってくれ。今叔父に確認をとる。」


「はい。」


俺はバックから携帯を取り出し、叔父へ連絡を入れる。電話はこの時間だと出ないことが多いので、メールを送る。


『新堂朱莉さんが同居すると言っています。どういう事ですか?』


数分待つと、返信が返ってくる。


『そうだ。今日から新堂朱莉さんと同居して欲しい。彼女の父から頼まれたんだ。よろしく頼む。』


本当のようだ。


「新堂さん、疑ってごめんなさい。でも同居か……。」


「お願いします。」


目の前で頭を下げられてしまい、その原因に俺が同居を嫌がっていることだと思っている彼女に、本当に困っていたことを口にする。


「俺は同居について反対してるわけじゃない、ただな。」


「ただ?」


「ほとんど人を泊めるためのものがない。」


「そのことですけど……。既に父が私の荷物をまとめているようですので、六時ごろに伺います。」


「ご飯はどうするんだ、食べてから来るのか?」


俺はこのあと買い物だ。二人分用意するのか、俺の分だけでいいのか、そこは聞くべきところだと思った。


「用意して貰っても良いですか?」


「分かった。」


俺と彼女は別れ、俺は商店街へ向かって行く。




「……。これと、これだ。」


今日は寒いので、鍋にしようと思い、八百屋に向かう。そこで野菜を購入する。


「おばさーん。」


「はいはい。大根に人参、白菜……。全部鍋に使うような具材だね。はい、七百円ね。」


俺は千円札を手渡すと、小銭を受け取る。


「そういえば今日は少し多く買っていくね。どうかしたのかい?」


「いえ、少し来客といいますか、人が増えるので。」


「そうかい。来客なのにお鍋とかでいいのかい?」


「クラスメイトなので、特に気遣う必要はあまりないと思ってます。


「はぁ。あなたがそれでいいならいいのだけどね...。」


俺は八百屋を後にする。次に向かうのは肉屋だ。


「おじさーん。豚バラ200と牛200でたのむー。」


「はーい。」


中から出てきたのはクラスメイト。


「げっ。北代……。」


「なんだ、河合。」


「よくここに来るってパパが言ってたのはお前か。」


「お前の家の会話内容はよく知らないが、まあよく買いに来るな。」


河合芽依。クラスメイトの女子で、俺の家のすぐ近くにいるらしいと隼人から聞いたが、まさか行きつけの肉屋のところにいたとは。


「はい。八百円だ。」


「いや、九百円だったはずだが。」


計算しても九百円のまま。俺が黙って考えていると、


「友達割引だよ、ありがたく受け取れっ!」


「河合は俺の友達だったのか?」


「んだよ、九百円に戻すぞ?」


割引してもらえるのはありがたいのでこれ以上は何も言うまい。


「いや、八百円で頼む。」


「ったく、お前ほとんど友達いねーから友達になってやるっつったのに。」


友達になるとは言われていないが、そんなことを言えば九百円どころか倍にされるのは分かりきっていることだ。


「ほらよ、豚バラ200と牛200だ。」


「ありがとう。また来る。」


「おう、また来いよー!」


俺は次に豆腐屋に向かう。




「はあ、緊張した。あいつ全く笑わねーから少し怖かったんだよなぁ。でも案外いい奴そうだし、これからも絡んでやることにするかぁ。」


芽衣はそう呟く。


「おねーちゃん、あの人ってこの前言ってた彼氏?」


「ちっ、違わい!」


「違うの?お姉ちゃんってびっちなのー?」


「アキ?一回シメないとダメなのかな?それにビッチってどっから聞いてきた?」


「おかーさーーん!ねーちゃんがあだだだだだだ!」


芽衣はそのまま秋斗のこめかみをぐりぐりとしながら、家の中へ消えて行った。








「おじいさん、豆腐二丁お願いだ。」


肉屋の後は豆腐屋だ。ここのおじいさんはとても優しくしてくれる。


「はいよ、豆腐二丁三百円ね。」


俺は小銭を手渡し、他に何か買い忘れているものがないか記憶を辿る。


「あ。スーパーで卵を買わないといけなかったんだ。」


俺は大急ぎでスーパーまで走る。


ものの5分でスーパーに到着。卵はもうほとんどなくなっている。


あと三個か……。二つ買う予定だったし、一つ残ってしまう。まあ三個あっても腐らせてしまうか。


俺は卵を二パックカゴに入れると、スーパーの中を回ることにした。


だが特に良さそうなものが見当たらなかったので、そのままレジに向かう。


「あらら、今日は少し遅かったわね。」


「ええ、商店街に寄っていたので。」


「そうねー、あの商店街、たくさん人が来るものね。ここより品揃えがいいところもあるし、ほんと楽よねー。」


このレジ係の若い女性とはよく会うので話を少ししている。


「はい、二百八十七円ですー。」


三百円を取り出し、お釣りを受け取ることにした。


「十三円のお返しですー。またねーしょうねーん。」


俺はスーパーを後にする。




帰ってすぐに風呂が沸いているのを確認する。毎朝欠かさずやることのうち、今朝やったかどうか不安だった、風呂の湯を張るためタイマー設置もあるのだ。おかげで温かい湯船で羽を伸ばすことができる。


「ふう。先に風呂をいただくことにしよう。」


洗濯物をカゴに放り投げ、洗濯物を回す。その間、風呂に入るのが習慣だ。


「はあ、今日からクラスメイトと同居なのか、しかも女子と……。」


俺が湯船に浸かってしばらくすると、少し外が騒がしくなる。


「まさか、もう来たのか?」


悪い予感ほどよく当たる。すぐにインターホンが鳴り、俺は慌ててしまう。


そこでふと、重要なことに気がつく。鍵を閉め忘れている事に。


気づいた時にはもう遅い。ガチャっと音がして、俺を呼ぶ声が聞こえた。


『冬樹くーん?鍵が空いていたので入りましたよー?』


ここで出ていくと俺は彼女と裸で遭遇することになる。出るに出れない状況が続くが、ここでついに洗面所のドアが開けられてしまう。


『あっ。いました!』


そう言うと彼女は浴室のドアに手をかけ、シャワーを浴び終えた俺と正面から向き合うことになる。


「〜〜〜ッ!?あ、あの。き、きょうきゃら+#@%#$@$!?」


噛みまくりである。最後は何を言ったのか全く理解できなかった。


そして彼女は洗面所から走って出て行く。


「初日から最悪だ……。」


俺はこれからどうなるのだろうか……?この先やっていけるか早くも不安になった俺であった。

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