勉強だけが取り柄の俺は学校一の美少女と同居している 〜どうしてこうなったのか、誰か説明してくれ〜
しろいろ。
01
『
『ドンッ!』
『キキィィィィィィィッ‼︎』
大切だった、彼のたった二人の2人の家族が消える。厳しかった父はもう彼と対話することもない。優しかった母はあの瞳で自分を見ることはない。絶望の後に残ったのは、多額の保険金だけで。
その日から少年は、終わらぬ悪夢を見、遂には一切感情を表すことも、なくなった。
「っはぁ、はぁ、はぁ。」
嫌な夢だ。父さんと母さんがいなくなったあの日から、時々見てしまうあの時の記憶。
「もう、六時か。起きないと。」
俺は息を整えベッドから抜け出すと、顔を洗う。社長令息だからと髪型や服装はしっかりしてくれと言われているため、俺の少し茶色がかった髪はいつもセットしてある。とまあ、寝癖を治す程度でいつもは終わらせているのだが。これはさておき、俺はすぐに学校へ行く為の用意をする。掃除洗濯調理と家事全般を朝に全てこなすにはいくら手際が良くても一時間半以上かかる。学校が近いおかげで登校も楽だから、家事は全て朝に済ませられる。
「今日は晴れか。洗濯物は外干しにした方が乾くか。」
一人暮らしにしては多くの部屋のあるマンション。つい先月に叔父から一人暮らしにと貸してもらった一室だ。もともと私物の少ない俺からすれば、学校のすぐそばのボロアパートでも良かったが、北代グループの令息がそんなところに住むなと言われたので仕方なくここに住まわせてもらっている。
洗濯物を洗濯機にかけたら次は朝食の準備だ。
「今日はご飯と味噌汁でいいかな。」
昨日はパンとスクランブルエッグだったので、今日は和風の朝食にするつもりだ。といっても作るのは味噌汁だけである。叔父から部屋を与えられた時、最低限の家事に必要なもの(炊飯器、冷蔵庫、皿類、調理器具、掃除機などだ)を貰っているので、前日に炊飯器を用意し、ご飯は炊いているのだ。
冷蔵庫から豆腐を出し、パックから取り出すとそのまま包丁で賽の目切りにし、乾燥わかめを水で戻す。あとはそれを鍋に順番に放り込み、最後に出汁入り味噌を加えて、煮えばなでネギを加える。
そうしたら一旦味噌汁は終了。次はお椀にご飯をよそうため、しゃもじを水で洗い炊飯器の蓋を開ける。ゆっくりとご飯をよそい、食卓につく。
「いただきます。」
少し急いでご飯を食べる。学校があるため支度をしなければならないのだ。
「昼食は、作っていくか。」
食堂を使うか迷ったが、あまり出費はしたくないので作っていくことにした。
だし巻きと鯖の味噌煮という昨日の残り物と今朝炊いたご飯を弁当箱に詰めたところで洗濯機が鳴る。
洗濯物は一人分しか洗濯しないので少ししかない。5分程度で済ませると、今度は水筒を準備する。最近は近所のスーパーで水を汲み、それでお茶を沸かしたりしている。
水筒に氷を入れてお茶を注いだ。これで学校の準備は終わりだ。その後は風呂を沸かすためにタイマーをセットする。今は寒いので尚更必要だ。特にやることもないので帰り際に買わないといけない物の確認を行う。八時前には家を出て、学校へ向かっていく。
校門前に着くと、後ろから声が聞こえる。
「おっ!冬樹ー!」
数少ない俺に話しかけてくれる友達、
「なんだ。」
俺がそう聞くと。
「いやー、今日はいつもより暗いオーラが滲み出ていたと言いますか。何かあったら聞くから教えてくれよー。友達だろー?」
「夢見が悪かっただけだよ。それにもう12月だ。寒いので俯いていたのがそう見えたんだろ。心配するな。」
「ほんとかー?そんなんじゃ済まないような負のオーラを纏っていたんだがなぁ?」
少し察しの良いこの男は、俺がこの総城高校に入学した頃から絡んでくる奴だ。俺に絡んでくるが、あまりズケズケと個人のところまで踏み込んでこないので、振り払うこともしづらい。
「気にするなって言ってるだろ」
「あっ。待てよー!」
スタスタと歩いていく俺を追いかけるように隼人はついてくる。もっと嫌そうな顔ができれば避けられるのだろうか。そんなことはできないが。
昼休み。
「なーなー。
「彼女持ちなのにお前はそんなこと言えるのか?」
「バカ、美晴は彼女じゃねぇ、母さんだ。それに朱莉さんは美晴と違った、その、いいところがあるだろ?」
「それは柊木に伝えても?」
「それはやめろ。」
隼人は母さんと言ったが、それは厳密に言えば間違いだ。『母さん』というのはあだ名で、本当のところを言えば母性溢れるただの17歳の女子高生だ。
「あれ、冬樹くんじゃない。一緒にご飯食べる?」
噂をすればなんとやら、教室のドアの前でこちらを窺っている。
「いや、隼人と二人っきりの方がいいだろう、俺は遠慮する。」
彼女は名を
そんなことはどうでも良いが、これで俺は一人である。黙々と昼食を済ませ、午後の授業に備える。と、ここでとても大変なことに気がつく。
「教科書が、ない。」
どうするのか正しいのか。忘れ物なんてあまりしないので狼狽えてしまう。
「
その狼狽っぷりを見兼ね、隣の
「教科書を忘れたんだ。」
「うーん、そうですね。私の教科書でよければ一緒に見ませんか?」
「ありがとう。じゃあ、先生にそう伝えてくる。」
そう言って俺は職員室へ向かう。
冬樹が職員室へ向かったことを確認した朱莉は脱力した。
「き、緊張しました……。やっぱり彼は、あの頃から全く変わっていませんね。一つ違うところといえば……感情表現を全くしないところでしょうか……?あら?お父様から連絡が来ていますね。今日から出張、それで今日からここに住んでほしい、ルームシェアになるが許して欲しい。相手は、北代、冬樹……。彼とですか……?うーん、たしかにそう言いましたけど、これで少しはお近づきになれるでしょうか……?わかりませんね。」
この一通のメールからだった。冬樹の生活が一変するのは。
帰宅直前。
「あ、あの。一緒に帰りませんか?」
新堂さんが話しかけてきた。なぜだろう。
「ああ。いいけど、どこまでだ?」
「その....。それは後で話しますから、一緒にこちらに来てくださいませんか?」
嫌な予感がする。叔父が絡んでいそうな、大変嫌な予感だ。
俺はその予感を胸に、新堂さんの後を追う。気がつけば校門から出て、俺の家の方面まで向かっている。
「......どうして俺の家の方に行くんだ?」
「......。」
無言である。
「俺はこの後買い物に行かなきゃならんのでな、急いでくれるか?」
「あ……。はい。ではもうこの辺で話さないといけないでしょうか。」
嫌な予感が的中しなければいいと思いながら、彼女の口から放たれる言葉を待つ。
「今日から冬樹くんとご一緒に住まわせていただきます、新堂朱莉です。これからお世話になります。」
ぺこりと頭を下げる彼女の言葉に、俺は驚く。
「え?世話になる?それに俺を名前呼び?初めてだな。」
少なくとも俺に、彼女とそんな親密だという記憶は存在していないのだった。
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