第12話 Overnight
羽田フライトは日本人の僕にとって毎回地獄のようなフライトだ。色んな場所から通訳として呼び出され、休む暇もない。特に日本の航空会社とコードシェア便になってからそのロイヤリティープログラムに加入している乗客がめんどくさいこと、めんどくさいこと。日本の航空会社はこうだぞと言われても「はぁ」としか答えることができない。ただ大体こういう乗客には「日本の航空会社さんはすごいですねぇ。え、もしかして日本の航空会社さんは……」と、どんどん聞き出してもっと「すごいだろ?」感を醸し出させるのが一番だ。自分がこんだけすごいんだと自分で勘違いし、それを褒める。そしてトドメに「今、前の方からお飲み物をお持ちいたしますね」と冷えたシャンパンを持っていく。楽勝だ。
ただ今日は同じギャレーにフライトパーサーの日本人クルーの先輩がいたので、難しい乗客には基本的にはその方が対応してくれた。とは言っても休む暇はなかった。しかも先輩からもらったTバックの様なケツワレを履いて初めて乗務したので、お尻の感じもなんだかいつもと違い、ずっと気になっていた。
羽田空港着陸前にサービスが終わってずっといなかった先輩が後ろのギャレーに戻ってきた。「あの客、まじない」と言いながら持っているトレーをワークトップに叩きつけた。その音を聞いた香港人クルーが一気にキャビンに出た。僕は「何があったんですか?」と先輩に尋ねた。
「いやさー、あの客、ミールチョイスが亡くなったからって、前からシャンパン持ってこいや、クーポンくれや、責任者出せや言ってきてさ。まじお前、エコノミーに座ってますから。しかもマニフェストで確認したらメンバーでも何でもなくてIDよ」
僕の会社は独身メンバーなら親と兄弟、そしてもう一人誰でもスタッフチケットに登録でき、九割引きで乗れる。そしてその人たちをIDと呼ぶ。
「え〜まじっすか? うざいですね。あの39Cですよね?」
「そうそう!」
今日の僕のサービスする範囲はそのIDが座っている逆側の通路を担当していた。でもサービス中に香港人クルーがめっちゃ何か言われているのだけは視界に入ってきていた。
「しかも終いにはお前の名前教えろ、会社にメールするからなとか言ってきやがって。いや、こっちが会社に報告して、あいつまじでブラックリストに入れてもらうわ」
「で、どうなったんですか?」
『「そうですか? それではこちらもその様に対応させていただきます」って言って帰ってきた』
清楚な顔立ちでモデルみたいなこの先輩と毎回飛びたい。
無事に羽田に着くと、日本人クルーも基本的にはクルーバスといって会社が用意してくれたバスに乗り込みそのままホテルに行くが、実家が東京近郊のクルーはそのまま直で帰ることも許されている。
僕はあらかじめブリーフィングで伝えていた内容をもう一度みんなの前で伝えた。
「I’m going back home directly tonight.(今晩は直帰します)」
「oh r u from Tokyo?(東京出身なの?) 」
「Yes Yes(そうです そうです)」
「so, see you in the airport day after tomorrow(じゃあ明後日に空港でね)」
こういう時、他のクルーが理由などを色々聞いてくるので東京出身でもないのに「Yes Yes」と答えた。みんなに手を振りながら、空港を後にし、僕は先輩が待っているホテルを目指した。
先輩からもらった部屋番号に着くとすぐに扉を開けてくれた。けど、中は真っ暗だった。かろうじて、廊下の光で先輩の姿が見える。白いシャツに新作なのか明らかに薄い黒いビキニブリーフを履いて、同じ色の薄い靴下をガーターを使って止めている履いている。
僕は一瞬、ここは本当に先輩の部屋なのかと戸惑った。
「早く入れよ」
先輩の声を聞いて安心した。ただこんなに先輩が変態だとは思わなかった。でも僕は欲情した。
先輩にされるがままに身をまかし、ベッドの上で四つん這いになれと言われ、従った。制服のズボンだけを脱がされ、僕の履いていたケツワレが先輩目掛け露出した。
「恥ずかしいよ」という僕に「いい子だ」と耳元で囁かれた。吐息と共に身震いをしてしまった。
「蒸れていい匂いだ、一樹」
「奏太……くん」
この夜僕は、忘れられない引退試合なのかと思うくらい興奮し、何度もドライオーガズムを味わった。
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