第7話 Go Around

「もう、竜二、ほんと恥ずかしいからやめなよ」

「いや、だってさ、飲みもん無料だしよ、別に頼んでも良いじゃんかよ」

「CAさん、最後呆れてたよ」

「いや、お前の方こそ失礼だったぞ」

「いや、何が?」

「コーヒーいるかって聞かれたのに、いいですって」

「それ失礼とかじゃないから。飛行機の中は眠りたかったの。竜二と香港でいっぱい思い出作りたかったから」

「く〜俺はお前が好きだ」


 二人だけの世界だったのか目の前で待っている僕たちに気づかず、通り過ぎようとした瞬間、松田先輩が声をかけた。


「竜二! 大地!」

「おう! 奏太じゃね〜か!」

「じゃね〜か じゃねえし。なんで目の前にいるのに気づかないんだ?」

「ハハハ すまんすまん。いや〜久しぶりじゃん」

「いや、最後に送別会で会ってからまだそんなに経ってないぜ」

「奏太くん、ありがとう。これ日本からのお土産」


 そういって大地さんはDuty Freeの袋に入ってある日本産のウイスキーを松田先輩に渡した。


「あれ、こちらさんは……奏太が香港で衝撃的な再会をしたっていう後輩くん?」

 竜二さんが僕の方を見て松田先輩に尋ねてきた。

「衝撃的ってなんだよ。覚えてない? 俺らが四年だった時にサークルに入ってきた一年の一樹」

「あ〜なんか記憶にあるような、ないような〜」

「あるある、俺、あるよ。でもちゃんと喋ったことはなかったよね? 俺、荒井大地。で、こいつが俺の彼氏の伊吹竜二」

「長瀬一樹です。よろしくお願いします」

「一樹くん、よろしく。今日はわざわざありがとう」


 僕たちはタクシーで竜二さんと大地さんが泊まるティムサーチョイ(TST)にあるシェラトンを目指した。助手席に松田先輩、僕、大地さん、竜二さんの順で座った。話を聞くと、二泊三日の旅らしく、明日は香港ディズニーランドで一日中遊ぶらしい。聞いている最中でも二人は喧嘩しているのかと思いきや、いきなり笑い出したり、褒めあったりしている。


「いつから付き合ってるんですか?」

「高校三かな」

 大地さんが指で三を作りながら答えてくれた。

「高三?」

 僕は声が裏返りながら指で数得た。

「長いだろ? こいつまじで可愛かったんで」

 竜二さんが大地さんの肩に腕を回した。

「竜二もカッコ良かったよね? 今はおじさんだけど」


 なんだかとても仲睦まじそうで羨ましくなった。僕も松田先輩となんて考えてたら、松田先輩が後ろをむいてきた。


「昼飯、何食べたい?」

「もち飲茶っしょ! 飲茶楼で〜めちゃ美味かろうを〜♫」

「マンゴープリン」

「オッケー、オッケー。じゃあ可愛い飲茶が食べれるYAM CHAにするか? ちょうどTSTだしな」

「それ、いい案だと思います。映えになりますし」

「大地、そこ行ってみたいって言ってなかったっけ? 良かったな」

「うん!」


 竜二さんがすごく温かい眼差しで大地さんを見ている。これが愛なのかな。


「ユー ジャパニーズ?」


 タクシーのおじさんがいきなり話しかけてきた。


「ジャパン ナンバーワン」


 僕たちは苦笑いしながら竜二さんだけが「イエス、イエス、ナンバーワン」って受け答えをしている。この時点で竜二さんがノリの良い人だと分かった。

 そんなことを考えている間にタクシーはホテルに着き、二人はチェックインをして荷物を置きに部屋へ向かった。松田先輩と僕ははロビーのイスに座って待つことにした。


「良い奴らだろ?」

「はい。でも、なんで違う大学だったのにそんなに仲良いんですか?」

「色々と相談に乗ってもらってたからな。悠美のこととか。ほら、あいつらゲイだから女の気持ちとか分かるんだってさ。特に大地は」

「そうなんですか。確かに僕」

「ん?」

「あ、いや、なんでもないです」


 危なかった。先輩がゲイに対して嫌悪感がないのを知ってか、危うく先輩に自分がゲイであることをカミングアウトしそうになった。


「まあ、世話になったし。俺も日本の友達に会うの嬉しくてさ」


 よくよく考えるとゲイに対して嫌悪感がないのか、あの二人の人間性に対してなのか、どちらかというと後者だろうなと考えた。


「あの二人、十年以上も一緒にいるのに、めちゃくちゃ仲良いですよね?」

「そうだろ? 愛し合ってるんだろうな。お前もそんな奴見つけろよ?」

「え?」


 何も言わず頭を撫でられながら、先輩は立った。先輩は僕がゲイだって気づいてるのかな。昨日の夢のこともあり、僕は少しづつ松田先輩を好きだった気持ちを思い出した。


「僕はあなたのことが好きでした。そして今、また好きになります」


 心の中で宣言します。

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