第6話 G DAY

 頭が痛い。完全に二日酔いだ。枕の横にズボンが綺麗に畳まれて置いてあった。なんで僕はズボンを履いていないのだ。酔うと脱ぐ癖もあるからかなと昨日の記憶を辿ろうとした。山登りをした後に先輩の家でピザを一緒に食べてたとこまでは覚えているのだが、その後の記憶がどうも曖昧という夢か現実かわからない。それがすごくエロかったのだけは覚えている。夢では先輩にお姫様抱っこされながらベッドに行き、仰向けに寝かされて、そのままズボンをずらされ、「一樹のエロい下着、もっと見せてくれよ」って言われて脚をあげられて……妙に現実味を帯びていたのだが、まあ……そんな都合の良い話があるか!と自分にツッコミを入れた。

 

「おはようございます」

「おはよう、一樹、お前も食え」 


 リビングに向かうと先輩はもうすでに起きて、朝ごはんを用意してくれていた。シャケ、納豆、サラダ、ご飯にお味噌汁…日本にいるような錯覚に陥る。正直二日酔いで気持ち悪いので食べる気は全くしなかったが、先輩が折角用意してくれた朝ごはんを無駄には出来ないとゆっくり頂いた。


「お前、酒弱いなら早く言えよ」

「すみません。あんま強くもないです。しかも昨日の記憶も全くなく……」

「そりゃそうだろ、ピザ食いながら話してていきなりバタって倒れたと思ったら、寝てるんだから」

「すみません」


 俺は味噌汁を啜りながら、また謝った。


「でも、なんかすげー懐かしくなった。一気に文化祭の打ち上げの飲み会、思い出したわ」

「え? あん時、僕酔ってましたっけ?」

「うん。超絶。あん時もいきなりパタっと倒れて、周りのみんながヤバいヤバいってなってさ。でも確認したら寝てたっていう」

「う〜ん、覚えてないです」

「ってことは、あん時、俺がおんぶして駅まで連れてってやったのも覚えてないのか?」

「え……」


 僕は絶句した。憧れでもあり片想いをしていた先輩にいつの間にやら失態をして、迷惑をかけていたなんて。そしてそのことすら忘れていたなんて。


「しかもよ、寝てると思ったら急に俺の肩で泣き出して『先輩憧れてました〜先輩好きです〜』って、ずっと先輩先輩って言ってんのよ。だから『先輩って誰だよ』って聞いても『知らな〜い』って」

「先輩、やめてください。いや、もう十分です。聞きたくないです」

 俺は恥ずかしさのあまり笑けてきて「そんな時代もありました」とさらに答えた。

「てかよく覚えてますね」

「いや、あれは忘れられねーよ。後輩ってやっぱ可愛いなって思ったもん」

「はぁ……」

「しかもお前、変わってなくて安心した」


 どうやらこの感じだと僕は昨日何かを発言したらしい。松田先輩は俺の頭を撫でながら、食べ終えた食器を僕の分まで片そうとしてくれた。さすがにそこまでしてもらうのは悪いを思い、僕は手伝おうとした。けれども先輩は「二日酔いだろ?」って言って、結局僕に何もさせてくれなかった。有難いのだが、ものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「じゃあ先輩、僕、もうそろそろ帰ります」

「え、もう帰んのか?」

「歯も磨かないといけないし」

「予備のある」と言いながら、歯ブラシを渡された。どこまで先輩にお世話になって良いのか。

「今日もフライトないんだろ?」

「ないですけど」

「けど? 予定あんの?」

「いや、ないですけど」

「次のフライトいつ?」

「三日後です」

「よし、じゃあ決まりだな」

「え?」

「今から空港行くぞ」

「え? なんでですか?」

「竜二と大地、迎えに行くぞ」

「ん? 誰ですか?」

「水城の奴ら。覚えてないか」


 俺は水城のと言われてすぐに思い出した。当時、僕達のバレーボールサークルは他大学の人でも参加でき、バレーボールが中心ではあったが、週によってはフットボールやバスケ等の違うスポーツもしていた。フットボールをする時は、毎回水城から四回生の二人が来ていて、なかなか強烈な人たちだった。いつも竜二さんが調子に乗って何かする度に、大地さんがすごい白い目で見ていて夫婦漫才しているような二人だったことだけは覚えている。でも、あの二人は付き合ってるっていう噂もあったけど、松田先輩が竜二さんと大地さんと仲が良かったなんて知らなかった。まあ、でも同級生みたいなものなのかな。いつも二人でいるか四回生の人といるかで話もしたことなかったし、迎えに行くのは少し気が引けた。


「覚えてます。けど、話たこともないし」

「大丈夫、大丈夫、あいつらめっちゃ良いやつだから」

「わかりました」

「よし、じゃあ準備しようぜ」

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