第5話 Clear Turbulence
エレメンツという香港の東側にある九龍駅直結のショッピングモールの上に聳え立つ高層マンションの扉を目の前に、僕は駐在という存在を少し恨んだ。香港の家賃はものすごい高いと有名で、場所にもよるが、例えば空港近くの街、Tung Chungで1LDKで最低十五万円はする。先輩が住んでるこのマンションなんて多分、中心部にあり月五十万ぐらいはくだらないだろう。ここに住むために僕はあとどのぐらいフライトを増やせばいいんだ、なんてことを考えながら、松田先輩とエレベーターに乗った。三八階に着くと、本当に同じ香港に住んでるのかと思わせるぐらい部屋までの床が磨き上げられていた。どこに靴を脱ごうか迷いながら、ドアを開けてくれている先輩に急がされ、結局ドアの前で脱いだ。
「あつ。クーラーつけるわ」
「はい」
「先、シャワー浴びて来いよ」
「お先にいいんですか? でも着替えが」
「用意しとく」
「すみません、ありがとうございます」
香港の部屋は大体似ているので、どこにお風呂があるのか分かっていた。けど一応失礼のないように先輩に聞いた。「そこ」っとドアを指差され、僕は先輩の指の先にあるドアを開けた。さすが月五十万円もする家だ。まるで高級ホテルだ。基本的にどこもトイレと風呂が同じ空間にはあるが、香港では珍しい洗い場があった。僕は汗で少しだけ重くなった服を脱ぎ真っ裸になった。トイレの対面には洗濯籠があり、いっぱいなのか、昨日先輩が着ていたであろう服が無造作に洗濯籠の蓋の上に置かれていた。僕は自分の目を疑った。一番上にジョックストラップというスポーツ選手が陰部の揺れや動きを防ぐためのスポーツ用サポートがあった。ブリーフのお尻の部分の布だけを剥ぎ取った感じだ。通称、ケツワレ。少しだけ先輩に対して性欲がかられたが、先輩はノンケだと自分に言い聞かせた。でもなんでケツワレなんて履いてたんだろうとだけしか考えられずシャワーを浴びた。
身体を洗ってると先輩が「開けるぞー」と言いながらドアを開けてきた。俺は咄嗟に股間部分を隠した。ガラスだけで仕切られている洗い場は丸見えだ。
「なんすか?」
「タオルに着替え、ここに置いとくぞ」
「ありがとうございます」
先輩は俺の方を見ようともせず、洗濯籠の上にあるケツワレを含めた洗濯物をガバっと床に起き、タオルと着替えをそこに置いてくれた。去ると同時に床にある洗濯物を「よいしょ」と言いながら持っていった。
僕はシャワーを浴び終え、先輩が用意してれたタオルで身体を拭き、着替えを手に取ろうとした。そこには日本の一流下着会社のパックに入った真新しいケツワレが用意されていた。俺は袋から出し、マジマジと見た。通常、ケツワレはケツ部分に真ん中のラインはないのだが、これにはTバックのようにある。ただ俺は先輩のアバクロのハーフパンツに直で足を通せないと思い、そのケツワレを履いた。Tシャツは大学祭の時に、サークルで作ったやつだった。
「お先、ありがとうございました。先輩。これ懐かしいですね」
俺はお腹の部分にあるTシャツのロゴを少しだけ引っ張るようにして先輩に見せた。
「だろ?」
「じゃ、俺入るわ」
シャワーを浴び終え、僕の前に登場した先輩は整髪料で上げていた前髪が下におりて、雰囲気がガラッと変わった。大人びたイメージから少し少年の面影が垣間見れた。男はいつまで経っても少年だとテレビで誰かが言っていたことを思い出した。
「あと十分ぐらいでピザくるから。一樹、ピザでよかったよな?」
携帯を見ながら言われ、僕は頷いた。夕飯よりも初めて履いたこの下着が少しお尻に食い込みが気になった。ソファーに座りながら何度も下着のポジションを直し、モジモジしていると先輩は何かを悟ったのかのように聞いてきた。
「一樹、どう? その下着」
「なんか、変な感じです」
「ごめんな、新しいのそれしかなくてよ。俺の会社の試供品でよ」
「大丈夫です」
「なんかすごいの作ってますね」
「一応、スポーツ用だからさ、俺も履いたりはしてるんだよね。しかもいつの間にか慣れてよ、楽なんだよな」
先輩がズボンをいきなりずらし、履いてるのを見せてきた。下着より僕は先輩のモッコリに目が釘付けになってしまった。
「おいおい、そんなに見んなよ!」
笑いながら怒られた。
「すみません」
「いいって、いいって。気に入ったら試供品なら色々やるから言ってな」
僕は自分の膨らみをなんとかバレないようにするのに必死だった。
ピンポーンという呼びりが鳴った。
「お、ピザ来たな」
先輩は受け取ったピザをソファと壁に掛けられているテレビの間にあるセンターテーブルに置き、冷たい缶ビールを冷蔵庫から取り出して渡された。先輩が「どっこらっしょ」と言いながら床に座るので、俺も床にあぐらを組みながら缶ビールを開けた。先輩と向き合いながら食事をするといつも緊張してペースが早くなる。そして運動の後のビールは格段に美味しい。空いたら先輩がどんどん酒を持ってきてくれる。そんなに強い方ではないが、先輩に勧められると断れない。そんなこともあり、飲みすぎた僕はいつの間にか先輩のベッドで朝を迎えていた。
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