第257話 地下五階の蛮族達 2


 ウィルが化け物を殺害したあと、他の騎士達もウィルに続けと奮起する。


 一対一では敵わない。だが、こちらには騎士団の訓練で培った連携プレーがある。騎士達は槍で化け物を牽制して勢いを殺し、その隙に剣を得意とする騎士が横っ腹から突っ込んで行く。


 脇腹を斬り裂きながら駆け抜けて、逆方向からも騎士がまた脇腹に剣を突き刺した。二人目の騎士は脇腹に突き刺さった剣を離すと、腰からもう一本抜いて背中に突き立てる。


 彼が突き立てたのは心臓の裏側だ。人型ならば人間と同じく心臓を破壊すれば死ぬかも、と思ったに違いない。


 結果的には心臓部に剣を刺しても死ななかった。だが、口から大量に赤い血を吐血して動きが遅くなる。こうなってしまえばこっちのものだ。


 重装兵が頭部をメイスで殴打して、続く騎士が首を狩る。化け物の首が宙を舞い、二体目が地面に沈んだ。


「グガァァァッ!」


 二体目が倒れたあと、さすがに蛮族達もマズイと思ったらしい。イノシシに騎乗したまま吼えるように声を上げながら俺達に槍を向ける。


 俺達を殺せと言っているようで、彼等を押せるイノシシが突進体勢を取った時だった。


「これでどうだ!」


 レンが化け物に向かって魔法を放ち、雷が化け物を黒焦げに変える。一撃で化け物を仕留めたレンだったが、彼を見て声を上げたのは俺達よりも蛮族達の方が早かった。


「マジィック!」


「マジィック!?」


 今にも走り出そうとしていたイノシシを制止させ、レンを指差しながら「マジィック! マジィック!」と連呼するのだ。


「なんだ?」


「レン君を見て動揺しているのか?」


 急に騒ぎ始めた蛮族達を見て、俺とベイルは顔を見合わせた。レンの魔法を見て動揺しているのか? それとも魔法使いの存在自体に動揺しているのだろうか?


 ただ、蛮族達は退こうとしない。リーダーと思われる蛮族が槍投げの要領で槍を構えて――


「キル!」


 物凄い勢いでレンに向かって槍を投げた。投擲された瞬間、俺は体を動かした。身体能力を向上させて槍に追いつき、腰から灰燼剣を抜いて槍を弾き飛ばす。


「あっ」


「大丈夫か!?」


 呆気に取られていたレンだったが、俺の質問には無言で頷いた。急に自分が狙われだして驚いているようだ。


 その後も蛮族達はレンに向かって槍を投げ続ける。どうにも奴等はレンを「最初に殺すべき敵」と認識しているようだ。灰燼剣で槍を防いでいると、盾を構えた重装兵達が俺の前に割り込む。


「アッシュ殿! 防御は任せて下さい!」


 ガツン、と盾を貫通した槍を受け止めつつも、重装兵達は踏ん張って攻撃を耐え続けた。耐え続けて、相手の投擲が終わった瞬間に「今だ!」と叫ぶ。


 後方からは魔導弓の一斉射が始まり、同時に俺は矢と共に蛮族へと突撃していく。


「アッシュ!」


 途中でベイルから新しい魔導剣を受け取り、右手には灰燼剣、左手には魔導剣と二刀流スタイルで突っ込んで行った。


 魔導弓の矢は蛮族達に降り注ぎ、一部の矢がイノシシの体に刺さる。だが、ほとんどの矢は蛮族達が持つナタのような刃物に打ち払われてしまった。


 炎の矢を刃物で打ち払うのには驚いたが、接近までの時間は十分稼げた。蛮族達の中に突入した俺は、まず右手に持った灰燼剣を振るう。


「ギャ!?」


 俺の灰燼剣を受け止めようとナタを振り抜くが、灰燼剣に当たった瞬間に相手のナタが灰に変わる。それを見た蛮族が慌てふためくが、左手に握る魔導剣で胴を斬り裂いた。


 蛮族の脇腹から血が噴き出し、悲鳴が上がる。俺は構わず走り続けて、灰燼剣と魔導剣の両方で攻撃を続けて行った。


「続けぇぇ!」


 後に続いたのはウィルとレンだ。


 ウィルはバトルアクスを振り回してイノシシの首やら蛮族の胴やらとにかく斬って斬って斬りまくる。バトルアクスを振り回しながら暴れるウィルは竜巻のように蛮族達を荒していく。


 勢いを完全に削がれたあと、追い打ちを掛けるのはレンだ。魔導杖を使用しながら細かく魔法を放ち、的確に蛮族を殺害していく。


 残っていた豚っ鼻の化け物も忘れない。レンの魔法で黒焦げにされ、もう一体はウィルによって首を刎ねられた。


「アッシュ達に続け! ここで仕留めるぞ!」


 ベイルも騎士達に指示を出し、俺達は蛮族達を追い込んでいく。残り数人となったところで、俺は勝利を確信していたのだが――


 ブォォォォォッ!


 遠くから角笛の音が鳴り響く。音の方向に顔を向けると、気付けば別の一団が俺達を睨みつけていた。


 数はざっと見て千を越えている。その後ろには百を越える化け物までいるのだ。


 ……さすがに多すぎだ。正面衝突を起こしたらどれくらい被害が出るか未知数である。


「…………」


 千を越える蛮族達の先頭に立つのは全身黒い金属、ゴーレムの外装を鎧として身に着ける蛮族だった。奴は肩に大剣のような武器を担いでいるが、よく見るとそれはゴーレムの腕みたいだ。ブレード状になった腕を大剣代わりにしているのだろう。


 奴は俺をジッと見つめてきて、肩に担いでいた大剣を向けてくる。


「俺とやろうってのか?」


 俺も相手に睨みつけて呟くが、当然ながら相手には聞こえないだろう。仮に聞こえていても言葉は理解されなかったと思う。


 だから、俺も態度で示した。灰燼剣を相手に向けると、相手は何事かを吼えるように叫ぶ。奴が言葉を発し終えると、後ろに控えていた蛮族達は一歩、二歩、と下がっていくのだ。


 代わりに大剣を持った蛮族が俺に向かって歩み出す。どうやら一対一の決闘を望んでいるようだ。


「アッシュ」


 俺はベイルを手で制し、同じように蛮族に向かって歩き出した。


 良いじゃないか。受けてやろう。


 決闘を望む蛮族を倒したあと、どうなるかの保証もない。ただ、一対一で勝てば退いてくれるかもしれない。となれば、お互いに無駄な犠牲を出さずに済む。


 勝手な妄想かもしれないが、そうなるよう賭けてみた。


「○×◇◇△」


 お互いに距離を詰めていくと、蛮族が途中で立ち止まって大剣を構えた。構えながら何か言葉を発したが理解できない。


 とにかく、構えている以上は戦う意思アリってことだ。


「どうなるかな……」


 俺も灰燼剣を構えて、相手の挙動を見逃さぬよう集中し始めた。

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