第202話 東側地下調査 五階での戦闘
棍棒と盾を持ったキノコ達は、キノコ戦士とでも呼ぶべきか。
キノコ戦士達との戦闘に参加した俺達は、中央に陣取る重装兵と連携しながら後方へ行かせぬよう戦い始めた。
『ムー!』
鳴き声を上げるキノコ戦士達は重装兵と俺達を前にしても果敢に攻めて来る。棍棒を振り回す勢いは強く、振り下ろした際は地面が抉れるほどの怪力を見せた。
「フッ!」
だが、本体の防御力は高くない。棍棒を躱した後に剣で体を切り裂くと、気持ちが良いほどスパッと斬れた。
なんだか……。巨大なエリンギを切ったような感覚を覚えるのだが、これは気のせいなのだろうか。
「こっちは終わり!」
隣からミレイの声が聞こえて、顔を向けると彼女は槍でキノコ戦士を串刺しにしているところだった。
見た感じ、剣よりも槍の方が戦いやすそうだ。リーチ的に有利であるという要素もあるが、本体に一撃加えただけで殺害できるってことも大きいだろう。
「こっちも終わりです!」
まぁ、極論言えば弓と魔法が一番手っ取り早い。ウルカの放つ合金製の矢では三発で仕留められて、レンの魔法は当然ながら一撃で仕留めている状況だ。
合金矢三発で仕留められるなら魔導弓を使うのは勿体ないか? いや、でも数が多いしな……。悩ましいところだ。
状況を観察しながら思案していると、群れは全て倒された。しかしながら、間髪入れずに新しい群れが出現する。
体感的には次の群れが出現する間隔が四階よりも早い。
『ムー!』
一息つく暇もなく、再び突撃陣形を形成して突っ込んで来るキノコ戦士。
先ほどと同じように中央をカバーするように立ち回り、三回、四回、五回……と群れを迎撃した。
五回目の群れを討伐し終えて、次はインターバルに差し掛かるかと思いきや――
『ムー!』
またもや間髪入れずに六回目の群れが出現する。
「休みなしか!」
四階層と全く同じというわけじゃないらしい。五回目の群れを討伐しても撤退のタイミングは与えられない。
六連続となる戦闘に対し、騎士達の口からは文句が飛び出るが……。ダンジョンは更に俺達を苦しめる。
『ムー!』
なんと、六回目の群れを完全討伐する前に次の群れが出現した。
中央にいた重装兵は残っていた五匹のキノコ戦士を慌てて倒し、奥から突撃して来る新手の五十匹に立ち向かう。
何とか新手を受け止めて、俺達もフォローしながら数を減らしていくが……。
『ムー!』
「またかよ!?」
今度は半数を減らしたタイミングで七回目の群れが出現。どんどん出現する間隔が短くなっていき、次第に戦況は混戦状態になっていく。
中央の重装兵は大盾で攻撃を受け止めながらも応戦を続け、彼等の後ろからは槍を持った騎士達がフォローに入る。最後尾からは魔導弓の一斉射が飛んで来て、左右から抑え込むように俺達と女神の剣が攻撃を差し込んでいく。
だが、俺達の殲滅速度よりも魔物が出現する速度の方が早い。倒しても倒してもキリがなく、常に半数が残っている状態で次の群れが出現してしまう。
途中から出現する群れは何回目のモノなのか分からなくなってきた。
「クソッタレが!」
指揮官であるロッソさんもとっくに剣を振るっている状態だ。彼は目の前の敵を屠りながらも細かく指示を出していて、彼の表情から察するに負担は相当なものだろう。
まさに体も頭もフル回転、といった感じ。
「ミレイ、ウルカ達の指示は頼む!」
ロッソさんや最前線の騎士達を見て、ここが踏ん張りどころだと感じた。俺はミレイにウルカ達の指示を任せ、身体能力を向上させた状態で前へ飛び出す。
「ウルカ、奥の一匹を撃て! 終わったらアッシュの援護に専念しろ! レンはとにかく奥を狙え!」
俺が奥へと飛び込んで行ったのを見て、ミレイは俺の思考を読んだのかと思うくらいバッチリな指示を出してくれた。
指示を受けたウルカは俺と線状にいる一匹を矢で倒す。これによって、俺が前に出るための障害が消え失せた。
ありがたい。これで心置きなく暴れられる。
俺は矢じりの陣形で突撃してくるキノコ戦士の横っ腹目掛けて突っ込んでいき、すれ違いざまに剣で斬り裂いていく。重装兵へと到達する前に何匹か減らしておけば、彼等の負担も軽くなるだろう。
その間に武器の交換や陣形を回復してくれると良いのだが。
なんて思っていたが――
「王国十剣一人に任せるな! 王国騎士の意地を見せろッ!」
そう声を上げたのはマックスさんだ。どうやら彼の心に火を点けてしまったらしい。
彼はバトルハンマーを振り回しながら俺の横に飛び込んできて、俺と同じく最前線で暴れ始めた。
「負けませんよッ!」
吼えるように気合の声を上げて、重量のある武器を振り回すマックスさん。
最前線で暴れまくる姿はまさに鬼神の如く。嘗て失った兄の背中を追う騎士は、立派な王国騎士へと成長したようだ。
己の怪我を顧みず、最前線に飛び込んで戦う姿を仲間に見せつける。仲間達を鼓舞するように戦う彼の姿を見て、俺はなんとも嬉しく思ってしまった。
「重装隊の意地を見せろォォッ!」
彼の姿を見た他の重装兵達も続々と最前線のラインを上げて来た。続々と出現するキノコ戦士達を受け止める――いや、もうぶつかっていく勢いで封じ込めていく。
最前線で暴れまくる重装兵のおかげで調査隊に蔓延していた雰囲気が一変した。
終わりの見えない戦闘に対して悲観的になるのではなく、自分達であれば絶対に乗り越えられると騎士達の気持ちが前向きになっていくのが彼等の叫ぶ声から感じ取れる。
「おおおッ!」
俺も負けてられないな。
騎士達の熱を感じたせいか、自然と笑みが浮かんでしまった。
真正面から突っ込んで来たキノコ戦士を斬り裂きながら、足に力を入れて次の個体に飛び込んで行く。目に映った奴等を斬り捨てて、気付けば残り二匹になっていた。
「――ッ!」
「だあああああッ!!」
俺が右。マックスさんが左。彼と同時に武器を振り下ろして、最後の二匹を無事に討伐。液状化していくキノコ戦士を目で追ったあと、俺は顔を上げて奥にある水晶を確認する。
宙で回転していた水晶は徐々にその速度を緩めていき、完全に停止すると台座へ収まるようにコトンと落ちた。
「……終わったか」
「……そのようです」
俺とマックスさんが言葉を交わすと、奥の壁がズズズと動いた。四階と同じく階段が出現したようだ。
「ふう……。お疲れ様」
「はい」
俺はニヤリと笑って握り拳をマックスさんに差し出した。彼もまた握り拳を作って、俺の手に当てながら応えてくれた。
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戦闘終了後、俺達は地面に散らばっていた魔石を回収していた。その途中、俺はロッソさんに呼び出される。
「実際、キツくないか?」
何が、とは問わない。彼が言いたいのはこのダンジョンの仕組みだろう。
「日付を跨いだら、またこの数と戦うんですよね」
「それが一番の問題だよな。これ、ハンター達が対応できんのかね?」
五階に出現したキノコ戦士の総数は何匹なのだろうか。群れが十を越えた辺りで数えるのを止めてしまったが、少なくとも六百以上とは戦った気がする。
しかも、五階に関してはインターバル無しだ。ぶっ通しで戦闘が続く。
現に戦い抜いた俺達は「調査隊」として十分な戦力と準備があった。しかし、一般開放された後に訪れるハンター達はどうだろう? ロッソさんの言うようにハンター達は対応できるのだろうか?
王国の騎士として、しかも指揮官を任されるほどの地位にいるロッソさんは、先の事まで考えなければならない立場にあるのだろう。
もしくは、そのあたりの事も報告してくれとオラーノ侯爵から命じられているのかもしれない。
「そう心配しなくとも、階層の仕組みを事前に説明してやれば対応方法を独自に考えると思うぞ?」
横から声を上げたのはターニャだった。どうやら魔石を回収し終えたことを告げに来た際に俺達の話が耳に入ったらしい。
「四階も五階も馬鹿みたいな数の暴力が続く。だが、事前にそう言っておけばハンター達も対応策を考えるだろう。パーティー同士が手を組んで取り掛かるとかな」
あまり心配しなくともハンターはハンターでやり方を考え、それを実戦していく者達だと彼女は言った。
自身のパーティー人数だけで対応できない階層ならば、他のパーティーと手を組んで合同攻略するのもハンター達にとっては「普通」のことだ。
しかしながら、ハンター達がやる気を出すに最も重要なのは「稼げるか否か」であると付け加える。
「ハンター達の行動理由は第一に金だ。十分な金額を稼げて、名声を得られれば申し分なし。誰もがアッシュのような輝かしい名声を得たいと思っている。でも、まずは何より金だ」
ハンターとなった者の多くは名声や名誉を欲する。俺が王国十剣となったように、夢と希望を追い求めて活動する者達が多い。
だが、まず第一に金だ。金が無ければ生活できないし、ダンジョンで使用する装備も買えない。報酬が美味しくなければハンター達は集まらない。
その例が第三ダンジョンだろう。あそこは魔物を倒しても報酬が「美味しい」と感じられないからハンターの数が少ない。
逆に第二ダンジョンは「稼げる」と噂になって、実際に報酬の額が高かったから人気が急増した。
「国に命令されればハンター達も義務感を感じて参加するだろう。だが、強制され続ければ不満が出る。不満が続けば問題に繋がる。だが、見合った金額を提示してやれば危険と知りながら飛び込んで行くのがハンターという人種だ」
「要は目の前に黄金をぶら下げてやれと?」
「そうだ。参加すれば死ぬかもしれない。でも、その分に見合った報酬が得られると分かれば大体のハンターが飛びつく。飛びついた者達が生き残るかは別としてな」
なんとも汚い話に聞こえてしまうかもしれないが、これが現実。ハンター達もそれは十分に理解しているだろう。
俺だって最初はそうだった。最初は生活費を稼ぐため、そこからどんどん国の調査に参加するようになっていった。
まぁ、調査に参加したのは騎士団長がベイルだったという点もあるが、それでも報酬が良い事や特別報酬が出るという説明を聞いて「美味しい」と思ったのも事実。
最近の俺は国側に関わり過ぎていて、その事実を忘れていたのかもしれない。
「その報酬を用意できるかどうかを見極めるのが国側ってことか」
そして、多額の報酬を用意してまでハンターを集めるか否かを判断するのが国側の仕事。今の俺達だってことだ。
「なるほど。参考になります」
ハンター側の思惑を知らぬロッソさんは、ターニャからの助言に感謝を告げた。
「まぁ、私としてはあまり心配はしていない。この魔石に利用価値が出れば、第四ダンジョンにはハンターが集まるのではないかな?」
そう言って彼女が差し出したのは、革袋に入れられた魔石だ。
この小さくともパワフルな魔石が「有益」だと判断されれば、王国は大量の魔石を欲するだろう。だとすれば、数を揃えるためにそれなりの単価を設定する。
それに惹かれたハンター達が集まって来て、自然とダンジョンは回っていく。
他にも西側に群生する花もそうだ。あの花の価値が高まれば人が集まる心配は無用だろう。
何にせよ、今後の研究次第なところでもある。
ターニャが仲間達の元へ戻って行ったあと、俺はロッソさんに顔を向けた。
「俺達が気にするには早い……とは言ってられませんか」
「ああ。団長から報告を求められているからなぁ~……」
やはりオラーノ侯爵からの命令か。
騎士も色々大変だ。剣を振るだけじゃく、国政に関することも考えねば――いや、待てよ?
もしかして、オラーノ侯爵が部下であるロッソさんにぶん投げたのか? いや、まさか。
だが、彼は「剣を振るだけならどれだけ良かったか」と前に言っていたのを思い出した。
頭を抱えるロッソさんには……。言わない方が良さそうだ。
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