第200話 増員到着


 人員増強が決定された翌日、東側地下四階で再び問題が発生した。


 問題が起きた時間は朝方四時頃だ。東側地下四階の入り口で待機していた騎士より報告された。


 その内容は――


「四階奥の鉄門が閉じた?」


「は、はい。鉄門が動き始める直前、水晶が光を取り戻しました。一瞬だけ光った後に鉄門は完全に閉じてしまいました」


 階段を隠していた壁の扉も閉じられてしまったかは不明であるが、何にせよ東側地下四階は初期状態に戻ってしまった。


 この状態から推測するに、またキノコとの連戦を行わないといけないのか?


 下の階へ向かおうとする度に連戦が続くとなると厄介な……。と、そこまで考えてから俺はある事に気付く。


 進む際は良いとしよう。連戦を突破できれば進める。


 だが、戻って来る時はどうなる? 毎朝四時頃に鉄門が閉まってしまうのだとしたら、日付を跨いで戻ろうした時は? 封鎖されて戻れなくなってしまうんじゃ?


 閉じ込められてしまった場合、また誰かが連戦をクリアするまで帰れない状況になるのか?


 その考えを口にすると、オラーノ侯爵と騎士達も「確かに」と頷いた。


「鉄門の向こう側に中へ戻れる扉などは無かったか?」


「無かったと思われますが……」


 となると、時間制限アリの一方通行に近い状況と言えるだろうか。


 誰かが連戦をクリアしてくれれば戻れると思われるが、それでも厳しい条件には変わりない。


「一応は検証しておくべきだな。仮に一般開放された際、ハンターの実力不足で閉じ込められたら事故に繋がる」


 仮に一組が突破して下層に行き、時間制限内に戻れなかったとしよう。


 鉄門を開けて欲しいが、後続のハンターが連戦を突破できなかった場合は閉じ込められてしまう。いつ開くか分からないし、地上へ戻りたいパーティーの中に怪我人がいたとしたら……なんて場合も想定できるだろう。


 そうなる前に戻れ、念入りに準備しろ、などと言うのは簡単だ。だが、検証を行って注意喚起するのは騎士団側である。


 第四ダンジョン解放後に犠牲者を量産させない為にも、想定できる事態への解決策も事前に用意しておかねばならない。


「だが、検証するには増員と大量の物資が必要だ。決行は十分な準備が整ってからとする。同時に下層の調査も進めよう」


 当面の目標はリセットが掛かる前に行けるところまで進行する。


 リセットが掛かる前に地下四階入り口まで引き上げつつ、数名は五階へ続く階段前で待機。鉄門が閉まったあと、五階側にいる者は自力で帰還できるのか否かを検証する事となった。


 既に増強に向けての連絡は終えている。あとは要求した通りの人手が集まるのを待てばよいだけ。それまでは地下二階の片づけや整備を進めてしまおう、という事になった。


 そして、この話し合いから五日後。オラーノ侯爵が要請した戦力が第四ダンジョンに集結した。


 集結した騎士の数は三百人。元々第四ダンジョン調査隊として参加していた数は百五十人。そこに三百人が加わって総勢四百五十人となった。


 更に王都研究所からも学者が増員された。各分野の学者達が五十名加わって、彼等は調査・現地研究の合間に雑務を手伝ってくれる。


 追加で届いた物資も大量だ。


 食料や飲み物、魔導兵器に使う魔石、調査に必要となるであろう道具など帆馬車七台を満載するほどの物資が届けられた。


 だが、一番の朗報は信頼できる仲間の姿があった事だ。


「ターニャ!」


 集結した騎士達の中に混ざっていたのは「女神の剣」である。リーダーであるターニャの名を呼ぶと、彼女達も俺に気付いた。


「やぁ、アッシュ。随分と苦戦しているようだな」


「ああ。既存のダンジョンとはちょっと違ってな……。結構厄介だぞ」


 俺の感想を聞いたターニャの表情が少しだけ強張った。だが、すぐに彼女は「望むところだ」と頼もしい返答をくれる。


「第二騎士団からも頼もしい人材が来ているぞ」


 彼女が後ろを指差すと、確かに顔馴染みの姿があった。    


「フラガさんにマックスさんか」


 第二騎士団から派遣された騎士の中にフラガさんとマックスさんの姿があった。彼等は王都騎士団所属の騎士から説明を受けるために整列しているが、こちらに視線を送って目礼してくれる。


 他にも第二ダンジョンの調査に参加したベテラン揃い。まさにダンジョンとの戦い方を熟知した者達が揃っていた。 


 これは頼もしい人選だ。ベイルが気を遣ってくれたのだろうか?


「最近、第二都市はどうだ?」


「平和だよ。少し前にネームドが出現したが、第二騎士団と共に討伐した。氾濫の予兆も無いし問題ないだろう」


 確か第三ダンジョンのネームドと同時期に第二ダンジョンでも出現したんだっけか。

 

 ネームドについて話を聞くと、討伐したのはターニャ達と騎士団の混成チームのようだ。 


「ネームドについてだが、少し引っ掛かる。第二と第三ダンジョンにネームドが同時期に出現したようだが、少し遅れて第一でも発見されたらしい」


 俺達が初耳なのは第四ダンジョンに篭りっきりだからか。

 

 ターニャ曰く、第一ダンジョンの下層でも金色に輝くカニ型のゴーレムが出現したらしい。問題無く討伐は行われたようだが、出現したのは俺達が第四ダンジョンへ向けて出発した頃のようだ。


 となると、他のダンジョンに出現したネームドとほぼ同じタイミングと言っても良いかもしれない。


「三ヵ所のダンジョンで同時期にネームドが発生した。これは妙だと思わないか?」


 発見された日時は多少の誤差がある。だが、関連性が無いとも言い切れない誤差だ。


「オラーノ侯爵閣下からは何か聞いていないか?」


「いや、まだ聞かされていないな」

 

 ターニャに問われるも、俺は首を振った。


 オラーノ侯爵達も外の状況は把握しているだろう。だが、俺はターニャから初めて聞かされた。


 問題視していないのは関連性が無いと見ているのか、それともまだ公表していないだけか。


「一応、話してみようか」


「ああ」


 俺はターニャと共にオラーノ侯爵がいる「司令室(仮)」に向かった。


 オラーノ侯爵はテーブルの上に紙を広げて、隊の編成について考えているようだ。その脇ではベイルーナ卿が報告書を睨みつけるように読み込んでいる姿があった。


「アッシュ、どうした? ああ、ターニャ嬢。来てもらってすまないな」


 ターニャは貴族式の挨拶を行いながらも「いえ、とんでもございません」と笑顔で対応。


「閣下。少し気になる情報が」


 彼女の挨拶が終わった後に俺はネームドについて語っていく。すると、オラーノ侯爵は既に報告を受けた後のようだった。


「ああ、既に報告は受けていた。報告を受けたのは、丁度アッシュ達が戻って来る前でな」


 既に情報としては耳に入っていたし、東側四階に向かう騎士達には「ネームドがいるかもしれない」と警告はしていたようだ。


 俺の耳に入っていなかったのは、俺とレンが魔力過多症でゴタゴタしていたからだったようで。体調不良に陥った俺達に余計な心配を与えぬよう話していなかったようだ。


 気遣いを聞き、逆に申し訳ない気持ちになってしまった。


「お前を頼りにしているのは変わらんよ。だが、例の花の件があるからな。慎重さが求められる」


 例の花が原因で貴重な王国十剣を失うわけにはいかん、と彼は告げる。


「予定通り東側から調査を進める。こちらは花が咲いていると報告が無いからな。お前とレンが参加しても問題なかろう」


 東側の下層がどんな構造なのか、例の鉄門についての検証などを調べていく。その過程で花を見つけた際は、ジェイナス隊は速やかに撤退しろと厳命された。


「花、とは何でしょう?」


 途中、ターニャが首を傾げながら問う。彼女はまだ花について知らないからな。


 オラーノ侯爵が紫色の花と花粉、それによる被害を説明すると、ターニャは話を聞きながら俺の顔を見てきた。目線で「大丈夫なのか?」と問うているようだ。


「大きな問題にはならなかったがな。念には念を入れたい。魔法使いが赴けない場所はターニャ嬢達が頼りだ。頼めるか?」


「勿論です。お任せ下さい」


 理由を知り、それならばと気合を入れるターニャ。第二ダンジョンの調査でも生き残った彼女達なら安心して任せられる。


「先ほども説明した通り、明日から最大戦力と大量の物資を投入して一気に東側を調査するつもりだ。アッシュ、現場での判断は騎士隊の隊長と話し合いながら下して欲しい」


「了解しました」


 人手と物資は揃った。あとは実際に調査するだけだ。 


 オラーノ侯爵の宣言通り、翌日には俺達と女神の剣、それに総勢二百名による騎士達の調査隊が結成された。


「全員、無事に戻るように。では、出発せよ!」


 オラーノ侯爵の号令を受けた俺達は、大量の物資を持って東側の調査へと出発した。

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