第128話 魔物とは? ゴーレムとは?
オラーノ侯爵率いる隊は、二十階へと引き返した。
途中、ターニャ達を含む予備部隊と合流。ターニャと合流した俺達は女神の剣に奥で起きた戦闘の内容を語りつつ、こちら側で異常が無かったかを問うた。
「こっちでは何も無かったな。退屈するくらい暇だった。しかし、奥でそのような状態になっていたとは」
人型ゴーレムや巨大ゴーレムとの戦闘について感想を返しつつも、彼女は更に質問をぶつけてきた。
「最奥に階段はあったか? 他に何があった?」
この質問に対し、俺はこの目で見たありのままを素直に伝えることにした。
「ターニャ達が待機していた広場の先にはゴーレムの製造所と思われる場所があった」
「ゴーレムの製造所……?」
見たままを伝えると、ターニャの眉間にはみるみる皺が寄っていく。
「つまり、ゴーレムはダンジョンによって製造されているという事か?」
「たぶんな。製造所がある以上、時間経過では復活しないと推測できる。今回、十字路付近でゴーレムと遭遇しなかっただろう? 恐らくは数に限りがあるんだと思うが……」
現在、二十二階で遭遇するゴーレム達は過去に製造されたゴーレム達。今は何か理由があって数を増やせない。よって、俺達が調査中に狩ってしまった分だけ遭遇率が落ちていたとも考えられる。
「製造所の奥にはゴーレムの格納庫らしき場所があった。更にその奥には青白く光る巨大な柱があって――」
「待て、待て」
奥で目撃した物を順に語っていくと、ターニャは俺の言葉を遮った。
どうした? と彼女の顔を見ると、彼女は心底意味不明だと言わんばかりの表情を浮かべて困惑していた。
「格納庫まではまだ分かる。だが、その次の巨大な柱とはなんだ?」
まぁ、そうなるよな。
「いや、詳細は聞けなかった。とにかく、天井が高い部屋に巨大な柱があったんだ。オラーノ侯爵は国益に繋がる物だと言っていたが……」
「国の……? ふむ……」
オラーノ侯爵が言っていた事をそのまま伝えると、ターニャは重要機密に関連する物だと察したようだ。それ以上の追及はしてこなかった。
「で、だ。俺達にとってはその先が重要だろうな」
「その先?」
「ああ。最奥には二十三階に繋がる階段があった。あったんだが、階段付近には謎の肉塊と派手に破壊された人型ゴーレムの死体があった」
現場の様子を語ると、ターニャが最初に発した言葉は「ゴーレムが他の魔物と敵対していたのか?」だった。
「分からない。だが、階段付近でゴーレムが戦闘を行っていたのは確かだろう。それと、破壊されたゴーレムの様子が殺された調査隊メンバーの遺体と酷似している」
体を両断された状態であった事を語ると、ターニャの表情が強張った。
「では、二十三階にいるのか?」
「恐らくな」
壊滅した調査隊が遭遇したであろう魔物の片割れは二十三階にいる。どうして二十二階で遭遇したのかは分からないが、彼等の敵討ちはまだ終わっていないのだと思えてならなかった。
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学者達を迎えに行って、改めて二十二階へと降りた俺達は奥を目指して歩き始めた。
途中途中で何度も学者達が足を止めては「ここは凄い!」だとか「他の階層とは全く違う!」などと騒がしく声を上げていたが……。
「「「 ………… 」」」
そんな騒がしかった学者達も透明な壁の向こう側にある製造所を見て一気に静まり返った。ほとんどの学者が口を半開きにしながら固まって、ようやく声を出したと思ったら「ファァァ!?」みたいな奇声を上げる。
凄まじい発見にテンションがイカれたのか。それとも衝撃で言葉にならないのか。
「なるほど。ううむ……」
ただ、一番騒ぎそうなベイルーナ卿は、逆に冷静な表情で少ない言葉を漏らす。彼は顎を手で撫でながら動くクレーンを見つめていた。
一体、何を考えているのだろうか?
「ロイ、この奥にも製造所があると言っていたな?」
「ああ。奥には頭部の無い人型ゴーレムが一列に並んでいた。そちらでも動くクレーンがあって金属を加工していたのだが、人型ゴーレムが完成して動き出す事はなかったな」
「なるほど。ああ、それと言っておくが、あの動いている物はクレーンじゃなくアームだぞ?」
「アーム? クレーンと何が違うのだ?」
あれも金属を持ち上げているではないか。そう言ったオラーノ侯爵にベイルーナ卿が「アーム」と「クレーン」の違いを懇切丁寧に説明して聞かせるが――
「結局、どちらも同じではないか?」
「いや、だからな? ……まぁ、よいわ」
上手く理解してもらえなかったようで、ベイルーナ卿は途中で諦めてしまった。いや、俺は理解できたけどね?
二人の話を聞いていたのもあるが、丁度良い機会だと思って俺もベイルーナ卿に質問をしてみた。
「質問なんですが、ゴーレムとは他の魔物と根本的に違うのでしょうか? 他の階層に出現する魔物は動物と同様に体が肉で出来てますよね。しかし、ゴーレムは体が金属です」
だから、魔物として違うのか? 以前、オラーノ侯爵が聞いたという「遺物と構造が似ている」といった件も含めて問う。
俺の質問に対して、オラーノ侯爵は「良い質問だ」と頷いた。
「アッシュの質問は王都研究所の魔物研究者達が未だ議論を続ける内容だ」
そう言って、彼は人差し指を立てた。
「魔物とは何なのか。我々が知る動物と同じなのか? それとも別物なのか? 命あるものとして見て良いのか? それとも違うのか」
俺の質問に対し、答えを出すのであればまずは「魔物」の定義から明確にしなければならない。ベイルーナ卿はそう語り出した。
「魔物は非常に不思議な存在だ。ダンジョン内にしか生息していないし、ダンジョンの外に出れば活動時間が限定されている。時間が過ぎればドロドロに溶けて腐り果ててしまうのだからな」
このような存在を俺達がよく知る動物等の生物と同じだと定義してよいのか。これはダンジョン制御計画初期に行われた議論の中で、最も白熱した議論の内容だそうだ。
敵を殺すには敵をよく知らなければならない。計画を進める中で当時の研究者達は魔物についてより深く調べ始めた。
魔物の肉体が腐る前に解剖を行い、魔物の
肉だって動物や人間と同じようなものだし、内臓だって存在する。違う点と言えば体内に「魔石」がある事と血が紫だったり、毒性を持っている点だろうか。
他にも人を捕食して食事を行うという行為は認められたが、繁殖行為は全く目撃されない点も特徴として挙げられた。
調べれば調べるほど、当時の研究所内での意見が「生物であるか否か」二つに割れたそうだ。
「とある学者は動物と類似点が多いし、人を襲って捕食する様子も見られる事から生物であると言った。しかし、別の学者は繁殖している様子が無いから違うと否定した」
生物か否かという二つの意見がぶつかり合う中で、当時のローズベル王国内に激震が走る。現在では「第一ダンジョン」と呼ばれている場所が新たに見つかったのだ。
「え? 第一が?」
話を聞いていて、俺は「第一」と名があるのに後から見つかったのか? と疑問を抱いた。
「ああ、現在では第一と名があるが、王国内で最初に見つかったダンジョンは第三ダンジョンだ。第一と名が打たれている理由は制御順じゃよ」
当初、最初に「ダンジョン」として見つかったのは第三ダンジョン――ダンジョン栽培が主流となっている場所が最初に見つかったようだ。議論が白熱したのも、第三ダンジョン内にいた「動物型の魔物が氾濫を起こしていたから」だとベイルーナ卿は語る。
ただ、第一ダンジョンが見つかって以降、素材の利用価値や研究対象として優先されたのが第一ダンジョンの方だった。故に発見された順番としては後であるが、制御と研究対象として重要視されたのは一番目。故に第一の名が冠されているという。
「少し話が逸れてしまったな」
ベイルーナ卿は話を元に戻すと、次に見つかった「第一ダンジョン」のせいで議論はより混乱を極める事になったと語り出す。
「新たに見つかった第一ダンジョン内にはゴーレムがいたのだ。生物であるか否かと議論していた当時の学者達は衝撃を受けただろうな。これまでは動物に似た構造を持つ魔物だったのに、今度は金属の体を持つ魔物が見つかったのだぞ?」
生物だ! いいや違う! と二つに割れていた学者達の間に「こんなヤツもいまーす!」と横から暴論をぶち込まれたようなものだろうか。
ゴーレムという存在を知った学者達はより一層「魔物とは何か?」という疑問に飲み込まれていく。
「結局、当時出た答えは『魔物』だ。我々が知る代表的な生物と似ているが違う。様々な種類がいて意味不明。謎に包まれた謎のモノだから『魔物』という定義が生まれた」
議論の結果、ダンジョン内に生息するモノは全て『魔物』と呼ばれるようになった。動物型だろうが昆虫型だろうが、ゴーレムだろうがまとめて『魔物』としたわけだ。
分からない、理解できない、謎が多すぎる。そういった理由から『魔物』という言葉に全てを押し込んでしまったのだと。
余談であるがベイルーナ卿曰く、魔物と呼ばれる前は「怪物」や「化け物」などと呼ばれていたらしい。
「で、だ。最初の質問に戻ると……。ゴーレムも魔物であるという答えは変わらない。だが、我々人間としての直感的にゴーレムは『生きている』と感じ難いだろう?」
確かに金属の体を持つゴーレムは他の魔物と比べても見た目が異質に映る。直感的に人や動物と同じく「生きている」と感じられない人がほとんどだろう。特に学者であれば猶更だ。
しかし、当時の王都研究所が大々的に「ゴーレムも魔物です」と発表したせいで、専門家達以外の間では「ゴーレムも魔物 = 他の動物型と同じ」という認識が根付いてしまった。
「ゴーレム発見後も議論は続いている。それこそ、未だにな。後に一度はゴーレムだけ総称を変えようと試みたが、ハンターや騎士の間で流行らんでなぁ」
一時、研究所内にはゴーレムだけ独立させて考えようという動きがあった。それこそ、生物的な意味合いを失くす試みもあったようだ。
しかし、騎士やハンター達の間では既に固定概念が出来上がってしまっていて、認識を改めようとしても浸透しなかったらしい。
故にゴーレムも魔物という枠組みから外せなくなってしまい、今では学者以外の者達――特にハンター達の中にはゴーレムも「生きている」という考える者も少なくはない。
……まぁ、確かにそうか。
俺もゴーレムってモノをこの目で見て、戦って、詳しく知るまでは「魔物」であると一括りに認識していた。むしろ、ダンジョン内に出現する化け物達全てを魔物であると疑う事すらなかった。
恐らく、専門家以外ほとんどの人間が俺と同じ認識を持っているだろう。
「お主の抱く疑問は尤もなのだよ。ゴーレムを知れば知るほど、他の魔物と比べて違和感を感じるのは当たり前の疑問だ。しかし、質問に対する答えは『魔物である』という回答が正しい答えだろう。生物とは思えんでも、魔物という枠組みの中にいる『何か』ではある。現状ではな」
ベイルーナ卿は『現状では』の部分を強調して言った。その理由は、以前にオラーノ侯爵が言っていた「遺物と構造が似ている」という点だろう。
そして、その予想は正しかった。
「実際、第一ダンジョンに出現するゴーレムと第二ダンジョンに出現するゴーレムは似て非なるものだと私は考えている。体が金属で作られているのは同じだが、内部構造はかなり違う。第二ダンジョンで発見された蜘蛛型ゴーレムやヤドカリ型は、過去に発見されている遺物と構造がかなり似ている造りとなっているのだ」
続けて、ベイルーナ卿は人型ゴーレムについても語る。
「特に人型ゴーレムは、これまで全く見た事がない構造をしておる。内部には人の背骨を司るようなパーツがあって、内臓に酷似した形の金属パーツまで備わっている。明らかに人を模した造りをしているのだが、あくまでも根幹には遺物に使われている技術が見られる」
その点について、ベイルーナ卿は疑問を覚えたようだ。
「どうして人に似せたのか。仮に戦闘能力を重視するならば、別に人型にこだわらなくてもよいと思わんか? 足が二本よりも四本あった方が移動しやすいと思わんか?」
他にも、もっと戦闘に特化したデザインはあるんじゃないだろうか? それこそ巨大ゴーレムやヤドカリ型のように多脚だったり、多腕だった方が優れているように思えないだろうか。
なのに、何故に人型が存在するのか。
何か理由があるのでは、とベイルーナ卿は語る。
「では、ゴーレムが魔物ではなく遺物の一種であるという説も正しくないのでしょうか?」
「難しいところであるな。直感的には生物ではないが他の魔物と同じようにダンジョン内に出現して人を襲う。しかし、遺物と構造が似ているからといって古代人が『道具』として作ったのかも定かではない」
そう言ったあと、ベイルーナ卿は「結局のところ、まだ謎に包まれている」と笑った。
「謎じゃよ。謎。本当に嫌になるほど謎が多い。ダンジョンも魔物もな」
まぁ、確かに何もかも答えが出ていたら更に研究しようとは思わないか。
今後の研究で判明した新事実によって、ゴーレムだけじゃなく魔物全体の定義も変わるかもしれないし、細分化も行われるかもしれない。今はそれを行っている途中であるといったところか。
「では、ゴーレムが他の階層へと移動しているという考えは?」
俺は以前考えていた事の答えをベイルーナ卿に求めた。
しかし、彼は首を振る。
「それについても現在進行形で議論が続けられている。第一にもゴーレムは出現するが、そういった行動は見られない。第二に出現するゴーレムに限定する習性なのかどうか……。まだ研究が必要だな」
やはり、答えは得られないか。
胸の内にはモヤモヤとした感情が残るが……。分からないと言われてしまっては、もう聞きようがない。
「さぁ、話はこれくらいにして次に行こう」
「あ、はい。申し訳ありません」
つい気軽に質問して時間を取らせてしまった。俺は謝罪した後に歩き出したベイルーナ卿に続く。
「…………」
しかし、俺の横には何かスッキリしない表情を浮かべるオラーノ侯爵の姿があって、それが何となく気になった。
その後、ベイルーナ卿率いる学者達は奥の広場へと向かった。
そこで巨大ゴーレムと眼球型の死体を調べ始める。テンション高めの学者達が死体を調べている一方で、ベイルーナ卿とオラーノ侯爵は王都騎士団所属の騎士達と『柱』の調査へ向かう事に。
俺達ジェイナス隊と女神の剣は彼等と共に途中まで同行する事になった。
「ここで警戒を頼む」
騎士数人とハンター組は最奥にある広場で待機となった。
「はい。お気をつけて」
柱のある部屋へ続く道を歩いて行く二人と騎士達の背中を見送った。
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柱のある部屋へと歩いて行くロイ・オラーノとエドガー・ベイルーナ。彼等は王都騎士団所属の騎士達に先導させながら、最後尾よりも更に後ろを歩いていた。
「……エドガー。先ほどアッシュと話していた件だが」
騎士達に聞こえないよう、ロイは小声で話し出す。
「うん? ゴーレムについてか?」
エドガーがそう返すと、ロイは静かに頷いた。
「直感的に生物であると感じ難い、と言ったな」
「うむ」
「では、過去に出現したゴーレムについてはどう思っているのだ?」
ロイの発言に対し、エドガーは沈黙した。彼は黙ったまま、顔だけをロイに向ける。
「昔、私は魔物に対抗しようと過去の記録を読み漁ったことがある。その中にゴーレムについての資料もあったが……」
「資料の中に『ゴーレムの装甲を剥がすと人間と全く同じ臓器があった』とでも書かれていたか?」
エドガーの言葉に対し、今度はロイが静かに頷く。
彼が昔読んだという資料。
その中には、ダンジョン制御計画の初期に第一ダンジョン内でゴーレムに遭遇した騎士団の報告書が添付されていた。
遭遇した騎士隊はローズベル王国にとって『歴史上、最初にゴーレムと遭遇した者達』である。
当時の騎士達が遭遇したというゴーレムの外見は今と同じであった。外から見れば金属の体を持った魔物。
姿については、当時の報告書に『上半身は人型で下半身は蜘蛛のようだった』と記載がある。
戦闘を行った騎士隊は多数の死者を出しながらもゴーレムに勝利。騎士隊は王都研究所の指示もあってゴーレムの死体を確保。まだ収納袋が開発されていなかった事もあるが、持ち帰り易いようにその場でゴーレムを解体し始めた。
その際、上半身である人型の金属部分――ゴーレムの腹を割ると、中には人と同じ形をした
つまり、現在出現しているゴーレムとは違って「全てが金属で作られている」とは言い難い内部構造をしていたのだ。
それだけじゃなく。騎士隊との戦闘中にゴーレム同士が謎の声を上げて「会話らしき行為をしていた」という報告まで書かれていた。
当時から『魔物』が生物か否かという議論は交わされていたのも事実。ゴーレムの登場で議論が混乱を極めたのも事実である。
だが、当時の混乱を語るには少し抜け落ちている部分がある。それはアッシュに語られなかった内容だ。
「ゴーレムの中にも生物的な特徴を持つ個体がいた。だが、最初期にしか遭遇されていない。以降は完全なる金属体のみが出現するようになった」
エドガーがそう告げると、ロイは頷きを返した。
「そうだ。そして、私の見た資料は王都騎士団長と研究所所長しか閲覧できないよう制限されていた」
生物か否かの議論が続いていた当時の王都研究所であったが、ゴーレムの登場で更に議論は白熱した。そこに
生物であるか否かの議論は一旦放り出されて、今度はゴーレムについての議論が始まるが――
「当時の女王陛下によって議論は強制中断。更に女王陛下によってゴーレムは魔物であると強制的に結論付けられた。同時に半金属体ゴーレムについての情報は誰も閲覧できないよう封印される」
エドガー曰く、当時の女王は「これ以上、不毛な議論で貴重な時間を潰すな」などと激怒した。そしてゴーレムは強制的に魔物のカテゴリーに押し込まれた。
現在ではゴーレムについての研究が進められ、同時に魔物全体に関しての更なる細分化や定義について議論は許可されている。
だが、当時は「ゴーレムについての議論は禁止されていた」のである。
ここで引っ掛かるのは、どうしてゴーレムに関する議論だけ禁止だったのかだ。
「昔から魔物についての研究はしていただろう? 敵を殺すには敵を知らねばならん。なのに、どうして当時の女王陛下は議論を禁止したのだろうか?」
ロイがそう問うとエドガーは首を振った。
「分からん。若い頃、上司に質問した事もあったが……。当時はダンジョンの制御が最優先だったとしか教えてくれなかった」
果たして本当にそうなのだろうか?
ロイの言った通り、ダンジョン内に溢れていた魔物を殺すには魔物について深く知る必要があったはずだ。なのに、どうして当時の女王はゴーレムに関して――最初期に遭遇した半金属体ゴーレムについての議論を禁止して、情報すらも完全封印したのだろうか。
「もっと引っ掛かるのは資料の閲覧制限だ。当時は誰も見れなかったようだが、前女王陛下が即位した二年後に封印が限定的な閲覧に緩和されていた」
誰も目を通せないよう完全に封印されていた情報は限定的であるが解除された。それを行ったのは現女王であるクラリスの母である。
同時に王都研究所でゴーレムについての生態や種類についての研究――ゴーレム由来の金属素材についての研究はもっと前から開始されていた――が開始されたのも同年の事であった。
妙な一致に対してロイは疑問を覚えているようだが……。
「ロイ、あまり深く考えるな。王家には王家のお考えがある。ワシも理由は分からんが、あまり深く突っ込まない方が良いと結論付けた」
侯爵位を持ち、元は王都研究所のトップまで登りつめた男。そして何より好奇心の塊みたいな男が「辞めた」と言ったのだ。
「……そうだな。忘れてくれ」
ロイも同じく侯爵位を持ち、王都騎士団団長という地位を得た。それなりに王国の光も闇、両面とも見てきたつもりだった。
だが、まだまだ知らない事はたくさんあるらしい。それも知らない方が良いとされる事まで。
「本当にこの世界は不思議だらけだ」
エドガーは大きくため息を吐きながら肩を竦めた。
「同感だな」
ロイも隣にいる幼馴染と同じく、大きくため息を吐きながら首を振った。
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