第127話 製造所と格納庫
死体を回収した俺達は待機していた騎士隊と合流。
広場に戻ると、数人の騎士が蜘蛛型ゴーレムと戦闘を行っていた。蜘蛛型ゴーレムを討伐するまで見守り、その後に事情を聞く。すると、俺達が奥に向かってから三度目の戦闘であったようだ。
「懲りずに何度も金属を回収しようとやって来ます。どうしましょうか?」
このまま放置しておけば蜘蛛型ゴーレムに解体されて回収されてしまうのは目に見えている。
さっさと回収したいが、残骸が大きくて運ぶのも一苦労。かといって、解体して持ち帰っても学者の助けになるか分からない。このまま残骸を護衛しつつ、学者を連れて来るしか手は無いのだろうか。
「……シャッターの奥を調べた後、隊の半数を残して学者達と合流しよう。早々に調べてもらって解体作業を行う」
せっかく苦労して倒したのだから、蜘蛛型ゴーレムに回収されるのは癪だ。だったら、多少の不安があろうと一気に調査を進めたい。オラーノ侯爵はそう判断したようだ。
「奥に脅威は無かったし、シャッターの向こう側に危険が無ければ大丈夫だろう」
騎士達にそう言って、オラーノ侯爵は開放されたシャッターがどこに続くのかを調べる、と隊に指示を出した。
再び残骸の護衛を騎士達に任せつつ、奥へ向かったメンバーで開放されたシャッターの中へと向かい始めた。
中は真っ暗だ。ランタンとランプの光を頼りに進むが、周囲の壁や床は金属製だった。道中には壁や床から太いケーブルが露出していて、目立った点はそれくらい。この露出したケーブルも例の柱があった部屋から伸びているのだろうか?
しばし暗い道を進んでいると、今度は道の真ん中に魔導列車が進む線路のような物があった。サイズは小さいが二本のレールが敷かれていて、レールの上には薄い板のような物が置かれている。
置かれていた板は結構大きい。人が乗れるほどの大きさだ。板はレールと直接くっ付いているわけじゃなく、板の下にはレールと接続された別の短い足があった。
「これは何ですかね?」
レールの上に置かれた板を手で触ってみると、触れただけで簡単に動いた。奥に向かって押してみると、板は滑らかで軽い動きでスーッと動き出す。
奥に向かって動いた板を目で追っていくと、カツンと何かに当たって跳ね返った。灯りを当てて衝突した物の正体を確認すると、奥にはもう一組の板があった。
「もしかして、この上に人型ゴーレムが乗っていたんじゃないですか?」
一人の騎士が腕を組みながらそう告げる。その根拠は何だ? とオラーノ侯爵が問うと、彼は製造所でこれと似た物の上にゴーレムのパーツが乗っかっていたと告げる。
「製造所で完成したゴーレムはこの板に乗せられて、ここまで移動してきます。ここで待機させられて、何か合図があると動き出す……とか?」
「つまり、ここはゴーレムの格納庫であると?」
第一都市や王都に存在する魔導列車の整備格納庫。それと同じなのでは、と騎士は口にした。
しかし、考えてみれば当たっているように思える。透明な壁の向こう側にあった製造所内には完成されたゴーレムの姿は無かった。あったのは一列に並びながら組み立てられる人型ゴーレムの下半身だ。
上半身はどこか別の場所で作られて、完全に組み上がったゴーレムがここに格納されるのかもしれない。となれば、侵入者を察知したダンジョンがゴーレムをシャッターの向こう側から出現させたのも頷ける。
「となると、まだ奥にゴーレムがいる可能性もあるな。全員、警戒しながら進むぞ」
オラーノ侯爵が言ったように、俺達は警戒しながらゆっくりと奥に進んで行った。ただ、結論から言うと人型ゴーレムと遭遇する事はなかった。
しかし、シャッターの中を進んで辿り着いたのは、最初に見つけた製造所とは違った場所である。
「とんでもなく広いな……」
辿り着いた場所はかなり広い。巨大ゴーレムや人型ゴーレム達と戦った広場よりも二倍は大きくて広い。
その広場の中には、頭部が無い状態の人型ゴーレム達が列になって並んでいた。しかも、一列二列どころじゃない。数十列もの列を形成している。
「どれも動いてはいませんが」
「ですが、あのクレーンは動いていますよ」
列の前方には製造所で見た「人の手を模したクレーン」が二台だあった。人が被る金属製の兜に似た形をしたパーツを片方が持ち上げて、もう片方が火花を散らしながら加工しているように見える。
ただ、一定の形まで加工し終えると床にポイと投げ捨てるのだ。投げ捨ててフリーになったクレーンは、再び別のパーツを掴んでは加工を始める。だが、やはりまた一定の加工を終えると床にポイと投げ捨てた。
しばらく見ていても、加工されたパーツが人型ゴーレムの体に装着される事はなかった。
「あれが人型ゴーレムを作っているのだとしたら、どうして完成させないのでしょう? あの加工しているパーツはゴーレムの頭部ですよね?」
加工している兜のような物は、人型ゴーレムの頭部に間違いない。形はやや歪であるが、これまで遭遇してきた人型ゴーレムの頭部に酷似している。
俺達からしてみれば、あとは体の上に乗せるだけのように見えるが。
「何か足りないのではありませんか?」
「足りない、ですか?」
推測を口にした騎士の言葉を繰り返す。すると、騎士は頷いた後に語り始めた。
「この状況を見る限り、ゴーレムというものは他の魔物と違って時間経過による復活は無さそうです。明らかに作られていますしね」
確かにそうだ。もし、他の階層に生息する魔物達と同じく時間経過で一定の個体数が復活するならば、製造所なんて施設が存在するのもおかしな話になる。
「普通に考えて、イチから作るとなれば材料が必要なはずです。となると、蜘蛛型ゴーレムが金属を集める理由に納得がいきませんか? 蜘蛛型ゴーレムが金属を集める理由はゴーレムを製造する為の素材を探しているのではないでしょうか?」
この考えは、以前リンさんも推測を口にしていた。
ツギハギボディのゴーレムは何者かに作られたんじゃないか? と。その「何者か」がこの製造所なんじゃないだろうか?
「金属は我々やダンジョン内に残っている物を回収している。しかし、ゴーレムを製造するには他にも足りない物があるんじゃないですか? だから、ああやって完成しない……とか?」
言われて、なるほどと納得できてしまった。ただの武器や防具は金属を加工すれば済むが、複雑な動きを行うゴーレムが金属だけで作られているとは思えない。
内部には大きな魔石や内臓に似たパーツもあった。それらを製造する際に足りない素材でもあるのかもしれない。
「という事は、我々が戦ったゴーレムは既に製造されていた奴等ってことでしょうか?」
「そう……考えたいですよね」
俺達、ダンジョンを調査する側からすれば驚異的な力を持つゴーレムがこれ以上増えて欲しくはない。その希望も込めて、これまで戦ってきたゴーレム達が「過去に製造されたもの」「これ以上は増えない」という推測を肯定したくなる。
「しかし、そう考えるとゴーレムは他の魔物と違うのでしょうか? 製造されていても魔物は魔物ですよね?」
ウルカの疑問は「ゴーレムを他の魔物と同一視して良いのか」という事だろう。
他の階層に出現する魔物達は時間経過で一定数が復活する。姿形も動物に似ているし、色は違えど血も流れる。体は肉で出来ているし、よく観察すれば動物と似た生態を見せるのだ。
これら魔物に対し、俺達は「生命」を感じる。魔物の姿がよく目にする動物に似ていたり、体を構成する要素が「命あるもの」と区分されるモノに似ているから「生きている」と感じてしまう。
逆にゴーレムは――蜘蛛であったりヤドカリであったり、果ては人型や眼球のような形のものが出現した。これらも生き物や人間といった生き物を模した形をしている。
しかしゴーレムの体は金属だ。他の魔物と比べたら「生きている」と感じ難い。十三階の骨戦士と似たような感覚と言えばいいだろうか?
姿形は俺達の知る生き物に似ているが、体を構成する要素が違う。それでもゴーレムは勝手に動き回るし、他の魔物と同じくダンジョン内に出現するし、体内に魔石があるという共通点も見られる。
皆が当たり前のように、ダンジョン内を跋扈する
だめだ、ややこしくなってきた。
「……エドガーも以前、ゴーレムの内部構造は遺物に似ていると漏らしていたな」
だが、このタイミングでオラーノ侯爵からとんでもない情報が飛び出した。
「つまり、ゴーレムは遺物の可能性があると?」
「奴も確証はない、と言っていたがな。だが、ここを見る限り……。奴の仮説は正しかったのかもしれん」
ダンジョンは古代人が造った何らかの施設である。ダンジョン内に残されている遺物は古代人が持っていた高度な技術で作られた物である。
では、ゴーレムも古代人が作った物だとしたら。それは「魔物」ではなく「遺物」であると考える方が正しいのではないだろうか? という事だろう。
「あ!」
そんな考えを浮かべていると、横にいたウルカが声を上げた。皆が彼女に注目すると、彼女は「前に見たじゃないですか」と俺に向かって言ってくる。
「先輩、前に二十二階を調査している時に見つけたじゃないですか。小さなゴーレムの人形。あれってゴーレムの設計図みたいな物なんじゃないですか?」
「設計図?」
「ほら、何かを作ろうと考えた時に浮かんだ案を紙に起こしたりするでしょう? 服や装備品を作る際も形やデザインを確認する為に試作品を作るじゃないですか」
つまり、あの人形はゴーレムを開発しようとした者が残した物なのか? まずは人形を作ってみて、精査した後に「製造可能」と判断したから実際に作られたのだろうか。
だが、理に適っている。というよりも、今を生きる王都研究所の学者達でさえ行っている手順だ。
「当たっているように思えるな」
ベイルーナ卿の仮説、そしてウルカの言った推測。それらを総合的に考えると、ゴーレムは古代人が作り上げた遺物の一つである可能性は高い。
「しかし、どうしてゴーレムを作ったんでしょうね? あんな殺傷能力の高い遺物を作る理由は何なんでしょうか?」
仮説が正解だったとして、古代人が「戦闘」を行えるゴーレムを作った理由は何だろうか?
文化や技術が成熟していって、人の生活を便利にする道具を作り上げて、そしてそれらを進歩させていくのは理解できる。
誰だって便利な物は欲しい。俺だって便利な魔導具を日々の生活で使っているし、魔導具があって逆に困ったことなんて一度もない。
では、戦闘が可能となる――それも勝手に動き出すような道具を作った場合は? 最初に考えられるのは、何かしらの脅威から身を守るためだろう。もしくは、脅威を殲滅して安全を確保するためか。
ただ、こんなにも数を用意する必要があるのか? 巨大ゴーレムなんてものさえも開発しなきゃいけない理由があったのだろうか?
「案外、古代人も戦争をしていたのかもしれんぞ? もしくは、魔物から身を守っていたのかもしれん」
行き着く考えの先は、オラーノ侯爵が言った推測だろう。
仮に古代人がゴーレムを作り出し、戦力として見ていたとしたら、数も力も必要と考えるのは妥当だ。そして、それら能力を兼ね備えたゴーレムを大量生産して戦っていたと考えるのも。
……もしかしたら、遥か昔に栄えていた古代文明の背景も、今を生きる俺達とそう変わらなかったのかもしれない。
今の俺達より遥かに優れた技術力を持った人々でさえ、争いが絶えなかったと考えると少し残念に思えてしまう。どれだけ文明が発達しても生き物は争い事から解放されないのかもしれないな……。
「とにかく、人型ゴーレムの製造が進んでいないという事は判明した。後に製造が進むのか、時間経過で復活するのかはまだ不明であるが、ある程度は数を減らせたと考えても良いだろう」
あれだけ大規模な戦闘を行ったのだ。二十二階におけるゴーレムの脅威が多少は下がったと思いたい。
「地上に戻って学者達を連れて来よう。あの残骸だけでも今日中に調査させて持ち帰りたい」
早く終わらせなければ、騎士達は二十二階の広場にずっと待機しなければならない。何が起きるか不安な中で待機し続けるのは精神的に負担が掛かるだろう。
待機組の為にも早く戻って学者達を連れて来なければ。
俺達はオラーノ侯爵の指示に従って、来た道を戻り始めた。
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