第114話 近接武器と謎の部屋


 なんとか俺達だけでも人型ゴーレムを討伐できたが、レンの魔法に頼るところが大きいのは事実だ。


 彼が雷魔法でゴーレムを弱らせ、隙を作ってくれたから倒せたと言うべきだろう。


 となれば、効果絶大な雷魔法と魔導弓が合わさると……。


「いきます!」


 レンが人型ゴーレムに向かって雷魔法を放った。既にゴーレムは手首の無い両手に紫色の光を収束させていたが、雷魔法を受けた途端に集まっていた光が霧散する。


 仰け反ったゴーレムの腹が隙だらけだ。


「炎矢放て!」


 そして、その隙だらけの胴体に向かって炎矢が連射される。ザクザクと突き刺さっては胴体を溶かしていき、最終的には胴体のほとんどが溶けてゴーレムの体は二つに割れた。


 戦闘時間はたったの五分程度。危険もクソもない。やはり、魔法と魔導弓は相性抜群の組み合わせなのだと嫌でも理解してしまう。


 対ゴーレム戦で近接戦闘がほとんど役に立たないのだと落ち込んでしまいそうだ。


「しかし、魔法も魔導弓も無限に撃てるわけじゃないですからね。近接戦闘を行う場面は必ずあります」


 しかし、そんな俺に「ゴーレムへ特化した盾と武器の開発は必要不可欠だ」と騎士隊の隊長は語る。


「先ほどの大槌、どうでした?」


 隊長に問われ、俺は戦った時の感触を思い出した。


「うーん。叩くだけですからね。もっと効果的に金属を破壊できれば……」


「金属の破壊かぁ……」


 近接武器として、そのような効果を発揮する武器はあるだろうか? 俺と隊長が揃って悩んでいると、脇にいたウルカが首を傾げながら答える。


「金属を壊す……。割る? つるはし?」


「あっ!」


 俺は彼女の答えを聞いて、思わず「それだ」とウルカを指差した。


 つるはしは武器というよりも鉱山作業用の道具として扱われる。だが、別に戦闘で使っちゃいけないなんて縛りはないんだと気付かされた。


 ただ、つるはしは固い石を割る道具だったか? 武器だけじゃなく、道具にも範囲を広げて……ん? 待てよ? 


 そもそも、用途に当てはまる武器は戦槌なんじゃないだろうか?


 これまで第二ダンジョンでゴーレムを相手する者がいなかったせいか、戦槌を使っているハンターや騎士は全く見かけない。武器屋の棚にも無かったような……。そのせいで俺も失念していたようだ。


 通用すると思うが、少しでも効果が認められればピック部分を対ゴーレム専用にカスタマイズできるか相談すれば良い。もし現実になれば近接戦闘でも十分な威力を発揮できるんじゃないだろうか。


 それを隊長に伝えると、彼は頷きを返してきた。


「アリですね。学者に頼むよりも最初は武器屋で発注する方が早いかもしれませんね」


 地上に戻ったら武器屋のおやっさんに頼んでみようか。


 ……おっと、話し合いもそこそこにしなければ。せっかく人型ゴーレムを討伐できたのだから、これを機に整備を進めたい。


 俺達は黙々と作業を続けて、十字路周辺全ての道を整備し終えた。


 結論から言えば、ターニャの予想通り十字路周辺は全て道が繋がっていた。真ん中の通路を挟んでぐるっと一周できるようになっていて、恐らく人型ゴーレムもぐるぐると周りながら徘徊していたのだろう。


 どうしてゴーレムが徘徊していたか。その理由は、十字路右手側にあった。


「扉ですね」


 俺達が見つけたのは一枚の扉。二十一階のように引いて開けるタイプだろう。徘徊していたゴーレムはこの扉を守るためだったのかもしれない、と全員の推測が一致する。


「開けますか」


「そうしましょう」


 となれば、中が気になるのは当然だ。


 ただ、指をかけて引くだけでは簡単に開かない。騎士達と一緒に三人掛かりでようやく開けると、中にあったのは……。


「な、なんだ……?」


 扉の向こう側は見た事もない設備の整った研究所、もしくは病院の手術室といった感じ。


 部屋の壁側には円柱状のガラスケース(?)みたいな物が並んでいて、どれもガラスが割れて床に散乱していた。ガラスケースの下部には色のついた太いチューブみたいな物が伸びていて、部屋の奥にある大型の遺物へと繋がっている。


 他にも部屋の中央には手術台のような物があったり、錆びついた銀色の作業台の上には小さなナイフやハサミらしき物が置かれていた。他にも遺物と思われる道具が残されているが……。


「ここは一体何なんでしょう?」


「さぁ……?」


 騎士の問いに首を傾げながらも、俺はランプを掲げて周囲を照らした。丁度、俺が部屋の左隅を照らした時――


「う、うわ!?」


 光が照らされて見つかったのは人型ゴーレムだった。潜んでいたソイツに俺は声を上げて驚いてしまう。


「どうしまし……!?」


 俺の驚いた声に反応した騎士もゴーレムが目に入ったのか、慌ててタワーシールドを構えた。


 だが、ランプに照らされた人型ゴーレムは動かない。よく見れば、片腕が取れて床に落ちているし、胴体には大きな穴が開いているではないか。


「な、なんだ。死んでいるのか」


「びっくりしました」


 人型ゴーレムが死んでいるという状況がやけに目立つのは、未だ俺達が驚異的な相手だと強い印象を持っているからだろうか。 


 俺は近付いて死体を照らした。すると、死体の様子がどうにも気になる。


「なんだか、腹を無理矢理こじあけられたような感じじゃないですか?」


「ええ」


 人型ゴーレムの胴は何者かによって無理矢理こじあけられたかのような状態だ。金属を割られ、割れた周辺の装甲を無理矢理引き千切ったような……。


 そして、臓物を引き抜かれたかのように、胴体の中に収まっていたであろうゴーレムの臓器パーツや細いチューブみたいな物が体外にだらんと垂れさがっていた。


 これが人だったらグロテスク極まりない。


「どう考えても調査隊がやったとは思えませんね」


「そもそも、この部屋を発見したのは俺達が最初だと思いますし……」


 この部屋を見つけたのは俺達だ。見つけて、扉を開くまでは完全に閉まっていたし。


 では、この人型ゴーレムはどうして死んでいる? どうしてこのような状態になったのか?


「私達や調査隊の他に誰かが……?」


「まさか。新発見された階層ですよ? 俺達以外に足を踏み入れたのは壊滅した調査隊しかいないはずです」


 二十階から先の階層を見つけたのは俺達だ。二十階の遺物を起動して、初めて次の階層へ続く扉が見つかったのだし、二十階以降は厳しい入場制限が設けられている。


 それに二十階には騎士が常駐していて、関係者以外が立ち入ることは禁じられている。


 じゃあ、誰が? 最初の疑問に戻ってしまった。


 騎士と顔を見合せていると、部屋の奥を調べていたミレイが全員を呼んだ。


 呼ばれて近付くと、部屋の奥にあった壁には大穴が開いているではないか。


「これは……どこに繋がっているんだ?」


 大穴の先には上下に伸びた穴があって、幅はかなり広かった。二十一階に出現した巨大ゴーレムが使ったであろう穴に似ている。


 首を伸ばして上下を覗き込むも、どちらも真っ暗で何も見えなかった。落ちたら確実に命は無さそうだ。


「……一旦、引き返して整備を続けましょうか」


「そうですね。これ以上は調査のしようがありませんし」


 いつか安全が確保できたら学者達に調べてもらう他無い。


 俺達は部屋を出て、十字路の中央通路を目指す。奥に向かって通路を進んで行くと、通路の先には再びT字路があった。


 右と左どちらに進むか話し合うが、騎士の一人が挙手した後に「左に向かうと調査隊の死亡地点がある」と告げる。正確には左の通路を進んで、更にT字路を右に曲がった先のようだが。


「確か広場だったな?」


「ええ」


 騎士隊の隊長が問い、部下が答えると隊長は少し悩んで決断を下した。


「例の広場には人型ゴーレムが集結している可能性があります。そちらは一旦置いておいて、右手の通路から調べましょう」


 隊長の提案に乗って、俺達は右手側に伸びた通路の整備を開始した。途中、二体ほど人型ゴーレムと出会うが、やはりレンの魔法と魔導兵器があればそう苦労はしない。


 今日の整備はかなり順調に進み、最終的には右手側通路の一番奥まで到達した。


「左に曲がる通路。その先にはまた十字路……。本当に迷路のようだ」


 右手側に伸びた通路の先には左へ曲がる道があって、そこから数メートル先にはまた十字路が見える。


 これは整備もマッピングも骨が折れそうだ。

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