第113話 連携実戦


 翌日、俺はレンの分析を持って騎士団本部を訪ねた。丁度、その場に現地組の学者達を取りまとめる部長がいたので話を聞いてもらうことに。


「炎魔法と雷魔法の複合攻撃ですか」


「ええ。うちのパーティーにいる魔法使いの見立てでは、そのように言っているのですが」


 詳細を話すと部長は「それなら納得」と言わんばかりに頷いた。


 魔法使いによる魔法の感知能力は有名な話なのだろうか? それともレンが優秀な魔法使いである故なのか? どのようにして納得してくれたのかは不明であるが、とにかく話は聞いてもらえそうだ。


「王国にも対魔法用の防御策はありますよ」


 現代の対人戦闘で主流なのは武器による攻撃だ。近距離、遠距離問わずに武器という道具を用いての戦闘が行われる。


 だが、戦争等の大規模な戦闘になると近距離戦闘は最後の最後になるだろう。


 最初に相手へと打撃を与える方法は遠距離攻撃による範囲殲滅だ。その中でも最強と謳われる攻撃方法は『魔法』である。


 これまで俺達はダンジョン内で魔法による威力を目撃してきたが、どれも人に対して使われたら猛威を奮うものばかりであった。あんなものを人が食らったらひとたまりもない。


 よって、戦争になれば最大限魔法を発揮させて敵の数を減らす戦術が採用される。これは敵も味方も同じだろう。


 となれば、魔法に対する防御策が必要になるわけで。いつ起こるか分からない戦争に備え、各国が対魔法防御策を考えるのは必然と言える。


「いや、あるにはあると言うべきですな。正直に申し上げると、使用許可は下りないと思います。希少性の高い素材を用いていますし、量産できない品なんですよね」


 どのような素材を用いているのかは語られなかったが、口ぶりからは相当数が少ないように思えた。


 王国の繁栄に欠かせないダンジョン攻略用としても使えないとなると……。もしかしたら戦争時にしか使用されない決戦用として開発された物なのかもしれない。


「現状、その希少性の高い素材に成り代わるダンジョン素材を探している面もあります。見つかれば量産体制が整うと思うんですけどね」


 まぁ、対魔法用のそれが簡単に作れるのであれば騎士団でも採用されて通常装備になっているか。


 ちゃんと考えれば分かる答えだったかもしれない。何でも装備に頼るのはよくないな。反省しなければ。


「それと雷魔法による攻撃の有効性ですが、こちらも現状では少し難しいですね」


 攻撃面に関しても問題があるようだ。


「実は王都研究所で雷魔法の再現研究は行っているんですよ。ですが、威力が安定しなくて……」


 攻撃魔法には種類があるが、その中でも難しいと言われているのが「水」と「雷」に関係するものらしい。


 どちらも再現はできているようだが、威力や使用回数による懸念があるようだ。安定した攻撃方法として確立できているのが「風」と「炎」らしく、そういった理由があって魔導弓が放つ魔法矢は「風」と「炎」によるものとなっていると語る。


 やはり全てを魔法で解決しようとするのは無理があるか。魔法は「何でもできる」「最強の攻撃」といったイメージがあるものの、それを実際に人の手で再現しようとすると難しい。


 いや、まだ全貌が明らかになっていない未知なる現象を再現しようなど難しくて当然なのかもしれないが。どうにも王都研究所の学者達が有能揃いで「もしかしたら」と希望を抱いてしまう。


「ですが、炎と雷の複合魔法という点が分かっただけでも少しは対策できるかもしれません」


「本当ですか?」


 俺が肩を落としていると、フォローするように部長さんがそう告げた。


「ええ。簡単なところだと、火に強い金属を使うとかですかね。タワーシールドに使われている合金を見直すなり、やれることはあると思います」


 フィードバックと敵の情報は大事だと部長は語る。


 今回の情報は無駄にならずに済んだらしい。良かった。


「ただ、すぐに可能というわけじゃないので……。例の人型ゴーレムも調査が始まったばかりなので、少しお待ち頂ければと思います」


「ええ。承知しております」


 どうにか早く配備できるよう王都に呼び掛けると約束してくれて、部長さんとの話し合いは終了した。


 これで後々楽になれば良いな。あとは俺達の連携を試すとしよう。



-----



 部長さんとの話し合いが終わった後、俺達は騎士と共にダンジョンへと向かった。


 本日もダンジョン整備が主な目的であるが、レンの魔法を軸にした戦闘を試したいと伝えて許可をもらう。


「レン、相手の動きが鈍る程度の威力で頼む。匙加減は任せるが、なるべく魔力切れを起こさないよう心掛けてみてくれ」


「分かりました」


 レンに魔法の威力を調整するよう告げて、俺は今回メインで使用する大槌を担ぎなおした。ミレイも同様に今日は槍じゃなく俺と同じ大槌を持ち込んだ。


 二十一階での経験から、剣よりも打撃武器の方が有効なのは明白だ。彼の魔法で動きが止まった瞬間、一気に距離を詰めて打撃によるダメージを与えれば……倒せるかもしれない。


「危なかったらすぐに退避して下さいね」


「ええ」


 タワーシールドを持った騎士達も待機してくれるとのことで、彼等がいるだけでも心が軽くなる。万が一は盾の後ろへ逃げ込めば良いのだからな。


 早速、二十二階へ向かって最初の十字路へ。昨日の続きから作業をしようと現地へ向かっていると――


「前方にいますね」


 十字路を左手側に曲がり、道を少し進んだ頃。前方にいた人型ゴーレムに追いついた。


 ターニャの言っていた通り、距離があれば感知されないのか。先にいるゴーレムの背中はがら空きである。


「強襲します」


 騎士隊の隊長に告げて許可をもらうと、俺達は事前に話していた作戦の通りに動き出した。


「いきます!」


 最初はレンの魔法だ。先日は全力全開の一撃を放ったが、今日は力をセーブした一撃。枝別れした細く鋭い紫の雷が人型ゴーレムの背中に向かって放たれる。


 バチンと弾けるような音が鳴って、前方を歩いていたゴーレムの足が止まった。


「行くぞ!」


「おう!」


「はい!」


 次に攻撃を加えるのはウルカだ。人型ゴーレムへと走り出した俺とミレイの間を爆裂矢が通り過ぎた。放たれた矢はゴーレムの背中に当たって爆発を起こす。


 それから数秒後、俺とミレイは大槌の間合いに入る。俺達は黒煙の上がる背中に向かって思い切りを振り下ろす。


 餅つきのように振り下ろされた大槌による連打。ゴーレムは打撃に耐え切れず、地面へと倒れ込んだ。


 だが、まだ生きているようだ。小刻みに震えながら立ち上がろうとしている。俺は背中を踏んづけて動きを止めようと試みた。俺のアクションを見たミレイは、大槌を大きく振りかぶる


「オラァァァッ!」


 ミレイが気合の篭った一撃をゴーレムの頭部に見舞う。すると、頭部の金属にヒビが入った。ヒビが入った箇所からは火花が散って、ダメージを与えられたという実感が沸く。


 ただ、油断はできない。


 人型ゴーレムはこれまで手首の無い腕から魔法の玉を飛ばすという攻撃をしてきたが、他にも別の手段で攻撃を行って来る可能性はある。少しでも予兆らしき動作が見えたら退避するべきだろう。


 十分に警戒しながら攻撃を続けていると――


「ッ! ミレイ、退避だッ!」


 倒れていた人型ゴーレムの腕が動き、背中側に向けられた。両腕それぞれを俺達に向けて、腕の先に紫色の光を収束し始める。


 俺とミレイは慌てて後ろに下がると、光の玉が天井に向かって放たれた。放たれた光の玉は天井を抉って、天井からは細かな破片が降り注ぐ。


 俺達が退避した事で人型ゴーレムは自由を取り戻した。頭部から火花を散らしながらも立ち上がる。


 くるりと体を反転させて、俺達に向いた。そこからはいつもと同じ光景だ。両腕を俺達に向けて、再び魔法の玉を発射しようと光を収束し始める。


「レン、もう一発撃てるか!?」


「はい!」


 後ろに下がりながら、俺はレンに攻撃指示を出した。彼は再び雷魔法を放って、細い雷が人型ゴーレムの胴を貫く。


 胴を貫いた途端、バチンと弾けるような音が鳴ると腕に集まっていた光が霧散する。


 チャンスだ。


 俺は後退から一転、再び全速力でゴーレムへと間合いを詰めた。


「おおおおおッ!!」


 走りながら大槌を持ち上げて、上段から渾身の一撃を振り落とす。


 俺の一撃はゴーレムの顔面を捉えた。大槌が顔面にめり込み、俺の手には手応えが伝わった。だが、まだだ。もう一押し。


 ゴーレムの顔面にもう一撃加えて、押し倒すように体重をかけた。地面に倒れていくゴーレムから大槌を引き抜き、倒れたゴーレムの頭部に向かってもう一度叩きつける。


 へこんでいた顔面への追撃は効果があったようだ。ジャストミートした瞬間、ゴーレムの目が割れて飛び散った。


 ボコボコにへこんだ顔面からは火花が散って、ゴーレムの動きが「ギギギ」と鈍くなる。それでも尚、俺を殺そうとしているのか腕を向けてきた。


「いい加減ッ! 潰れろッ! 潰れろッ!」


 俺の脳裏には死んだ仲間達の姿が浮かぶ。彼等の無念を晴らしたい一心で、俺は何度も大槌を顔面に叩きつけた。


「くたばれッ! くたばれッ!」


 もはや、ゴーレムに腕を向けられているという事実が頭からすっぽり抜けていた。一心不乱に何度も何度も叩きつけて――


「おい、アッシュ!」


 大槌を叩きつけていると、後ろからミレイに大声を掛けられながら肩を掴まれた。そこで我に返り、ゴーレムの姿を見ると顔面が陥没して動きを止めていた。


「アッシュ、もう終わったよ」


 一体、いつ、こいつは死んだんだろうか。


「ああ……。はぁ、はぁ、ふぅ……」


 俺は振り上げていた大槌を下ろすと、ようやく自分の息が切れている事に気付く。


 大きく深呼吸しながら息を整えて、もう一度ゴーレムに視線を向けた。


 どうにか倒せた。いや、倒せたことには変わりはない。


 仲間がいれば、俺でもこいつ等を倒せるんだ。

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