第112話 魔法使いの分析と連携案


 レンの魔法によって窮地を脱出した俺達は、人型ゴーレムの死体を回収した。


 なんとか全員無事だったものの、タワーシールドの損傷が激しい。魔法を行使したレンの体調もよろしくない。よって、俺達は二十階へと引き返す事になった。


 顔色の悪いレンは動けないほど消耗しており、俺は彼を背負いながら二十二階の道を歩き出した。


「大丈夫か?」


「は、はい……」


 ゼェゼェと息を吐くレンは、返事とは裏腹に辛そうだ。ミレイに心配かけまいとやせ我慢しているのだろうか。


「魔法使いは、大量に魔力を使ったり、急激に魔力を使うと……すごく、疲弊します」


 つまり、今のレンみたいになるって事だろう。以前、レンの兄であるリンさんから聞かされたが、魔法使いの格は魔力量や魔法の威力で決まるとか。


 レンは優秀な魔法使いのようだが、優秀な魔法使いでもダンジョン内ではこうして限界を迎えてしまう。


 限界を迎えた彼の様子は見ているだけで辛そうだ。あまり彼に無理をさせるべきじゃない。だが、彼の魔法がゴーレムに対して非常に有効なのは事実である。どうにかして彼を活かす方法はないだろうか。


「レン、魔力はどうしたら回復するんだ?」


 彼が疲弊している理由は体内の魔力が底を尽きそうだから、と本人も言っていた。となれば、回復すれば自然と息切れも治まるのだろう。


「甘い物……」


「え?」


「甘い物を食べれば回復します……」


 なんと、彼は甘い物を食べれば魔力が回復するらしい。そんな事で? と疑問に思いながら言葉を返せずにいると、脇からミレイが語り始めた。


「本当だよ。こいつは甘いモン食えば回復するんだ。今みたいに息切れしてても、甘い紅茶を飲んで落ち着かせてからケーキを食えば回復する」


 ミレイ曰く、魔力回復となる行動には個人差があるそうだ。


 レンの場合は甘い物の摂取らしい。魔法使いの中には激辛の食べ物を食べたら回復したり、腹がたぷたぷになるまでコーヒーを飲まなきゃいけない人もいるんだとか。


 魔法使いってヤツは本当に不思議な存在だ。


「おかしい、ですよね。甘い物、なんて……」


 レンは俺の肩を掴みながら「子供っぽいでしょう」と自分に対して自虐気味に鼻で笑う。


 だが、俺は首を振った。


「いいや。そんな事は思わない。別に良いじゃないか、甘い物を食べるくらい。甘い物は嫌いなのか?」


「いえ……」


「じゃあ、猶更良かったな。苦手な物を食べて回復するよりずっと良い。もし、俺が魔法使いだったら酒やタバコで回復したいと思うだろうな」


 俺がそう言うと、背中から「はい」と穏やかな声が返ってきた。少しは打ち解けられただろうか?


 彼を背負いながら二十階へ戻り、待機していた騎士や女神の剣に事情を説明。状況も併せて説明すると、彼等は「チャンスだ」と言った。


「人型ゴーレムを二体倒したのだろう? もう十字路に徘徊していないかもしれない。復活する前に整備とマッピングを進めて来る」


 ターニャは今こそ進むべきだと意気込みを口にした。


「すまないな」


「いや、構わない。邪魔者を排除してくれたんだしな」


 彼女に「ゆっくり休んで来い」と言われ、俺達は好意に甘えて地上へと戻る事にした。



-----



 疲弊していたレンに宿で休むかと問うたが、すぐに甘い物が食べたいと言われてしまった。


 彼を背負ったままカフェに移動して、店員に心配されながらも顔色の悪いレンを椅子に座らせる。すぐに紅茶を持ってくるよう頼むと、ありがたいことに店員は超特級で持って来てくれた。


「砂糖はいくつ入れる?」


「じゅ、十個……」


 一瞬だけ「マジか」と思ってしまったが、俺は素直に角砂糖を十個紅茶に入れてスプーンでかき混ぜた。まだ溶けきっていない砂糖が沈殿する紅茶を前にすると、レンは我慢できずに飲み始めた。


 ゴクゴクと喉を鳴らして全部飲み干すと、本当に彼の顔色が良くなっていく。青白かった顔には血色が戻って来て、辛そうな表情も和らぎ始めた。


 落ち着いたあと、彼は店員を呼んで紅茶のおかわりを注文。併せてケーキを注文したのだが……。


「すいません、ケーキ全種類お願いします」


「ぜ、全種類ですか!?」


 メニュー表に乗っているケーキの種類は全部で十二種類。ホイップ系からチョコ、フルーツタルトまで揃ったメニュー全てを注文した事で店員も驚いてしまう。


「お願いします」


 俺が横から後押しすると、店員は謝罪しながら注文を承ってくれた。


 俺は注文が届くまでの間、レンに疑問をぶつけることに。


「レン、魔力切れは頻繁に起きるのか?」


「え? いえ、今回は全力で撃ちました。一撃で倒さないといけないと思ったので……」 


 敵の脅威度に加えて、危機的状況だった事もあって加減ができなかったと彼は語る。確かに二十一階は魔法を連発していたし、実際はセーブが可能なのだろう。


「全力で一撃か。つまり、弱らせる程度の威力ならもっと継続戦闘が可能になるのか?」


 そう問うとレンは頷きを返し、ミレイも「そうだな」と言ってきた。


「第一の時は上手くセーブしながら戦ってたな。レンが魔法でゴーレムを攻撃して、隙が出来たところで私が仕留めるって感じだ」


「なら、二十二階もその手を試してみよう」


 レンの攻撃で動きを鈍らせる、もしくは致命傷を与えられるならトドメは他の者が刺せばいい。これなら全員で協力して戦えるんじゃないだろうか。


「でも、危なくないですか? あのゴーレムが撃つ光の玉は魔法ですよ?」


 そうレンが言ったタイミングで数人の店員がテーブルにやって来た。ケーキを配膳していき、テーブルの上がケーキだらけになってしまう。


 いや、そんな事よりもレンは今なんと言った?


「あの攻撃は魔法なのか?」


 直前の言葉を思い出し、俺は再び問う。すると彼はショートケーキをパクつきながら頷いた。


「はい。魔法使いには独特の感覚があって、魔法の素である魔素を感じ取れるんです。あの光の玉を撃ち出す前、ゴーレムの腕に光が収束していましたよね? あの瞬間、魔素が集まっていると感じました」


 あの馬鹿みたいに威力が高い光の玉について、俺も薄々は「魔法なんじゃ?」という疑問は抱いていた。だが、確信は無かったし、確証を得るには学者に見てもらうしか方法は無いと思っていたが……。


 まさか、こんな身近に「魔法か否か」を判断できる人材がいたとは。


 しかも、レンはあの光の玉がどんな魔法なのかも分かるという。


「あれは炎魔法の一種だと思います。でも、少しだけ雷魔法も含まれているような?」


 レンはそう言いながらも「炎に雷を混ぜて」「属性化する直前に反応した魔素を一旦結合させながら」などと専門的(?)な事まで語り始めた。


 彼の分析に驚いていると、彼の横に座っていたミレイがレンの頬を摘まんだ。


「そういう事は早く言え!」


「ひゃ、ひゃって!」


「だってじゃない! ちょっとした発見でも突破口になり得るんだ。そう教えただろ? 気付いた事があったら遠慮なく言えよ!」


 恐らく、最初に遭遇した時からレンは気付いていたのかもしれない。ただ、性格的に言えなかったのだろう。


「レン、これからは遠慮しないで何でも言ってくれ。それが全員を生かす情報になるかもしれない」


「は、はい。すいません」


 俺が苦笑いを浮かべながら言うと、レンは肩を落としながら謝罪した。


「あれが魔法だとしたら……。騎士団に対魔法用の装備なんてあるんですかね?」


 いつの間にか自分の分のケーキを注文していたウルカは、イチゴのタルトをパクパクと食べながら問うてきた。


「分からないが、魔法使いによる分析だと言えば学者も聞いてくれるかもな」


 もしかしたら、試作品の盾を強化する有益な情報になるかもしれない。あとで騎士団本部に顔を出すか。

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