素材研究部門第二班 報告書【差戻し】


報告書作成者: 王都研究所素材研究部門第二班 部長 アーロン・ジークマン


報告内容: 第二ダンジョンより回収したリザードマンと色付き魔石に関する報告



【第一項目】


・リザードマンの解剖と実験報告


 第二班ではリザードマンの解剖と実験を実施



・人間には存在しない臓器がある


 体内にある臓器は我々人間とほぼ同じ。心臓・胃袋等、人間にとって主要な臓器はある程度揃っていた。


 しかし、心臓とは逆の位置に人間には存在しない臓器を備えている。臓器には管があって、中咽頭にあたる位置まで伸びている。人間で言うところの食道や声帯とは別のラインを持っている事が分かった。


 臓器を切除して調べてみたところ、臓器の中は空洞で粘度の高いジェル状の液体でコーティングされていた。


 臓器内からジェルを採取して様々な実験を実施。


 水の中へ投入した結果、水とは混ざらない油のような物である。加熱しても粘度はそのままで燃える・蒸発する事はなかった。


 ジェルを肉塊に付着させて火の魔法を当て続けた結果、肉塊には火が通らなかった。


 これらの結果から、謎の臓器はリザードマンが火球を吐く際に使う臓器ではないかと推測。


 火球を臓器内で生成し、管を通して口外へと吐き出しているのではないか? 臓器から伸びる管内にもジェル状の粘液が存在していたので推測は当たっているように思える。


 次に下半身にはトカゲと同じく卵を産卵するための器官が見受けられた。回収された卵はリザードマンの物で間違いないように思える。



※ 備考 


 回収された卵は魔物研究部門に引き渡したので、そちらからの報告をお願いします。



・リザードマン肉について


 リザードマンの肉を実験動物に与えたところ、やはり以前の実験と同じく実験動物が死亡する例は見られなかった。


 採取した赤い血を与えても死亡する例は見られなかった。


 よって、十八・十九階に生息していたリザードマンの血と肉には毒性がないと思われる。



 ※ 備考


 人体実験はまだ実施していません。


 人体実験に関しては第ゼロ番収容実験棟にて死刑囚を対象に近日実施予定




【第二項目】


・色付き魔石(赤)について


 魔導具開発部門と連携した色付き魔石に関する報告。


 結論から先に報告させて頂くと、色付き魔石には空気中の微量な魔素を吸収する特性を持つ事が考えられる。



・判明した経緯について


 二種類の魔石に対して『魔導具連続稼働実験』を行った。


 実験に用いた魔導具は市販用に開発された魔導ランプを使用。


 実験用に二つ用意して、それぞれに加工した魔石を挿入。効果時間を計測。


 現在主流となっている無色透明な魔石による連続稼働時間は七十八時間(魔石による個体差による変動アリ)だった。


 色付き魔石による連続稼働時間は三時間だった。個体によっては一時間で稼働が終了する物もあった。


 加えて、色付き魔石は内包魔力が尽きるとくすんだ赤色に変化する。


 連続稼働時間から色付き魔石には価値が無いと思われたが、実験から数十時間後に使用済み色付き魔石の色が若干ながら元に戻っている事が判明。


 色の戻りを観察していると、色付き魔石は使用前と同じ鮮やかな赤色へ元に戻った。


 再び稼働実験を開始。すると前回の実験結果と同じく三時間ほどの稼働が可能となっていた。


 これらの結果から色付き魔石は自ら魔素を吸収して内包魔力を元に戻す性質があると推測される。



※ 備考


 色付き魔石を加工する際、大きさによって使用できる魔力量が減少するかどうかの実験を継続中。報告は実験終了後に改めて行います。




【総括】


 

 色付き魔石については、この自然回復する性質を解明して人工的な魔石の開発に至れば、現在の魔石コストを改善できる可能性が秘められていると感じた。


 もっと量を確保できれば良かったが、既に第二ダンジョンでは対象のリザードマンが消失してしまった事について、ただただ残念に思う。


 加えて、もう一つ頭に過ったのはリザードマンが古代生物であるという可能性だ。


 目撃された生態や生活環境、及び卵を産卵している可能性。これらだけを見ても他の魔物とは全く違う。


 過去の資料を調べたところ、ダンジョン制御計画の初期には各ダンジョンでリザードマンと同じ性質――赤色の血や毒性の無い肉など――を持つ魔物と多く遭遇したと聞く。


 同時に色付き魔石の採取もその頃から始まった事を加味すると、血の色や肉の毒性が魔石の性質に影響する可能性は高いんじゃないだろうか。


 これら過去に討伐されて全滅した魔物もリザードマンと同じく、大昔からダンジョンに住み着いていた生物だったんじゃないだろうか?


 もしかしたら、我々は貴重なサンプルを無意味に殺害していただけかもしれない。既に手遅れである可能性もあるが、魔物研究部門による卵の孵化に期待したい。


 もし、リザードマンを人工的に繁殖できれば、無限に色付き魔石が採取可能となる。となれば、未来の王国が抱えるであろう魔石のコスト問題も解消に繋がるかもしれない。


 以上の考察と実験報告から、素材研究部門第二班は魔物研究部門の実験に賛成の意を表明させて頂く。同時に微力ながら協力も惜しまない事をお伝えしたい。



【6/15 追記】


 色付き魔石について過去の資料がないか調べていたら、過去にも私達と同じ実験を行っているメモを発見した。


 メモに書かれていた日付を見るとダンジョン制御計画初期の頃に実施されている事が分かった。


 当時の研究者達は早急に魔導具を実用化させようとしていたのか、無色透明の魔石と比べて稼働時間が極端に短い色付き魔石は「価値無し」と判断して破棄していたようだ。


 既に破棄されてしまっている事や過去の研究者達について文句を言うつもりはないが、当時のメモであっても大事に保管しておくべきだろう。このメモをもっと早く見つけていれば、色付き魔石の研究はもっと進んでいたかもしれない。


 管理部は何をしているんだ! ちゃんと保管しておけ!




 報告書作成者 王都研究所素材研究部門第二班 部長 アーロン・ジークマン


 



【管理部より連絡】



 毎度申し上げておりますが、報告書用の書式に沿って報告書の作成をお願いします。


 あと報告書に個人的な文句を記載するのは止めて下さい。該当部門の責任者に直接申し上げるか、全体会議にて伝えて下さい。


 これは報告書であって回覧板じゃないんですよ!

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