第102話 四人パーティー 2
「あれがヤドカリ型ゴーレムだ」
右手側の通路奥にある小部屋まで進み、俺は部屋の中で待機する球体を指差した。
「一歩でも部屋の中に入れば音を鳴らす。学者さん達曰く、ヤドカリ型ゴーレムの腹から鳴る音は警告音なんだってさ」
「警告音?」
最近聞いた学者達の推測を口にすると、ミレイが首を傾げた。
「ああ。ヤドカリ型は特定の位置を守護していて、人間が足を踏み入れると警告音を周囲に撒き散らす。それが蜘蛛型ゴーレムを呼び寄せて、戦闘モードに切り替えさせるらしい」
この階層に出現するゴーレムは二種類いる。ヤドカリ型は司令官。蜘蛛型は兵隊。
蜘蛛型は通常状態だと
兵隊モードに変わった蜘蛛型ゴーレムは直接人を襲うようになり、この階層を荒そうとする人間達を殺すようヤドカリ型に命令される――というのが、学者達が出した結論だ。
あくまでも蜘蛛型ゴーレムは単一の命令しかこなせない単純な思考能力しか持たない。だが、彼等の頭脳であり司令官であるヤドカリ型が脅威を察知すると、蜘蛛型ゴーレム達へ与えていた命令を上書きするのではないか? と。
確かに言われてみればその通りに思える。普段は金属を狙い、金属を回収したら壁の中へと消えて行く蜘蛛型ゴーレムであるが、ヤドカリ型が発する音を聞いた途端に目の色を変えて攻撃してくるのだ。
更に、ヤドカリ型を討伐すれば蜘蛛型ゴーレムは普段通り「金属優先」へと元に戻る。
この考察と仮説が出てからは、蜘蛛型ゴーレムに対する脅威度は少々下がった。逆に最優先討伐対象として指定されたのはヤドカリ型。ヤドカリ型さえ討伐してしまえば、二十一階の脅威度はぐっと減ると結論付けられた。
「なるほどね。第一じゃ無かった行動だな」
ミレイ曰く、第一ダンジョンに出現する魔物のほとんどがゴーレム型であるようだが、その中で音を発して仲間を呼んだり攻撃パターンを変えたりする種類は出現しなかったそうだ。
あくまでも二十一階に出現するゴーレム特有の行動なのか。それとも他のダンジョンにも同種の魔物はいるが、発見されていないだけか。どちらにせよ、ヤドカリ型をどうにか出来なければ二十一階で活動するのは厳しい。
「普段はどうやって倒してんだ?」
「重量のある打撃武器で叩く」
俺はリュックを下ろすと、収納袋から大槌を取り出した。
普段は剣を使っているが、二十一階では別だ。ほぼ二十一階用として購入した物であって、今後も出番があるかは分からないが備えておいて損は無い。
「弱点は顔だろう?」
「ああ。それは変わらないんだが、蜘蛛型ゴーレムを呼ばれると乱戦になるからな。とにかく小細工無しで叩き潰した方が早いって結論に至ったよ」
的確に弱点を一撃できる腕と武器があれば可能だろう。だが、ヤドカリ型ゴーレムだって弱点を守るように防御もするし、蜘蛛型ゴーレムと違って憎たらしい動きを取る事も多い。
ならば、パワーで押し通してしまった方が結果的に早いという結論に達してしまった。
ただ、ヤドカリ型ゴーレムを狩るのは筋肉の集いや騎士団という事もあって、俺が狩る出番は早々無いというのもあるが。俺とウルカ二人だけで狩るとしたら、中央エリアに設置されているクロスボウを用いて……となるだろう。
「レンの魔法ならどうかな?」
ミレイはそう言って、レンの顔を見た。ミレイに期待されたレンは胸の前で握り拳を作りながら「任せて下さい!」と口にする。
「あくまでも部屋の中に入らなければ警告音は鳴らないんだ。そこでだ。部屋の外から魔法を撃って倒せるか、警告音が鳴ってしまうかどうかも検証したい」
静かに待機する球体に魔法をぶちかまして一撃で葬れるかどうか。一撃で倒せたとしたら他の個体の行動はどうなるのか。その辺りも調べて学者や騎士団に報告しておきたい。
「よし。レン、やってみろ」
「はい!」
ミレイに言われ、レンは部屋の入り口で集中し始めた。
目を閉じて深呼吸を繰り返して。精神状態を整えているのだろうか。
ゆっくりとヤドカリ型へ手を向けると、目を開いて奥歯を噛み締める。すると、手から蜘蛛型ゴーレムに撃った時よりも明らかに威力の高そうな雷魔法が発現する。
今度は白ではなく紫だ。紫色の雷が空気を切り裂くようにヤドカリ型ゴーレムにへと飛んでいき、紫色の雷が球体を一瞬で貫く。
『――――!』
バチンと弾けるような音が鳴った瞬間、球体だったゴーレムの体が少しだけ浮いた。その後、球体からは黒い煙がモクモクと上がり始める。
「やったか?」
俺は部屋の中へ一歩だけ踏み出すと……。球体のまま黒煙を上げるゴーレムは反応しない。音も鳴らない。
「一撃で倒したか。凄いな」
蜘蛛型ゴーレムに続き、ヤドカリ型まで一撃とは。本当に魔法というのは凄い。
俺が心底驚いていると、レンは頬を赤くしながら「どうも」と言ってそっぽを向いてしまった。
「一旦、死体は放置して中央に戻ろう。本来であれば他二体が駆けつけて来るはずなんだ」
「分かった」
俺達は死体を放置したまま、月ノ大熊が待機している中央エリアへと戻った。一撃で倒せたし、他二体が来るにしても時間的な余裕はあるだろう。
そう思いながらも駆け足で戻ると――中央エリアからカカさんの叫び声が聞こえて来た。
「戦闘準備だべ!」
たとえ一撃で倒せても他の二体に感付かれてしまうのか? そう考察しながら中央エリアに足を踏み入れる。
「アッシュさん! 他の二体が来たぞ!」
カカさんが奥を指差し、俺はそちらに注目する。すると、二体のヤドカリ型ゴーレムが球体の状態でコロコロと転がって来る姿が見えた。
一撃した際、警告音は鳴らなかったはずだ。だが、それでも感付かれてしまうのか。一体が排除されると絶対に感付かれる何かがあるのだろうか。
「僕がやります!」
気合の入った声と共にレンが前へと飛び出した。両手それぞれを二体のヤドカリ型ゴーレムに向けて、先ほどと同じく紫色の雷を放つ。
両手からそれぞれ発現した雷が二体のヤドカリを貫き、コロコロと転がっていたヤドカリ型ゴーレムは後方へとバウンドしながら吹っ飛んでいく。やがて動きが止まって、先ほどと同じように黒煙を上げながらピクリとも動かない。
「す、すげえべ……」
やはり、魔法への感想は月ノ大熊も俺と同じらしい。いや、恐らくは誰が見ても同じ感想を抱くか。
「よし、よくやった」
「えへへ」
ミレイに褒められ、頭を撫でられるレン。彼の嬉しそうに笑う姿は、姉に褒められる子供のように見えてしまった。
少し子供っぽい一面を眺めつつも、俺は球体のまま黒煙を上げるヤドカリ型の死体に顔を向けた。
「あれ?」
ただ、いつもと様子がおかしい。
中央エリアで討伐したヤドカリ型ゴーレムの死体は、壁の中から湧き出た蜘蛛型ゴーレムに群がられて解体されてしまうのが常だ。
だが、今日はそれがない。
ただ単に警告音が鳴らず、蜘蛛型ゴーレムを呼び寄せなかったからだろうか? 不思議に思いながらも俺は死体を回収しようと近づいて行くと――左側の壁からガタガタガタという音が聞こえ始めた。
通路の壁――いや、その壁の中から聞こえる音に気付き、俺は回収作業の手を止めてそちらに顔を向ける。すると、今度は壁が震え始めたではないか。
「何かおかしいぞ!?」
明らかな異常事態に、俺は急いで仲間達がいる位置へと戻った。
ガタガタガタと鳴っていた音が今度はガリガリガリと何かを削るような音に変わる。
「何が起きてるっぺ!?」
「分からん!」
依然として壁の中から聞こえる大音量の音に対して、俺達は全員警戒を強めながら武器を抜いた。全員が武器を抜いて構えた瞬間――中央へ伸びる通路左手側の壁が粉々に砕けて弾け飛ぶ。
何かが壁を破壊したのだ。破砕音と共に壁の破片が飛び散って、壁には大穴が開いた。その中から出て来たのは、体長二メートル半はあろう歪なヤドカリ型の巨大ゴーレムだった。
「な、なんだ!?」
ヤドカリ型ゴーレムと表現したが、その形はこれまでの物とは違っている。
六本の太い脚、胴体には左右に二本ずつ縦に生えた計四本の腕。腕の先端は上側が鉄球のようになっていて、下側の腕は剣のように鋭いブレード状になっていた。
背中にはボコボコにへこんだ箱のような物を背負っている。
ただ、一番注目すべきなのは体を構成する金属らしき材質が異なる物同士を継ぎ接ぎしているかのような状態になっている事だ。
右側に生えた脚の二本が鋼色の金属になっていて、左側に生えた三本の脚は金色であったり。本体も鋼色と銀色の金属を継ぎ接ぎして構成されており、銀色の頭部には金と黒の巨大な目が備わっていた。
異なる金属同士を組み合わせて生まれたかのような巨大ゴーレムは、俺達を色違いの目玉でじっと見つめたあとぎょろぎょろと動かし始めた。
「せ、先輩! これって……!」
驚きの声を上げるウルカに俺は巨大なゴーレムを睨みつけながら答えた。
「ネームド……!」
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