第101話 四人パーティー 1
リン・アルバダインさんに頼まれた件もあって、俺は責任者であるベイルにミレイ達とパーティーを組む旨を伝えた。
他都市からの協力者という立場であるミレイ達をパーティーに加えるのはそう簡単に許可されないかとも思っていたが、理由を伝えれば思いの外あっさりと許可された。
むしろ「いいよ」の一言で済んでしまったのだが……。
「アッシュの元部下なら期待できそうだからね。アルバダイン氏も魔法使いであるし、下層調査に役立ちそうじゃないか」
ベイルの狙いとしては、戦力の増強による調査速度の加速だろう。
特に魔法使いの加入は大きい。二十一階に出現するゴーレムのように物理攻撃に対する耐性を持った魔物も今後増える可能性があるし。
というわけで、俺達は協会にもパーティーを組んだ旨を申請して正式に四人パーティーとなった。
本日は二十一階で初陣、そして四人体勢になったパーティーの
「レンさんは魔法使いと聞いていますが、どのような魔法が得意なんですか?」
二十階で軽く打ち合わせしている最中、俺は最も重要な質問を口にした。彼の魔法が得意とする種類、通用する敵と通用しない敵の把握は大事だろう。
「レンで結構です。あと、敬語も不要です」
ただ、レンさ――レンは俺に対して何というか……。少々敵視しているようだ。それがどうしてかは不明であるが。
問うた俺を睨みつけるように見て、ふんっと鼻を鳴らしながらそっぽを向くのは子供が拗ねたように見えてしまう。
このような想いを抱いているのが顔に出てしまっているのか? 決して馬鹿にしているわけじゃないのだが……。
俺が自分の顔を手で触っていると、横にいるウルカが「ふふっ」と笑いを零した。そして、レンさんの隣にいたミレイは彼の頭にゲンコツを落とす。
「あいたっ」
「おい。共に命を預け合う仲間にはちゃんと接しろ」
真面目な顔でゲンコツを落としたミレイにレンさんは小さな声で「すいません」と謝った。
「……得意な魔法は雷です。雷以外も使えなくはないですが、攻撃手段としては微妙です。ですが、第一に出現するゴーレムは問題なく狩れていました」
まだ多少のトゲはあるが、彼はハッキリと伝えてくれる。
「第一にはゴーレム以外は出現しないのか?」
「いないね。ただ、第一のゴーレムに対してはレンが本気で魔法を撃てば一撃で倒せるほどの威力があるよ。ゴーレムに効くんだから、他の魔物にもある程度は効くと思うけどね」
一撃は凄いな。もしかしたら、厄介なヤドカリ型ゴーレムも一撃で葬れるかもしれない。となれば、随分と狩りやすくなりそうだ。
「ミレイは?」
「腕は落ちちゃいないよ。私とアッシュが前、ウルカとレンが後ろ。それが正解だろ?」
「二人で前をうろちょろしちゃ、魔法が撃ちにくいとかないか?」
「大丈夫。その辺も
第一ダンジョンでペア活動している際、ミレイが前衛となって激しく動き回っている間を縫うように魔法を当てる練習をしたようだ。
聞くだけなら簡単だが、随分と無茶な訓練をしたなと思う。仮にミレイに魔法が当たったら無事では済まないだろうし……。
「私には一回も当たらなかったから大丈夫だろ」
「当てたらミレイさんが死んじゃうかもしれないじゃないですか!?」
「私が死んだら一人で生きろって脅しが効いたのかもな」
ケラケラ笑うミレイであるが、そういった緊張感と責任感を無理矢理持たせて急速成長させたという事か? 相変わらず無理をする。
ただ、それだけレンを信頼しているという事だろうか。
「とにかく、やってみようか。最初はゆっくり行こう」
「おう」
俺達は二十階に常駐している騎士に挨拶をしてから、二十一階へと降りていった。
「ゴーレムの習性は聞いているか?」
「ああ。金属に反応するんだろ? んで、ヤドカリが出たら人間を襲う」
「合ってる。ヤドカリ型は特定の位置にいるようだが、万が一遭遇したら最速で処理する」
「了解」
さすがは元同じ部隊の仲間といったところか。話が非常に早い。
最初のエリアを通り越し、階層の中心にある中央エリアへと向かうと――
「あれか」
左手側に目を赤く光らせたゴーレムが四匹。カタカタと足音を鳴らしていたが、ピタリと止まった後に俺達へと体の向きを変えた。どうやら捕捉されたようだ。
「最初は私とレンでやるよ」
「ああ」
ミレイは持っていた槍をくるりと回す。
彼女から聞いた話よると、槍は第一都市で購入した物らしい。俺やウルカの武器と同じく合金製の槍だ。対するレンは合金製のタガーを片手に持って、顔には緊張が露わになっていた。
「行くよ!」
ミレイは鋭い目付きでゴーレムを睨みつけ、全速力で相手に駆け出す。遅れてレンが後に続いた。
「フッ!」
ゴーレムに向かって駆けるミレイ。相手もミレイの持つ槍や胸当ての金属に反応したのか、揃って走り出した。
両者激突……とはならず。ミレイは槍の間合いに入ると、先頭にいたゴーレムに向かって槍を下から掬いあげるように振るった。
槍の先端がゴーレムの顔下を捉え、絶妙な威力で宙へと舞うゴーレム。そのまま彼女は槍を脇に引き戻し、宙に浮いたゴーレムの頭部を的確に捉えて突き刺した。
槍の先端にぶっ刺さったままのゴーレムごと無理矢理槍を振り回し、接近して来た他の三体を払う。一体、二体と槍に払われたゴーレムは左手側の壁に払い飛ばされ、三体目は槍に突き刺さっていたゴーレムがすっぽ抜けて共に右手側の壁へと激突。
「レン!」
「はい!」
ミレイが彼の名を叫ぶと、レンは片手を左手側に吹き飛んだ二体へと向けた。彼の背中しか見えず、表情は見えないが随分と集中している雰囲気が漂う。
次の瞬間には、彼の手からバチンと音が鳴って強烈な閃光を生んだ。閃光は木の枝のような、いくつも枝分かれした歪で鋭い線を成し、床で態勢を整えていたゴーレム二体に突き刺さる。
白く光る雷がゴーレムに突き刺さった瞬間、バヂンと激しい音がゴーレムの体内から鳴ったのが聞こえた。ゴーレムは六本の足を痙攣させながら床に沈み、体の中から黒い煙を吐き出して動かなくなった。
「すごいな」
さすが魔法使いだ。ベイルーナ卿が魔法を撃つところを見てはいるが、改めて見ても意味不明な威力だと思い知らされる。
一気に残り一匹となったゴーレムであるが……。
「はい、終わりっと」
巧みに槍を振り回し、脚を払って裏返しにされたゴーレムを踏みつけるミレイ。彼女はそのまま頭部に槍を突き刺して最後の一匹を仕留めた。
「どうだ?」
討伐したゴーレムの頭部から槍を抜くと、ニヤッと笑いながら問いかけてくるミレイ。
「相変わらず良い腕だ」
「だろ? へへへ」
彼女の腕前は帝国騎士団時代から変わらない。いや、第一都市で対魔物戦を繰り返していたおかげで更に磨きがかかったといったところか。
「魔法も凄かったな。まさか二体まとめて一撃とは」
「……どうも」
俺が正直な感想を述べると、レンは顔を逸らして短く返した。打ち解けるにはもうちょっと時間が必要か。
まぁ、いきなり仲間になった相手をすぐに信頼しろってのも難しい話だ。彼以外は帝国時代からの知り合いというのもあって余計だろう。
俺が彼との距離を縮める方法を思案していると、背後から気配を感じた。ただ、魔物の気配ではない。人だ。
「おーい!」
声を掛けられ、振り返れば重装備を身に纏った巨体の男達。第三都市よりやって来たパーティー、月ノ大熊達がいた。
「えっと、カカさん?」
恐らくは声でリーダーであるカカさんが声を掛けてきたと思うのだが、如何せん全員が同じ重鎧とフルフェイス兜を被っていて見分けがつかない。
「おお。すまねえ、すまねえ」
俺が疑問形で問うと彼は兜のバイザーを指で上げて素顔を晒した。
「アッシュさんも狩りだべか?」
「ええ。今日はパーティーメンバーが増えたので慣らしです」
「そうでしたか。オラ達は協会の要請で狩りに来たんだが、ヤドカリはどうすっぺか?」
お互いの目的を告げたあと、提案されたのは二十一階に三体出現するヤドカリ型ゴーレムについてだった。
彼等はまだ二度目らしいが、既にヤドカリ型と遭遇・戦闘は行っているようだ。その自慢の力と巨大な武器を用いる事で問題無く討伐できているんだとか。
「今回、こちらに譲ってもらえませんか? 四人の連携に使いたいのですが」
「ああ、構わないっぺよ。んじゃ、オラ達はここで待機してるだ」
カカさんは笑いながら下を指差した。現在地である中央エリアで待機しておき、万が一の際は助力してくるという。
なんて良い人達なのか。
「すいません」
「いいや。ハンターってのはお互い様だべ」
気の良い彼等を無駄に待たせるのも悪い。
俺達は右手側通路奥にいるであろうヤドカリ型ゴーレムを目指して進み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます