第90話 気合、根性、力押し! パワー!


 ヤドカリ型ゴーレムを討伐した翌日、俺達ハンター組は今日も二十一階に潜っていた。


「昨日、どこまで整備したんだい?」


 先日、騎士団によるヤドカリ型ゴーレム討伐後に俺とウルカを除く上位パーティーが二十一階の整備を行った。


 夕方過ぎに戻って来た彼等から聞いた話だと、中央通路の整備を進めていたがヤドカリ型ゴーレムには遭遇しなかったらしい。現状、俺達の間では二十一階に出現するヤドカリ型は全部で三匹なのではないか、という認識だ。


「中央通路の途中までだな。昨日、新しい扉も見つかってよ。その中にあった箱の回収で終わりにしたんだわ」


 代わりに見つけたのはいくつかの小部屋で、中には遺物入りの箱が放置されていたらしい。昨日だけでも新たに三箱発見されたようだ。


 ここへ来て遺物の発見ラッシュに学者達からは連日嬉しい悲鳴が上がり続けている。


 学者達は「これで新しい魔導具が!」だとか「こんな発想が!」などと悲鳴を上げていたが、俺には何のことかさっぱり理解できない。もしかしたら、数年後にはまた便利で新しい魔導具が登場するのかもしれないな。


「まぁ、今日は整備よりも先にやる事があるしな」


「ああ」


 タロンの言う通り、本日午前中に行う目標は階層整備ではない。


「打撃が有効ってのは分かったが、魔導兵器に限っての話じゃねえの?」


「ダメだったら即撤退だよ」


 本日、午前中に行うのは復活しているであろうヤドカリ型ゴーレムの討伐だ。それも魔導兵器を使わないハンターのみでの討伐を決行する。


 前回の討伐はマックス氏が所持していた魔導兵器によるところが大きい。故に今回は我等ハンター達だけで実現可能な討伐方法を試す事となった。


 そこで、用いるのはマックス氏同様の大槌。魔導兵器のように魔法効果は付与されないが、筋肉自慢のタロン達に大槌を振るって攻撃してもらう。他にも、俺は剣からメイスに武器を変えて応戦だ。


「遠距離攻撃で倒せれば良いんですけどね」


「そっちは学者さん達の回答待ちだろうな」


 現在、学者さん達はヤドカリ型ゴーレムの装甲を詳しく調べている最中だ。サンプルを王都にも送りつつ、現地でも討伐に繋がるヒントを考えてもらっている。


 遠距離攻撃の代表である弓での討伐は学者達による回答と対策を聞いてからではないと難しいだろう。特に既存の矢じりでは装甲を貫く事は難しいので、新素材を使用した新しい矢を完成させないと厳しいかもしれない。


「まぁ、とにかくやってみよう」


 ターニャもメイスを担ぎながら頷きを返した。


 道中、現れた蜘蛛型ゴーレムを打撃武器で破壊しつつも、右奥の部屋へ向かう。


 部屋の中には前々回、前回と同じくヤドカリ型ゴーレムが球体の状態で待機していた。毎回ここで待機しているし、ヤドカリ型は定位置を守るようになっているのかもしれない。


 今回の討伐が上手く行ったらこの部屋の中も詳しく調べてみたいものだ。


「さて、どうする?」


「まずはタロン達の大槌で試してみるか? それと一斉にみんなでいくか?」


「これから先、ずっと全員で行動するという訳でもあるまい。パーティー毎に試すべきだと思う」


 入り口前で打ち合わせをして、今回はタロン達が先陣を切る事になった。


 彼等が持ち込んだ大槌でヤドカリ型ゴーレムを袋叩きにして討伐できるかどうかを試す事に。討伐が遅れたり、非常時には全員で仕留める、もしくは撤退するという決め事をして――


「行くぜ!」


「オラァァッ!!」


 タロン、ラージを筆頭とした筋肉モリモリマッチョマン六人が大槌を担ぎながらヤドカリ型ゴーレムに迫る!


『ビー!』


 部屋の中に進入して、接近を捉えたゴーレムは音を発するが、タロン達は容赦なく大槌を振り下ろした。


「びーびーうるせえ!」


「仲間を呼ぼうったってそうはいくかよ!」


「筋肉パワーッ!」


 ガッツン、ガッシャン、ガッツン、ガッシャン。恨み言を口にしながら何度も何度も大槌を振り下ろしていくタロン達。彼等が振り下ろした大槌はヤドカリ型ゴーレムの装甲をボコボコにしていき、次第にゴーレムが発する音にノイズが混じり出す。


『ビ、ビー、ビビ……。ビー……』


 打撃に次ぐ打撃にゴーレムは動きを封殺されてしまい、遂には体から力が抜けて地面に崩れ落ちた。


「ぜぇ、ぜぇ……。ど、どうだ、この野郎!」


「しゃー、オラァ!」


 ヤドカリ型ゴーレムを討伐したタロン達は、大槌を杖のようにしながら肩で息を繰り返す。


 やはり剣よりも槌の方がダメージを与えやすいのだろう。改めて観察してみると、ヤドカリ型はそう戦闘能力が高くない気がする。あくまでも蜘蛛型ゴーレムを呼び出して狂暴化させる事が脅威と言えるだろうか。


「もっと効率的に戦えば、案外楽な相手かもしれないな」


「俺達が効率的じゃなかったみたいに言うな!」


 腕を組みながらタロン達の戦闘を見守っていたターニャも同じ感想のようだ。


 ヤドカリ型と遭遇した当初は脅威度の高い相手にしか思えなかった。だが、犠牲を伴って得られた情報はやはり大きかった。彼等の死は決して無駄になってなどいない。


「よし。次は中央エリアに戻ろう。前回と同じなら他の二体がやって来る頃合いだ」


 それを証明する為にも次は俺自身が一体仕留めたい。


 死体を回収した後に来た道を引き返して中央エリアに戻ると、やはり中央に伸びる通路の先から二つの球体がコロコロと転がって来た。


「片方は俺が。もう片方はターニャ達に任せる」


「ええ」


「タロン達とウルカは万が一、蜘蛛型ゴーレムが湧いた時の状況判断を頼む」


「分かりました」


「ああ」


 コロコロと転がって来たヤドカリ型ゴーレムは中央エリアに進入するとピタリと止まる。それを合図に俺達は全速力で接近した。


 接近したと同時にゴーレムはくるっと回転してヤドカリ状態に変形。俺は相手の頭部の位置を確認しながらメイスを構えて――


「おおおおッ!!」


 思いっきり顔面にメイスを叩き込んだ。ガツンと鈍い感触が腕に伝わる。


 これまで観察して来て分かった事がある。それは、ヤドカリ型ゴーレムが変形する際や何かアクションを起こす際に一瞬の間が空くという事だ。


 変形してから音を発する前、人間を捉えた後、何か攻撃や移動を行う寸前、そういったタイミングに数秒の間が空く。


 この瞬間は無防備であると予想していたのだが、俺が振るったメイスがすんなりと顔面に叩き込めた事を見るにどうやら正解だったようだ。


『ビビビ!』


 顔面叩き込んだメイスを戻して、再び俺は腰を入れたフルスイングを頭部にお見舞いする。


 ガシャンと金属が割れて、メイスの当たった箇所からは火花が散った。次は掬い上げるように下から上へと振り上げると、ゴーレムの体が反り上がった。


 これはチャンスだ。俺は力を込めて、メイスでゴーレムの体を持ち上げる。そのまま裏っ返すように押し倒した。


 背中に背負っていた半球体から地面に倒れると、ヤドカリ型ゴーレムは脚と腕をバタつかせてもがき始めた。どうやら自力では復帰できないようだ。


 裏返った亀のようにもがく姿を見て、俺はゴーレムの体と頭部をメイスで殴打し続けた。欠けた金属片が飛び散る中、周囲からは「カタカタカタ」という足音が鳴り始める。


「先輩! 蜘蛛型ゴーレムです!」


 どうやらタイムリミットが近いらしい。蜘蛛型ゴーレムが壁の中から這い出て来たようだ。


「いい加減、くたばれッ!」


 渾身の一撃を頭部に叩き込むと、俺の振るったメイスが頭部の装甲を破壊して内部にまでめり込んだ。同時に火花と灰色の煙が上がると、ヤドカリ型ゴーレムの体から力が抜けて動かくなる。


「ターニャ!」


「こっちも仕留めた!」


 俺達はすぐさま後方へと戻り、這い出て来た蜘蛛型ゴーレムの動きを観察する。


 奴等の目の色は赤い。大量に這い出た蜘蛛型ゴーレムは死亡したヤドカリ型ゴーレムに群がり始め、牙を回転させながら死体を解体し始めた。


「やっぱりゴーレムの死体を優先するのか」


 前回もそうだったが、この状態になると人間が身に着けている金属よりも死亡したヤドカリ型ゴーレムの死体を優先するようだ。


 牙を回転させながら死体を細かく解体していき、口の中に解体した金属片を回収していっているようだ。観察していると徐々にヤドカリ型ゴーレムの死体は原型を失くしていって、最後には金属片一つすら残らなかった。


「次は俺達を襲うんじゃねえか?」


 最後まで観察した後、俺達は武器を身構えるが……。蜘蛛型ゴーレムはカタカタと足音を鳴らしながら壁の穴の中へと消えて行く。


「襲って来なかったな」


「腹いっぱいになったってか?」


 ターニャの呟きにタロンが返すが、あながち間違いではなさそうに思えた。


 以前、学者達が蜘蛛型ゴーレムを解体した際、腹の中には金属を溜めておく袋があった。ヤドカリ型ゴーレムを解体した事で、あの袋がいっぱいになったんじゃないか?


 そういう意味では「腹いっぱい」という表現も間違いには思えない。


 だが、腹いっぱいになったゴーレム達はどこへ向かうのだろうか? 腹の中に溜まった金属はどうなってしまうのだろうか?


 未だ謎は多い。


「何にせよ、ゴーレムを倒せたのは大きな進展だ」


 ターニャの言う通り、俺達でもヤドカリ型ゴーレムを倒す事はできた。


 討伐の肝としては「スピード」だろう。蜘蛛型ゴーレムが集まって来る前にヤドカリ型ゴーレムを倒してしまえば良い。とんでもなく脳筋めいた戦い方ではあるが、現状ではこれが最的確だと思う。


「一匹だけならどうにか出来そうだけどよ。複数匹を相手するのは厳しいんじゃねえか?」


 ただ、タロンの懸念も正しいだろう。


 パーティーメンバーが多ければ複数体と戦っても可能性はあるかもしれない。だが、俺とウルカのようなペアで動いているハンターにはキツイ相手か。


「もう少し倒し方の研究が必要かな?」


「学者達の回答を得てから考えを纏めても遅くはあるまい。まずは全員で脅威を排除して、階層の調査と整備を進めた方が良さそうだ」


 改めてターニャが優先順位について口にした。彼女の視線は俺に向けられていて「あまり焦るな」と言われているように思えた。


 だが、討伐自体は出来たのだ。これで一歩どころか数歩は前進したと言えるだろう。


 これ以上犠牲者を出さずに二十一階を進んでいきたいものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る