第31話 ダンジョン調査計画 1
昨晩、歩けないほど飲み過ぎたウルカだったが、朝起きた時には昨晩の影響を全く見せなかった。
「ウルカ、本当に大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
二日酔いになっている様子もなく、まったくもって正常だ。朝からずっと俺の腕を掴んでいる以外は正常である。
そんな状態で協会に向かったが、他のハンター達が俺達を見ても普通の反応を返してくる。腕を組んだ状態すら指摘もされないし、冷やかしすら飛んでこない。
もうこれが普通だと思われているのか。
「あ、アッシュさんとウルカさん。丁度良かった」
協会にいたハンター達と朝の挨拶を交わしながらカウンターへ向かおうとしていると、俺達を見つけたメイさんに声を掛けられる。
「丁度、宿まで使いを出そうと思っていたんです。午前中、時間をもらえますか?」
「良いけど、何かあったのかい?」
「いえ、事件というわけじゃありません。騎士団から話があるそうで、上位パーティーを集めておくよう要請が来ましたので」
騎士団って事はベイルか?
彼が上位パーティーを集める理由はなんだろうか。
「あ、来られましたね」
メイさんがそう言って、入り口に向かって頭を下げた。振り返ればベイルが部下を連れて協会へ入って来るところであった。
「やぁ、アッシュ。おはよう」
「ああ、おはよう。どうしたんだ?」
「ちょっと協力してほしくてね。まぁ、皆の前で話そうか」
そう言われて、俺達はメイさんとベイルの後に続く。協会の一階にある会議室へ入ると、そこには上位パーテーが勢揃いしていた。
「おや、アッシュにウルカ。昨日振りだね」
中には当然、昨晩一緒に飲んだターニャのパーティーもいる。彼女は椅子に座りながら優雅にコーヒーを飲みながら笑った。
「ぐるる……!」
ウルカは彼女に敵意剥き出しだ。俺の腕をきつく抱きしめながら威嚇する狼のように鋭い視線を向ける。
他にも『筋肉の集い』に所属するタロン達や『黄金の夜』のリーダーであるカイルさんの姿もあった。彼等も会議室の椅子に座りながらお茶を飲んでいて、ダンジョンへ向かう前に集まるよう言われたのだろう。
実際、この三パーティーの他にも上位パーティーは存在するのだが……。
「この前のデュラハン騒ぎでメンバーが欠けたパーティーもいますので、現在集められる上位パーティーはこれだけです」
メイさんがベイルへ告げたように、第二ダンジョン都市協会内で精力的に動ける上位パーティーはこれだけだ。
俺とウルカも着席するよう促され、着席したタイミングでベイルの話が始まった。
「ふむ。まぁ、仕方ないだろう。さて、さっそく本題に入ろう。騎士団から君達に協力要請を申し入れる」
そう宣言したベイルは室内の者達を見回したあとに言葉を続けた。
「実はデュラハンの件で王都が騒いでね。早々に二十階の調査をしたいと申し出が来た」
説明をするベイル曰く、王都からの申し出はほぼ強制みたいな内容だったらしい。ただ、第二ダンジョンを管理するベイルの実家も調査計画は練っていたのでそれほど慌てなかったようだが。
それはさておき。ダンジョンの調査を進める王都研究所がここまで急く理由は、デュラハンの出現も大きな理由になっているそうだ。
「ここ数年、ネームドが出現したダンジョンは第二都市のみ。王都研究所は第二ダンジョンに何かが起こっているのでは? と考えているようでね」
他にあるダンジョンは非常に安定しているようで、第二ダンジョンのようにネームド出現といった事件は起きていない。数年の間に「何か」が起きているのは第二ダンジョンのみであり、王都研究所はそれを「異変」と見るかどうかを調査したいようだ。
加えて、第二ダンジョン最深部の調査は数年進んでいない。まとめて調べてしまおう、というのが今回の意向らしい。
「王都研究所はかなり大規模な調査を行う予定だ。よって、君達には騎士団と同行して最深部まで向かってもらう」
王都研究所からは数人の学者が、王都騎士団からは増援として騎士隊が数組。それに第二ダンジョン都市騎士団であるベイル達と俺達上位パーティーが調査隊に加わるとのこと。
「それは強制でして?」
手を上げて質問したのはターニャだった。貴族向けの言葉遣いで質問した彼女に対し、ベイルは頷きを返す。
「強制だね。今回の調査はあくまでも国が主導だ。言い出したのは王都研究所だが、女王陛下の命令として研究所と王都騎士団が動く」
お上の命令となれば、国民である俺達が断る事はできない。どの国でも同じだが、王族からの命令は絶対だ。
「そこまでですのね」
「ああ。王都研究所からはベイルーナ卿が直々に調査へ赴くようだよ」
「まぁ……。それはそれは……」
ターニャはベイルが口にした「ベイルーナ卿」という名を聞いて、本気で驚いているようだ。その人物がどんな人なのかは分からないが、聞くに貴族っぽい人物だと推測できる。
「ベイルーナ卿って魔法使いでしたよね?」
今度はタロンがそう質問するとベイルは頷いた。
「ああ。道中の魔物処理に少し手を貸してくれるらしい。比較的スピーディーな進行が期待できるだろう」
なるほど。ベイルーナ卿って人物は王族の血を引く人物か、もしくは歴史のある上位貴族の一員なのだろう。
魔法使いであり、研究所の学者として活躍する人物が直接ダンジョンへ入るのか。そりゃ大事にもなる。
「ベイルーナ卿はデュラハンに対して非常に大きな興味を抱いているようだ。だから……頼むよ、アッシュ」
ベイルは俺の顔を見ながら苦笑いを浮かべた。彼の表情からは……どうにも嫌な予感がするが。
「どういう事だ?」
「ベイルーナ卿はダンジョンと魔物の研究に熱心でね。かなり細かくデュラハンの事を聞かれると思う」
曰く、俺とウルカが書いたレポートでは満足しなかったらしい。今回の調査計画が浮上する前の段階でも直接第二ダンジョン都市へ足を運んで、戦った当事者から直接話を聞くと騒いだとか。
それを周囲に止められてしまい、次なる案として立てたのが今回の調査計画だったようだ。
つまるところ、彼の興味と研究心を満たす為に今回の計画が遂行される。
「まぁ、何と言えばよいか……。あの方は、ダンジョンや魔物の事になると非常に活動的でね。好奇心の塊と言えばいいか……」
「本人は研究所に勤めず、ハンターになりたかったと言っているほどですわよ」
ベイルが言ったあと、同じく王国貴族家の出身であるターニャが語る。二人共困ったような表情を浮かべていて、ベイルーナ卿の「厄介さ」を知っているようだ。
「つまり……。重度のダンジョンマニアって事か?」
「そう言った方が簡単かもしれないね」
なるほど。今から何を聞かれるのか怖くなってきたな……。
「じゃあ、貴族様のお世話はアッシュさんで決まりだな」
タロンがニヤニヤしながらそう言った。他人事だと思って楽しそうにしてやがる。
「すまないね。そこまで身分や礼儀にうるさい方ではないから、この調査の間だけでも我慢してくれると助かるよ」
ベイルは同情するように言いながら俺の肩を叩いた。俺が帝国で貴族からどんな仕打ちを受けたのか知っていても尚頼んで来るという事は、彼でもベイルーナ卿を制御できないのだろう。
「す、少しは助け舟を出してくれよ?」
「ああ、もちろんさ」
すまないね、と再び詫びを言われてしまった。不安だ。滅茶苦茶不安だ。
「さて、今回の調査がどういうものかは理解したね? 発端はどうあれ、国主導の調査である事は変わりない。調査開始は二週間後だ。来週には調査計画を知らせるので、各自準備をしておいてほしい」
騎士団からの通告は以上のようだ。ベイルは全員に礼を告げたあと、部屋から立ち去って行った。
「あ、皆さんはちょっとお待ちを。調査に関して協会からの説明がありますので!」
俺達も解散かと思いきや、まだ協会からの説明や指示があるらしい。浮かせかけた尻を再び椅子の上に置いた。
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