三章 ダンジョン調査計画
第29話 事件から一週間後
デュラハン騒動から一週間経った現在、俺とウルカは元気にダンジョンで活動していた。
活動の場として選んだのは地下十三階から十五階。いや、活動の場として指定されたと言うべきか。
デュラハンを討伐して一週間経った今でも、協会は再びデュラハンのようなネームドが十三~十五階に出没するのではないかと危惧していた。
そこで、ネームド討伐経験のある俺達に「しばらくは十三~十五階で狩りをしながら調査・監視をしてくれませんか?」と依頼が入ったのだ。魔物から採取できる魔石の報酬に加えて、依頼の報酬までもらえるので実においしい。
そんな理由もあって、今は毎日十三階からスタートし、十六階に続く階段前まで到達したら引き返すという順路を繰り返している。
「ウルカ! 左二匹!」
「はい!」
毎日繰り返し続けている順路であるが、特に時間が掛かるのは十五階だろう。
十三階から十四階はバリエーション豊かな近接装備を持った骨戦士が単体、もしくは最高でも三体程度で出現していたのだが、十五階になると近接武器を持った骨戦士に加えて弓を扱う骨弓士というべき存在まで登場する。しかも、骨戦士達はハンターと同じようにパーティーを組んで集団行動まで行ってくるのだ。
ハンター達に比べて連携はお粗末なものであるが、それでも前衛・後衛といった役割分担を行う事に最初は驚きを隠せなかった。
ただ、連携は俺達だって負けていない。いや、むしろ騎士団時代から共に戦って来た俺達の方が優れているに決まっている。
基本的には俺が接近してくる骨戦士を相手して、後方から弓を構える骨弓士はウルカが処理すれば良い。
骨戦士と戦いながら立ち位置を調整して、ウルカの為に射線を確保してやれば完璧だ。ウルカは的確に骨弓士のボロボロな弓を破壊して無力化してくれる。何かあっても短い指示だけで俺の意図を汲み取ってくれるウルカの存在は有難く、そして頼もしい。
スケルトン共に共通する事項であるが、骨戦士も骨弓士も武器さえ壊してしまえば怖い相手ではない。ウルカに敵の弓を破壊してもらえば、いくら魔石を壊さぬ限り不死身であっても武器は修復されないのだ。近接武器を持った骨戦士共を処理したあと、骨弓士の魔石を奪ってやれば良いだけだ。
「ふう。相変わらず数が多いな」
「はい。遭遇率も高いですね」
他にも十五階で厄介なのは、パーティー編成された骨戦士達の遭遇率が高いところか。大体が五匹から六匹の集団になって徘徊しており、酷い時などパーティーが合流したのか十匹以上の集団にまで出会う事すらある。
一匹一匹はそう強くないが、集団となると話は別だ。これでは確かな実力を持つハンターでなければ対処できないだろう。
「ただ、稼ぎは最高だ」
「片道だけでもう魔石が七十個以上ですからね」
十三階から十五階終点近くまでの片道でこの数だ。往復すれば百五十個以上採取できる可能性だってある。ブルーエイプを狩るよりよっぽど効率が良い。
「まぁ、今だけだろうけど」
「そうですね」
現在はデュラハン騒動の延長で十三階から十五階は認可されたパーティーしか立ち入れない状態だ。
俺達の他に三組ほど認可されているが、制限が解除されたらそれほど稼げる狩場とは言えなくなる。となると、俺達は十六階に向かう事を視野に入れるべきか。
「十六階ってどうなっているんですか?」
「丁度良いし、覗いて行くか?」
俺も十六階は初見だ。後の事を考える為にも一度は覗いて行った方がいいだろう。丁度、十五階の終点まであとちょっとだしな。
そんなわけで、俺達は十六階へ続く階段に到達すると下へと降りて行った。
行ったのだが……。
「おいおい……」
「これは……」
待っていたのは、いつものダンジョン摩訶不思議体験。俺達の目の前に広がるのは、なんと荒れた果てた荒野だった。
赤土のような地面にカラカラに干からびた細い草、ちょっと先にはサボテンのような謎の植物。空を見上げればサンサンと光る太陽に白い雲。
「あの、とんでもなく広くないですか?」
何より、視界の遥か先には地平線が広がっていて、どう考えてもダンジョンの中とは思えぬ広大さ。次の階層へ続く階段まで何キロあるんだ、と思わせるような広さである。
「いや、でもな」
後ろを振り返ると、降りてきた階段と石の壁が左右に続いているのだ。顔を横に動かしながら壁を追っていくと途中で石の壁が切れているのが見える。
目の前の広大な景色は『映っている』だけであって、実際は他の階層のように箱庭なんじゃないだろうか?
「ちょっと先に崖っぽいのもありますよ?」
「本当だ」
ウルカが指差した先には割れた地面があって、割れた地面を渡るための吊り橋が見える。吊り橋は木とロープで作られた簡単な物で、ゆらゆらと風に押されて揺れていた。
そもそも、まだ下の階層があるっていうのに地面が割れているのはどういう事なんだ?
「不思議だな」
「本当ですね」
二人揃って「不思議だね」としか言いようがない。というか、説明しようがない。王都の学者さんから詳しい話を聞けるなら聞きたいくらいだ。
入り口前で呆けていると、ふと俺達の足元に巨大な影が差す。それに気付いて上を見上げると――巨大な鳥と目が合った。
「クェェェッ!!」
全長二メートルはあろう巨大鳥は、赤い羽根で覆われた翼を広げながら黄色いクチバシを開けて威嚇するような鳴き声を上げる。
猛禽類のような鋭い目付きで俺達を睨み、空中をクルクルと旋回しながら鳴き声を上げ続けた。
「先輩、前!」
すると、鳴き声に釣られたのか、小型の鳥が十匹ほど追加でこちらに飛んでくる。全身が赤色をしていて、クチバシが黄色い。どう見ても、上で旋回している巨大鳥の子供にしか見えない。
親鳥の声に引き寄せられた小鳥達は、俺達を見つけるなり翼を折り畳んで急降下。鋭いクチバシを武器に、体を矢のようにして突き刺し攻撃を行う気満々だ。
「マズい! 落とせるか!?」
「はい!」
慌てて武器を構える俺達は、急降下してくる小鳥達に備えた。矢を番えたウルカが突っ込んで来る小鳥二匹を射殺し、俺はギリギリまで引き付けて一匹の首を剣で落とす。
三匹殺したところで、小鳥達は急降下を止めて上空に向かってくるりと身を翻した。
「キィィィッ!」
そして、聞こえて来たのは親鳥の鳴き声。どうにも怒っているようにしか聞こえない。
上空で翼を羽ばたかせながら睨みつけて来る姿に、俺は嫌な予感を覚える。頭に過った瞬間には、ウルカの腕を掴んでいた。
「こっちだ!」
俺はウルカの腕を引っ張って階段まで走った。階段まで到達した瞬間、背後からは「ドンドン!」と何かが爆発する音に加えて、凄まじい風圧が俺達の背中を襲う。
風圧で倒れぬよう足を踏ん張ったあと、背後を振り返ると――
「おいおい」
地面には赤い羽根が突き刺さっていて、しかも地面には焦げ跡のようなものさえ残っていた。どうやら爆発音の正体はあの羽のようだ。
「上空から羽を飛ばして爆発させるのか?」
「確か協会職員が、十六階からは魔法を使う魔物もいるって言ってましたよね?」
ベイルも同じ事を言っていたな。
だとしたら、あれがそうなのだろう。地面に着弾した羽が爆発するなど、魔法以外には考えられないというのもあるが。
「とにかく、今は準備不足だ。十六階はもう少し情報収集してからだな」
「そうですね。ですが、情報提供者はいるんですか?」
「ああ。心当たりがある。問題無いよ」
俺達は降りて来た階段を引き返し、十五階へと戻って行った。
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