第23話 対デュラハン


 翌日、俺達はデュラハンの情報を元に対策を立てようと動き出した。


 向かった先は行きつけの武器屋だ。相手は炎を纏う両手剣を振るうとの話であるし、炎対策は施しておくべきだろう。


 その件をおやっさんに伝えると、彼は太い腕を組みながら唸る。


「炎対策か……。噂じゃ、剣やら大剣やらを炎の剣でぶった斬るって話だよな」


 デュラハンの振るう炎の剣は鉄や鋼の剣を容易く両断してしまうとか。鍔迫り合いになった瞬間、こちらの剣は熱で溶かされながらも切断されると考えておいて良いだろう。


 となれば、最低でも鍔迫り合いできる耐久力を持った剣が欲しくなる。


「お前の持ってる合金製の剣は、ある程度熱に耐えられると思うが」


「だが、上位パーティーのハンター達がやられたんだ。彼等も合金製の剣や槍を持っていたんだろう?」


 地下深くまで潜って稼ぐハンター達が良い武器を持っていなかったとは思えない。俺と同じ合金製の剣か、それよりも上質な物を持っていてもおかしくはない話だ。


「だが、それ以上に耐性のある剣は無いぜ。それこそ、魔導兵器以外じゃ太刀打ちできねえんじゃねえか?」


 魔導兵器の魔導機能ならば、耐熱性を上昇させるものもあるらしい。だが、そんな物は騎士団くらいしか持っていない。


 現状でデュラハンの対策を取るとするならば……。


「鍔迫り合いは禁止か」


 炎の剣を振るわれ、鍔迫り合いになれば剣が壊れる。ならば、その状況に持ち込まなければ良い。


 斬っては避け、斬っては避けのヒットアンドウェイ。己の足を使って一撃離脱を繰り返し、スピードで相手を仕留めるしか無いのだろうか。


「実際、やれんのか? 大人しく騎士団に任せた方がよくねえか?」


 おやっさんは眉を潜ませながらそう言うが、俺は首を振った。もう腹は括っているんだ。


「いや、俺が倒すよ」


 無謀にも聞こえる挑戦宣言。しかし、おやっさんは俺の表情を見て大きくため息を漏らした。


「ハンターってのは、どいつもこいつもアホ揃いだが……。おめえも変わらねえな」


「ははは……」


 何も言い返せないのが悲しい。デュラハンに殺されたハンター達だって、きっと俺と変わらなかったはずだ。


 デュラハンを倒して名誉を手に入れたい。報酬が欲しい。人によって動機はそれぞれあるかもしれないが、根底には強敵に挑みたいという気持ちがあったはず。


 だが、結果的に彼等は敗れて死んだ。


 俺だってそうなるかもしれない。でも、挑まずにはいられない。


 何故なら一目見た瞬間にデュラハンを強敵と認識してしまったから。あれを倒せるかどうか、自分の実力を試したくて仕方がない。


「チッ。アッシュ、おめえ、盾は嫌いなんだよな?」


「ああ。あんまり好きじゃない」


 どうも盾を構えて待つスタイルは自分向きじゃない。何と言えばよいか……どうにも盾を持つと攻撃への積極性が失われてしまう。盾で防御しなきゃという気持ちが強くなってしまうと言えば良いだろうか。


 俺はどっちかというと、自ら仕掛けて行く戦い方が性にあっていると思うんだがな。


「んじゃあ、どうしようもねえよ! 予備の剣をたくさん用意して、ぶっ壊れたら交換しながら戦うしかねえんじゃねえか?」


「ああ、なるほど。その手もあるか」


 事前に剣を用意しておき、壊れたら交換する。交換のタイミングはウルカに作ってもらえばいい。


 ……アリな気がしてきたな。


「おやっさん。剣を十本くれ。あと炸裂矢も十本」


「ああ、そういう事ですね」


 俺が炸裂矢を注文した時点で、ウルカは俺が思い浮べた作戦に気付いたようだ。


「……マジでやるのかよ」


 おやっさんは呆れるように言いながらも、剣の在庫を持って来てくれた。


 今使っている同じ材質、形の剣を十本、炸裂矢を十本購入して収納袋へ収めた。代金は高かったが必要経費だ。


「おい、アッシュ」


 店を後にしようとすると、おやっさんに声を掛けられた。振り返れば太い腕を組んだまま、眉間に皺を寄せるおやっさんの視線とぶつかった。


「死ぬんじゃねえぞ」


「ああ」


 俺は短く返しながら、店を後にした。


「もう向かいますか?」


「ウルカが良ければ」


「私は大丈夫ですよ」


 店の前でやり取りを交わし、俺達はダンジョンのある鉄門を目指して歩き出す。


 途中、協会の前を通ったのだが、中はまた騒がしかった。


「何かあったんでしょうか?」


 協会に立ち寄る事にして、スイングドアを押して中へ入る。すると、協会の床には血の跡があった。血の跡は個室へと続いていて、どうやら怪我人が運び込まれたらしい。


「何かあったのか?」


 入り口付近にいたハンターへ問うと、彼は頷いた後に口を開く。


「またデュラハンに挑んだ上位パーティーがやられた。今度は二人戻って来たが、一人は肩から先が無くなってたよ」


「そうか……」


 まだデュラハンは健在らしい。それを確認した後で、俺はウルカに「行こう」と告げた。


 ダンジョンの入場手続きをして、俺達はダンジョン内に進入。二人とも無言のまま十三階まで進んだ。


 十三階に続く階段を降りて行くと、階段の入り口には数人のハンター達が壁に寄り掛かりながら立っていた。


「おう、アッシュさん」


 その中の一人に声を掛けられ、俺が何をしているのか問うと……。


「見守りっつーか……。デュラハンに挑んだパーティーか戻るかどうかの確認ってやつだな」


 彼等は協会から十三階層の監視と挑戦者たるハンター達が戻るかどうかを調べているそうだ。


 ほぼ封鎖状態となった下層の魔物が氾濫しないか、十三階で異変が起きないかの監視に加えて、デュラハン討伐に向かったパーティーや人数の記録と戻って来た人数の確認をしているとか。


「最悪の仕事だぜ。今日は十人ほど向かったが、戻って来たのは二人だけだ」


 恐らく戻って来たのは協会に運ばれた二人だろう。戻って来ない残り八人は死んだというワケだ。


「アッシュさんは?」


「俺か? 俺は挑みに来たのさ」


 俺は十三階の奥を顎で指しながら言った。それを聞いた彼等は眉間に皺を寄せながら首を振る。


「止めといた方が良いんじゃねえか? さすがに今回ばかりは騎士団の出番だと思うぜ?」


 おやっさんと同じ事を言われた。


 だが、挑んだ上位のハンター達が次々に死んでいるのだ。彼等とおやっさんの言い分は尤もかもしれない。だが、それでも俺は首を振った。


「倒してみせるさ」


 ハッキリと宣言してやると、ハンター達はきょとんと固まる。そのあとで「馬鹿だな」とか「死んじまうぜ」などと意見が飛んでくる。


「やってみないと分からないじゃないか」


「まぁ、そうだがよ。……死ぬなよ」


 そう言葉を交わしたあと、ハンター達に別れを告げて奥へと向かった。


 十三階中盤、十三階の丁度真ん中くらい。


 相変わらず、ヤツはそこで立っていた。剣を地面に突き刺して、柄頭の上に両手を重ねながら。


 周囲には骨戦士も帯同しているが、前に見た頃より数が減っている。だが、その代わりにデュラハンの周囲にはハンター達の死体がいくも転がっていた。


 彼等の死体は両断され、そして焼け焦げている。なるほど、炎の剣を振るった証拠か。


「…………」


 デュラハンに対し、俺は真っ直ぐに対峙した。距離はあるが、明らかに相手は俺を捕捉しているだろう。


 だが、反応は無い。


 俺はリュックを下ろし、中から収納袋を取り出した。中から剣を取り出すと、デュラハンの肩がピクリと反応する。


 やはり、敵意や戦闘の意思を向けると反応を示すのか。しかし、反応しただけで剣を構えたりはしていない。実際にこちらが剣を構えて対峙するか、もしくは斬りかかるまでは戦闘態勢を取らないのかもしれないな。


 推測が正しいかは不明だが、俺は急いで十本の剣を取り出して壁に立て掛けていき、内一本はすぐ抜ける予備の剣として腰のベルトに括りつける。


「ウルカ、いいか?」


「はい」


 ウルカに問うたあと、俺はデュラハンに向かって歩き出した。 


 途中、俺がいつも使っている剣を鞘から抜くと――デュラハンは遂に剣を構えた。そのタイミングで俺は足を止める。


「さぁ、やろうか」


 俺は剣の先を黒き鎧の騎士へと向けて宣言した。

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