第20話 デュラハン事件
ブルーエイプでの腕試しを終えると、俺達は早々に地上へ戻った。
持ち帰った素材を協会で清算した後、久々に戦闘したであろうウルカに少し休憩しようと提案。南区にあるカフェでコーヒーやらデザートを楽しんだ後、おやっさんの武器屋へと向かった。
「おう、どうだった?」
弓と矢の試運転を行う事を知っていたおやっさんは、入店して来た俺達の顔を見るなりそう言った。
「やっぱり、合金製にするよ」
「そうかい。何本用意する?」
「とりあえず、四十本お願いします」
俺達の注文を聞くと、おやっさんは店の奥へと引っ込んだ。奥から戻って来た時には麻袋に入った金属矢を抱えていて、それを店のカウンターで広げていく。
ウルカが一本ずつ矢の状態を確認して、問題無しと言えば代金支払いとなるのだが……。
「あ、そうだ。追加で炸裂矢も欲しいです。五本下さい」
炸裂矢とは矢じり部分に火薬玉が備わった矢だ。魔物と接触すると爆発してダメージを与える。ただ、爆発したら矢も損傷してしまうので再利用できる可能性は低い。
恐らく、切り札として使う気なのだろう。
合金製の矢と炸裂矢の総額は六万ちょっと。今日稼いだ分の金を全て使ってしまったが必要経費だ。
「この後、どうしますか?」
店を出たあと、横を歩くウルカにそう問われた。
上を見ればまだ空は青色だ。時間にして午後の四時頃。まだダンジョンで活動できなくもないが、どうにも中途半端な時間である。
「今日は終わるか。明日もまた矢の試射をしよう」
「はい。分かりました」
どうせデュラハン騒ぎが終わるまではまともに活動できない。
ダンジョンから帰還後、改めて協会に状況を問い合わせてみたが上位のパーティーが挙って十四階層へ潜っているようだ。あと数日もすれば落ち着くだろう。
「夕飯にはまだ早いな。何かしたい事、あるか?」
夕食まで時間を潰そうとウルカへ問いかけたタイミングで――
「アッシュさん!」
背後から大声で名を呼ばれた。
俺とウルカが揃って後ろを振り返ると、青年が肩で息をしながら追いかけて来る姿があった。
「どうした?」
「はぁはぁ……。きょ、協会の職員や先輩に、呼んで来いって!」
俺を探す為に都市内を走り回っていたのだろうか。青年は顔中に汗を浮かべながら、荒い息を吐き出しつつも用件を口にする。
「協会に?」
「は、はい。ちょっと、マズイ事になりました」
協会か、もしくはダンジョン内で何か起きたらしい。タイミングから考えるにデュラハンの件か。
「とにかく行ってみよう」
「はい」
ウルカと顔を見合せたあと、俺達は大急ぎで協会へ向かった。
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協会に到着すると、中にたむろするハンター達は小さな声で何かを囁きあっていた。氾濫が起きた時のような緊迫した状態というよりも、皆揃って困惑しているといった雰囲気が漂っている。
「おーい、呼んでいたと聞いて来たんだが」
「アッシュさん! こっち!」
カウンターまで言って職員に声を掛けると、協会右手奥にある個室前でメイさんが手を振りながら俺を呼んだ。そちらに向かうと、俺達は個室の中へと通された。
個室の中では、毛布を身に纏いながら震える女性ハンターが椅子に座っている。そして、彼女を囲むようにして立つ数人のハンター達の姿もあった。
「どうしたんだ?」
震える女性は見た事がある。確か上位パーティーの一員だったはずだ。普段は十六階層で狩りをしているパーティーで、パーティーに加入しないかと誘われた事もあった。
そんな協会屈指の女性ハンターが、ガタガタと歯を鳴らしながら全身を震わせているのだ。彼女の仲間の姿も見えず、それが余計に嫌な予感を感じさせた。
「アッシュさん、例のデュラハンだ」
壁に寄り掛かりながら腕を組んでいた男性ハンターがそう言った。やはり、と俺が内心で呟いていると、デュラハンの名を聞いた女性ハンターはビクリと肩を跳ねさせた。
「ちょっと外で話そう」
恐らくはあの女性に気を遣ったのだろう。俺とウルカは男性ハンターの後に続き、扉を閉めた個室の外で事情を聞く事になった。
「例のデュラハンが十四階に出現してな。彼女のパーティーともう一組が挑んだんだが……。彼女以外、全滅した」
「はぁッ!?」
正直、信じられなかった。
デュラハン狩りに向かったパーティーはどれも四人から五人で構成された上位パーティーだ。普段から十四階よりも下で狩りをしていて、何も問題無く魔物を狩れるほどの実力者が揃っていると聞いていたが。
「十人もいて全滅したのか!?」
「ああ。彼女は仲間に逃げろと言われたらしい。途中、俺達が拾ったんだが……」
次々と仲間達が殺されていく瞬間を目撃したからか、彼等と出会った時には恐慌状態に陥っていたらしい。
「一体、どういう魔物なんだ?」
「彼女の話によると……。噂通り、黒い鎧を着た首無しの騎士。燃える両手剣を振り回して仲間を一刀両断、だとよ」
男性ハンターは苦々しい表情を浮かべながら内容を口にした。
「燃える両手剣?」
以前、タロンに外見の情報は少しだけ聞かされていたが、武器の情報は初耳だ。
「ああ。炎を纏う剣だったらしい。両断された人間は焼けちまったとか言っていたが……」
体を斬られた上に燃やされるとは……悲惨すぎる。それを目撃したのであれば、彼女がああなるのも頷ける。
「潜ってた他のパーティーも一旦引き上げて来たくらいだ。デュラハンの野郎、相当ヤバイぜ」
男性ハンターの眉間に皺が寄る。どうやらデュラハンは思っていた以上に厄介そうだ。これは討伐まで長引くかもしれないな。
「そこで、アッシュさん達にはパーティーの死体回収をお願いしたいんです」
カウンター奥にある事務室から出て来たメイさんが会話に入って来た。いつも以上に真剣な表情をした彼女は言葉を続ける。
「普段見られない未知の魔物ですが、今回の件から考えるに十四階相当の魔物とは言い難いでしょう。デュラハンのデータを集めるためにも死亡したハンターの死体を回収します」
これはデュラハンのようなネームドが出現した際に設けられた規則に則った行動だ。未知の魔物を討伐するためにも、死んだ人間の死体を調べて魔物の特性や攻撃方法を探るらしい。
「ですが、相手は上位パーティーを壊滅させるほどの力を持っています。死体回収にも実力者が必要です。協会の回収人と共に向かってくれませんか?」
死体回収人とは協会の職員で構成された者達だが、その正体は引退した元ハンターだ。
過去の経験や判断力をもってダンジョン内に残った人間の死体を回収する任務を行っているのだが、今回は彼等だけでは厳しいと判断された。
そこで、俺達の出番というわけだ。俺とウルカ、他のハンター達を死体回収人達と共に十四階へ向かわせて、上位パーティーの死体を回収・帰還が今回の任務となる。
「無理はしないで下さい。出来る範囲で回収できれば良いです。デュラハンに遭遇したら必ず撤退して下さい」
例え、一つも死体を回収できなかったとしても撤退が優先とされた。
「分かった。ウルカも良いか?」
「はい」
俺達が了承したのを聞いて、メイさんは「よかった」と大きく息を吐いた。
「もうすぐ回収人の準備が整いますので、アッシュさん達も準備して下さい」
「ああ」
こうして俺達は五人一組のパーティーと三人の回収人と共にダンジョンへ向かう事になった。
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