第4話 終焉と始まり

 戦争は終わった。あっけない幕切れだった。


 二つの軍事政権の中枢部で幹部たち全員が、射殺死体で見つかったのだ。犯人はいなかった。撃ったのは人ではなかったからだ。防衛システムの誤作動で、彼らは、彼らを守るはずの設備に殺された。


 軍事政権は二つとも崩壊した。クーデターを起こした組織や、他にも様々な組織が政権をとろうと悪戦苦闘しているが、どれも成功していない。


 兵器の人工知能が、人に同調しなくなったのだ。全ての兵器が使えなくなった。


 手動の兵器があれば、人の手で動かす事ができただろう。人工知能との同期に慣れた軍は、前時代の旧兵器で戦うことはできなかった。人が乗り込む戦闘機など、古代兵器と言って良い。既に失われた技術だ。自動で照準が合わない銃を撃てる兵士はいない。追尾機能のないミサイルを命中させる方法もない。


 戦争ができなくなった。 


 結果、各地に出来た政権は、互いに交渉し、不可侵条約を結び始めている。


 まぁ、そんなことは、一般市民に関係ない。自分達が暮らしている場所が平和であればいいのだ。


「よっこらしょ」


 なんとも情けない掛け声とともに立ち上がったのは、かつて艦長と呼ばれていた男だった。今は農家だ。  


 いろいろあったが、乗組員たちはそれぞれに生きる場所をみつけていった。今、農家となった艦長と一緒に暮らしているのは数人の物好きだけだ。


「帰ったぞ」

「おかえりなさい。お父さん」


 かつて“歌姫”と呼ばれていた愛娘が、艦長だった父を出迎えた。


「あいつは」


 父の言葉に、“歌姫”と呼ばれていた娘は微笑んだ。


「トラクターを説得しています」

「あー、昨日拗ねてたからなぁ」

「お父さんが、お隣さんのトラックに構ってあげたのが、気に入らなかったらしいわ」


 兵器の人工知能は、人との同期を受け付けない。他の器械の人工知能達も、なぜか時々人の指令を聞かなくなった。人々は途方にくれたが、解決する手法は見つかった。


 かつて兵士として、兵器の人工知能と同期していた者達だ。彼らは今、“語り部”と呼ばれ、気まぐれになった人工知能達と人との間をつないでいる。



 この家には優秀な“語り部”がいる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る