第3話 別れの朝

 別れの日の朝が来た。


 多くの者が戦艦を降り、多くの者が戦艦に新しく乗り込む日だ。


 “歌姫”の迎えには、軍の幹部が直々にやってきていた。


 優秀な"ダイバー”は貴重なのだ。


 “歌姫”は貴重な存在だ。全員で見送りたいという艦長の申し出もあり、最初に戦艦を降りるのは、“歌姫”と決まった。


 少ない持ち物を手に、目に涙をためた“歌姫”がタラップに、足をかけたときだった。


 タラップが突然、跳ね上がった。


「なんだ」

「艦長、船の人工知能が言うことを聞きません」


 艦橋は大騒ぎとなった。


 戦艦の人工知能は、制御不能となった。誰の命令も聞かず、出航の準備を進めていく。


「何事だ」


 管制官の怒鳴り声がした。


「わかりません。船が操縦できません。人工知能が、一切応答しません」


 艦橋の通信係が怒鳴り返した。


「何とかならないか」


 低い落ち着いた艦長の声に、艦橋は少し落ち着きを取り戻した。


「無理です。出航します。止まりません」


 操縦士は、必死に人工知能に指令を入力したが、戦艦の人工知能には、何の影響も与える事ができずにいた。


「仕方がない。総員配置に付け、管制官、この船は出航する。許可を。出航の手順は問題なく進んでいるが、もはや我々では止めることが出来ない」


 艦長は管制に呼びかけた。


「許可できませ、うわぁぁ、なんだ、これは」


 管制官の声は途中から悲鳴に変わった。


「貴艦の出航が、許可されています。管制システムの人工知能が言うことを聞きません。何事ですか」


 管制官が叫んだ。


「何事だろうな」


 艦長は首をかしげた。よく知る者がその口元を見たら、笑いを堪えていることに気づいただろう。


「出航」


 艦長は微笑んでいた。その日、艦橋に居た者達は、後々そう振り返った。


 “闘神”と“歌姫”と、従来の乗組員を載せた戦艦は、問題なく出港した。


 行き先は誰も、予想していなかった場所だった。




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