第1話 城壁の街
3日前、勇者パーティーはとある街に到着した。
凶悪なモンスターが蔓延る世界で、堅牢な城壁で護られた安全な街だと聞いてきた。
ここに来た目的は、食料などの物資の補給のためだ。他の街がギリギリの生活を送っている中、まともな補給ができるのは、ここしかないと考えてのことだった。
城門についたときから、勇者パーティーは不愉快な思いをする。
身体検査をするとまで言われたが、一番嫌ったのはヒーラーだ。
パーティー内の唯一の女性でもあるし、これまで思っていた以上に過酷な旅だった。
彼女の
勇者が自分の手の甲に現れた『勇者の印』を見せ、国王からの通行手形まで見せた。
魔法使いが袖の下を出したが、何度もモンスター達や賊と対峙してきた生粋の民兵だ。そんなものでは動かなかった。
それでも納得いかない民兵。
最終的には、掃除婦か中年の女性が呼ばれてきた。
薄いシーツだけで仕切られた簡易的な検査場が設けられた。
そこで中年女性に裸を見られることになる。そのシーツの反対側には、民兵が何かあったらすぐに飛び込めるように身構える。しかも光の加減で彼女らの影がシーツに映っている状態。
影だけだとはいっても、身ず知らずの男が薄いシーツの向こう側にいる。
ヒーラーのストレスは溜まっていくばかりであろう。
「大丈夫だったか?」
涙目になって現れた彼女に、心配そうに魔法使いが声をかけてきた。ヒーラーが開放されたのは一番後になる。他の3人、勇者、魔法使い、戦士はすでに身体検査を終えて、開放されていたようだ。
次に宿を探したが、街中がピリピリと張り詰めていることが気になって仕方がない。
魔王のモンスター達と対峙しているから……そう解釈すれば、ほぼ臨戦態勢状態だということは分かる。皆、殺気立ているのだ。
それでも大通りには普通に市場が出て、住民が買い物をしている。
日常生活は行われているようだ。だが、皆がチラチラと監視するかのように横目で見てきた。気にならないほうが、おかしい。こちらが目を合わせようとすると、何ごともないように振る舞うのだ。
(ここは何かおかしい……)
それにヒーラーには、他にも何かが欠けているような気がして仕方がなかった。
そして、肝心の宿屋がなかった……いや、ほとんど廃業してたと、いった方がいいであろう。
モンスターが徘徊しているとはいっても、旅の商人などは交易をしている。だが、城門でのしつこい身体検査などを考えれば、そういった者は寄りつかないのかもしれない。
(思っていた以上に、この街は期待しない方がいいのかも……)
旅の物資の補給。それを考えていたが、
(よそ者に果たして売ってくれるだろうか?)
ヒーラーは不安に駆られながら、宿を探す勇者に付いていった。
そして、ようやく営業をしている宿屋を見つけた。だが、
「部屋はひとつだけだ」
素っ気ない亭主の一言。
街中を歩き回ったがようやく見つけた宿屋だ。「とりあえず部屋を見せてくれ」と、勇者はここに決めるようだ。
案内されたのは2階の部屋。広さは4人には十分であろうが、ベッドがふたつしかない。ただ、いつ掃除をしたのか――
(ここで寝るの!? 魔法使い様達と男3人の部屋で一緒なんて……)
ヒーラーは一瞬、引いた。そうは思ったが、今まで野宿ばかりしてきた。
(屋根があるところに寝たい。せめて床があるところで……ベッドの上で横になりたい――)
そちらの欲望が勝ちそうになる。
戦士は考え込んでいるヒーラーを見て、何か言い出そうとしたが、
「分かった。ここにする」
皆の意見も聞かずに、勇者が即決してしまった。
そして「いいよなぁ?」と、事後承諾を取ってくる。他の2人は、首を縦に振り、ヒーラーも怖ず怖ずとうなずいてしまった。
結局、日も傾いているということもあり、街の探索やらは明日行うこととなった。
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