城壁の街にて~ヒーラーPTSD異聞

大月クマ

序話 罠

(女神様! お助けください!)


 ヒーラーは杖を両手で抱え込みながら、女神に祈った。


 数ヶ月前に、ミルラ生まれ故郷の村に現れた勇者に導かれ、魔王を倒す旅に出た。

 邪悪な魔王を倒すことが、国内で希な回復魔法の使える自分の使命だと思って……


 だが、今はどうだ。


 森にあった小さな小屋。恐らく近くの集落の人が、材木採集などの作業中、借宿としていた場所であろう。

 魔王軍の為か、数年間は放置されていたようで廃墟に近い。

 ヒーラーはそんな小屋の片隅にうずくまっている。

 ほぼ廃墟の小屋だ。外の者に見つからないように、身体をできるだけ小さくしているが、手にした杖の先がどうしても隠せない。先の球体が頭の上に飛び出してしまう。

 隙間からのぞき込まれたら、確実に見つかってしまうだろう。


 見つかってしまうようなら、杖を手放せばいい――


 そうは思っても、村を旅立つときに手渡された大事な杖だ。女神の神殿に飾られていたモノでもある。それに最後の武器としても、自分の唯一できる魔法さえも失ってしまうことになる。


「グワーっ!!」


 外で男の悲鳴が上がった。知っている人物、戦士の断末魔。

 いつも声が大きくて、大きな斧を振り回しているが――当たらないことも多かったが――今の状況では、一番頼れる存在……だった。


(どうしよう。後は、勇者様と魔法使い様しか……)


 勇者は外で戦士と共に戦っていた。

 魔法使いは、自分とこの小屋の中に一緒にいる。最後の護衛として、姿を消す魔法で隠れているはずだ。

 戦士が倒れたという事は、勇者にとって不利であろう。

 外の敵。魔王の手先であるモンスターでもない。

 もっと厄介な……人間達だ。


(どうしてこうなってしまったの!?)


 ヒーラーが自問したところで、どうしようもないかもしれない。

 彼女は……勇者パーティーは罠にハマったのだから――

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