第4話 雪を溶かすのはいつも春

「青空を見に行きたくない?」


 そう言ったのは、ハルだった。

 どうやってハルを逃がそうか。日々悩んでいた僕は二つ返事で飛びついた。…今なら分かる。ハルは責任を追うつもりで言い出したんだと。僕のことなんて、お見通しだったんだ。


 青空が見れる場所なんて、この地球にもうあるわけないのに。


 僕たちは世界中を飛び回った。ハルの生命を狙う世界中の追手に怯えながら。自分を守るために、他人を殺す罪悪感にさいなまれながら。


「あのマッドサイエンティストの手のひらで踊らされてるみたいで、ホンマ腹立つわー」


 慣れた動きで、どこかの国の戦闘機を撃ち落としながら、ハルはぼやいた。…何でもないことのように軽口を叩く彼が、戦闘のあった日の夜は必ずこっそり震えて泣いていることを僕だけが知っている。


 両のてのひらからはレーザーみたいなビームが出るし、指先からは弾も出る。長い髪はレーダーになって、敵機より早くに気がつける。

 それでも、ハルはハルだった。僕の大事な幼馴染み。


「ホンマに?」


 ハルが僕をじっと見つめる。


「アキはどんなになっても、俺のことを助けてくれんの?」


 冷たい無表情のハルが、なんだかいつもより青白く見えて。ふと視線を落とすと、彼の両腕が崩れていた。


「俺が苦しんでたら、助けてくれる?」


 何がなんだか分からないうちに、ハルの脚も壊れ始める。膝から先が壊れると、そのまま膝から地面に落ちて、ハルはぐしゃっと地面に倒れた。機械が全部砕けたハルはうつ伏せになって動かない。


「――っ!!ハルっ!ハルっ!!!」


 慌てて駆け寄って、抱き起こすと、髪がずるっと落ちた。壊れたマネキンのようになったハル。すぅっと目を開いて、口をパクパクさせた。


「…何?聴こえないよ!

 聴こえないよっ!ハルっ!!」


 いつの間にかに、床が深い青になっていたかと思うと、ハルだけがだんだん沈んでいく。抱き止めようとしても、彼は下へ下へ……。


「待って!置いていかないで!!」


 僕は取り残された。

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