第3話 雲を綿菓子へと変える

 空を覆うナノマシン、「グレイクラウド」。開発当初、問題とされた「グレイ・グー」自己増殖するナノマシンが地球を埋め尽くし滅ぼすとなるリスクを解消したのが、例の研究者だった。

 簡潔にいえば、ナノマシンに休息をとらせることで、増殖数を調節するという仕組みを取り入れた。一見、非効率にも思われたが、休息中のナノマシンを民間企業や教育機関へ貸し出すことで、より人類全体の発展へと繋がった。

 なのだが、例の彼は何が気に食わなかったのか。平和な世界になって、数百年経った今、突然テロを起こした。

 …そう。あのテロの首謀者は彼だった。


「テロを起こしたのは最悪だけど、俺の生命を救ってくれたことは、感謝してるで。

 空も自由に飛べるしなー♪」

 ハルはぐるんっと宙返りして、得意げにそう言って笑った。三つ編みにした髪がぐるんぐるんっと大きく揺れて、ペシペシと僕の頬を叩いた。僕は笑顔を作ってうなずくことしか出来なかった。こっそり彼のジェットの排気口に目をやる。薄い煙が空に消えていっているような気がした。


 …ハルは生きているだけで、「グレイクラウド」を「グレイ・グー」へと変化させる。彼は常にナノマシンが自己増殖のリズムを保てなくなる物質を排出している。あのマッドサイエンティストによって、この世界を滅ぼすためのサイボーグとして、生き永らえさせられたのだ。


 それが分かったのは、研究者がテロリストだったと判明して、姿を眩ましたあと。術後の検査の中で発覚した。彼を生かすには、逃げるしかなかった。

 …もちろん、いろんな大人がハルを生かすために、奔走してくれた。ちゃんと僕だって分かっている。それでも、あの狂った天才の置き土産はどうしようもなくて…。

 とうとう国は僕の幼馴染みを殺すことを決定した。

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