第2話 白と青の間の世界

 相変わらずの白い空。そして、下は見渡す限りの青い大海原。

 大昔、人は海が空の青さを映していると思っていたこともあったみたいだけど、空が白くても海は青い。

 …当たり前だと僕は思う。だって、青い海はこんなに怖い。

 白い天井を広げられた空とは違って、青い水面は深い大きな穴みたいで。淵の見えない大きな落とし穴みたいで。

 ゴミや海藻が浮かんでいるかと思えば、突然、魚やクジラ、イルカなんかが顔を出したりする。何が出てくるか分かりゃしないし、落ちたら、どこまで行くのか想像もつかない。きっと深く深く、僕は沈んでいくのだろう。


「俺にちゃんと掴まってれば大丈夫やから、心配すんな」

 髪が塩で傷むからと、海を飛ぶのをあんなに渋っていたのに、僕の不安を察したのか、ハルはおおらかに笑ってみせる。タイミングよくクジラが潮を噴いた。


「ぎゃー!海水がかかる!かかる!濡れる!」


 そんな白と青の間。潮の香りに満ちた世界を僕たち二人は飛んでいた。いや、厳密にいえば、飛んでいるのはハルだけで、僕は彼にしがみついているのだけど…。

 飛べるといっても別にハルは鳥じゃない。ちゃんと人間だ。ただ…ただのほんの少しサイボーグなんだ。身体の九割が機械で、空を飛べるし、ビームも出る。

 こんな身体になったのは以前、とあるテロ事件に巻き込まれことに端を発する。あのときのことを思い出すと、今でも血の気が引いて、息がうまく吸えなくなる。僕もその場にいたのだから。

 よく知っている自分の街があっという間に崩れ去り、そこにはいろんな匂いが立ち込めていた。肉の焼けた匂い、びた鉄の匂い、ガソリンや他の知らないガスの匂い…。きっと吸っちゃいけない匂いもあっただろうけど、僕はただ息をするだけでも精一杯だった。目の前のハルの手を握るだけで精一杯だった。

 ハルは手足が変な方向に曲がっちゃって、お腹には大きな瓦礫が乗っていた。口から内臓が出てこないのが不思議なくらいに彼のお腹は潰れていた。息をしてるのが不思議なくらいに、彼の身体は血塗れだった。



「うわぁー。すごいね!まだ生きてるよね?」


 真っ青なハルの顔を見つめていると、後ろから声がした。

 それが、ハルをサイボーグにした研究者。

 そこに居合わせた彼のおかげで一命は取り留めた。

 …のだけど、不幸中の幸いもとい、というか、なんというか…。その研究者はハルを生き永らえさせると同時に、人類に拒まれる【呪い】をかけた。

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