白の世界を夢に見て

おくとりょう

第1話 青くない空と灰色の雲

 いつの日からだろう。空から青が消えたのは。青くなくても、みんなが気にしなくなってしまったのは、いつからなんだろう。


 目が覚めると、外は少し明るくなり始めていて、遠くに鳥の声が聴こえた。

 隣を見ると、まだハルは静かに寝息を立てている。薄い唇が少し不満そうに突き出しているのが、なんだか少し艶かしく思えた。

「…アキは…俺の…」

 小さく呟くと、ホッとしたように表情が緩む。何の夢を見ているのだろうか。

 長い睫毛の目立つまぶたはしっかり閉じられていて、まだしばらくは起きそうにない。黒い長髪が扇状に広がっている。寝る前はあんなに髪の手入れをするくせに、寝癖が悪いものだから、 毎朝ぐちゃぐちゃになっている。そして、文句を言いながら、また丁寧に手入れをするのだ。黒く艶のある柔らかなそれは、そぉーっと手に取ると、さらさらとこぼれる。髪を触ったことに気づいたのかどうなのか、小さく鼻を鳴らすと、彼は寝返りをうった。


 僕は彼を起こさないように、そぉーっと外に出た。


 東の端から太陽が無色彩の空を朱く染める。もうここ数百年の間、地球の空に色が戻るのは朝と夕方だけだ。大昔は青かったという空はすべて「グレイクラウド」が覆ってしまい、見ることは出来ない。

「グレイクラウド」、通称「GC」はナノマシンの集合体だ。

 人間社会に供給されるエネルギーの七割を受け持っている他、電子ネットワークの提供、世界各地の気候観測を主とした地球環境の維持・管理など、多岐にわたる役割を果たしている。

 …まぁ、つまりは現人類にとって、ただの青い空なんかよりもずっと必要な存在だってこと。


 でも、僕とハルはその青空を見に行くことにしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る