飛ぶ

 一体どんな化物がこんな惨状にしたんだ? 異常な数の死体だ。ここはまだ二層だ、目的地には程遠い。全員が警戒体制のまま部屋を探索する。腐臭が鼻を焦がし、精神を削る。


 「キイルトース、私を持ち上げなさい。探知魔術を使うわ」

 「あ、ああ」


 目白を肩でおぶさるように持ち上げる。案外軽いものだな。スッと杖が振られる音が聞こえた後、部屋中に赤い光線が飛び交った。


 「目白の探知魔法は一流でね、部屋に入り込んだダニの一匹まで逃がさないんだ」

 「素晴らしいものですね…」

 「見つけたわ、シャンデリアの真下ね。火で炙ってみて」


 三井が剣を振りかぶり、火球を叩きつけた。炎が木に燃え移る音と共に、奇妙な鳴き声が聞こえてきた。巨大な餌袋を背中に貼り付けた四本足のハエが、燃えながら部屋の天井へと舞い上がる。


 「はえ…?」

 「ハエね、とびっきりデカいハエ」

 

 巨大ハエが餌袋を揺らし、目を真っ赤に染め上げた。三井と目白が火球を放つ、パトリシアは弓を引き、矢を放つ。俺は擬似血管を作動させて上に乗った目白に攻撃が当たらないように飛び回る。即興だが中々良いコンビネーションだ。


 「ヤングヤング、バックスタブを狙え、俺はなるべく脳を強化してから戦う!」


 餌袋が矢によって切り裂かれ、中からは無数の、人間サイズのハエが飛び出した。毒液を撒き散らし突撃してくる。まだまだ避けられる範囲ではあるが、このままだと厳しい。


 「あの小さい奴らは気にしないでいいわ! あのシャンデリアに飛び移るのよ! このままだと本体を見失う!」


 仲間の状態がハエと毒液に埋め尽くされ、見えない。クソ、シャンデリアは何処だ!? 毒液は鎧で防げてはいるが、それがいつまで持つかは分からない。


 「私が探知魔法で足場を確認するから、指示通りに飛んで!」


 毒液が鎧の小さな隙間から入りこみ、口も聞くことができない。頷けばわかるか?


 「右に思いっきり!」 

 

 足を動かす。


 「左!」


 足を動かす。飛ぶ、飛ぶ、飛び続ける。

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