花火

 鉄製の冷たいガントレットが端から端まで温まった。弾力のある何かを突き破り、腕が関節まで沈み込む。目白はまだ生きてるか? 球体のようなものを掴み取った。


 「ナイス、それがコアね」


 コア、こいつが心臓ってことか。図体に反してテニスボール並みの大きさじゃないか。


 「そのままハエにしがみついて、握りつぶすのよ」


 腕に血が流れている、疑似血管の薄い膜が破れ、紅い血が噴き出した。コアを掴む、ハエが激しく体を揺らした。目を閉じた中でも、何が起こっているかは分かる。ぶつりぶつりとゴムが切れるような音が響く、血管を手繰り寄せてしまったか? 鎧が気色の悪い熱気に覆われた。


 「私は気にしないで、これくらいなら自分で防げるから。その血は恐らくだけど溶解液みたいなもの、なるべく早くしないと終わりよ。急かすつもりはないけど!」


 大分急かされているようだ。確かに急がなければ鎧を着たまま御陀仏だろう。ハエを掴んでいた片手を外し、コアを両手で鷲掴みにした。一気に血管が切れ、コアが体から切り離された。


 「え、、」

 「ぼ、う、ぎょ、ま、ほ、う」


 声を絞り出して目白に伝える。時間がないんなら仕方ないだろう。後は目白が魔法を掛けれるかの勝負だが..


 「えっ、えっ、えっ、えっ」

 「め! じ! ろ!」


 不味いな、混乱してる。体が空気に押し返されながらも、落ちていく。このままじゃやっぱり御陀仏だ。血で固まった関節を無理矢理動かして背中の目白を叩く、反応が無い。疑似血管を頼るしか無さそうだな。シリンダーの強化剤を素手で体内に押し込む、血が高速で循環する。足の裏が床にゆっくりと沈み込んだ。痛みは無い、これが麻痺しているせいだったら最悪だが、何分か経った後も痛みは無い。


 「きーるとーすぅ….」

 「うわっ」


 背中から小さな声が聞こえて来た。どうやら目白も無事のようだ。


 「あ、あんた、ただの鎧ロリコン変質者じゃないようね….助かったわ..」

 「そ、れ、が、い、の、ち、の「おーい! 大丈夫か! 兄ちゃんたち!」


 俺の抗議の声を掻き消すように野太くて力強い声が飛んできた。吉村だろう。まだ視界は血で濡れてぼやけているが、あの図体だ、いやでも分かる。


 「だいじょうぶ!? ふたりとも!」


 パトリシアの声だ。無事で良かった。


 「俺のヘルメットの出番は無かったか。まあ、全員無事なだけ良かった」

 「報酬になりそうなものは特に見当たりませんね」

 「めざといな、まずは達成感を味わおうぜ」

 「空中で弾けてる巨大バエを見ながらですか? 小バエ共もあちこちで弾けていますが」

 「はなび!!」


 音が聞こえる、弾ける音が、背中に乗った小さな魔法使いをそっと床に下ろした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る