第11話 玄関は本性のスイッチ

 疲れが溜まってたのか、今日は十一時過ぎまで寝ていた。

 久しぶりにこんな遅い時間に起きてしまったな。

 もう昼ご飯の時間と言っても過言ではないだろう。

 部屋を出て洗面台に向い、顔を洗ってリビングへ足を運んだ。


「おはよう渉、今日は珍しい時間に起きたのね。ご飯食べる? 」

「おはよう。うん、よく寝た。ご飯食べるよ」


 そう言って母は緑茶を僕の前へ置き、昨日のポトフの残りを胃に入れた。

 暖かいスープが染み渡る。

 ふと辺りを見回す。なんだか静かだな。


「つむぐでしょ。今さっきお父さんと散歩に出かけたよ」


 なるほど。だからこんなに平和なのか。

 この至福の時間はしばらく続きそうだ、なんて幸せなんだ。

 これから休日はこのスタンスで行きたいくらい。


「父さんも僕並みに体力無いからなぁ、きっと疲れ果てて帰ってくるよ」


 楽しそうなつむぐとゼェゼェ息を吐く父さんか…。

 想像したら思わず頬がニヤけた。

 これで少しはつむぐに振り回される僕の気持ちが分かるだろう。


「何笑ってるの?なんか楽しい事でも思い出したの? 」

「えっ、そんな顔に出てた? 」

「イタズラ考えてそうな悪い顔してた」


 そう言う母も、イタズラな笑みを浮かべていたのは黙っておこう。

 最近表情筋が緩くなったような気がするな。

 クラスメイトに変な奴とか思われないように今後注意しなければ。


 *


「急に冷え込んできたなぁ。十月ってこんなに寒かったか? 」


 射抜くような冷たい風は吹いてないが、それでも芯から冷え込ませるかのように太陽は雲に隠れていた。

 だが、そんな寒さの中で元気な奴もいる。


「お前も渉みたいな顔してんな。ったく、親子揃って体力無しかよ」


 そう、この子犬だ。


「僕が渉に似てるんじゃない、渉が僕に似てるんだよ」

「屁理屈抜かしてないで、走るぞオラ」


 至極真っ当な返答をしたのだが。

 そうしてまた走らされる。

 普段デスクワークなのが、ここにきてツケが回ってくる。

 これじゃ渉に笑われるのも仕方ない。


「ていうか、お前、喋れる事渉にバレてないだろうな? 」

「喋れる事?アホか、言うわけ無いだろ」

「それなら良いんだが…」

「大丈夫だ、心配すんな」


 つむぐは走って声を揺らしながら「スピード落ちてんぞ」と更に足を動かした。

 必然的に自分も追いつこうとスピードを上げる。

 まだ言いたい事があったが、阻止するかのように我が家の門が見えた。


「そう焦るな、逆に渉に怪しまれるぞ」

「分かってる。よし着いた、良い子にしろよ。つむぐ」

「ワン」


 こうして今日の散歩を終えた。

 つむぐも「犬」に戻り、僕はただいまと言いながら玄関を開ける。

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