第10話 犯人抜きで進む物語

 食事を終え、風呂を済ませて部屋に戻ってきた。

 が、既に先客がふてぶてしい態度でベッドを占拠していた。


「随分と長風呂ようだな? 」

「普通の長さだよ。そっちこそ随分傲慢な態度で人のベッドに寝転んでるようで? 」

「うるさい。それよりお前、夕食の時これ見よがしにポトフチラつかせてただろ」

「それがなにか? 」「俺の大好物なんだぞ! 」


 食い気味みに、漫才のツッコミの如く僕の言葉を遮り言い放った。

 犬になったつむぐはもう人間の食事はできないのだと、その後数分に渡り鬱憤を僕にばら撒く。


「わーかった、分かった。僕が悪かった、許してよ」


 これ以上は耐えられなかったので妥協してやる。

 してやっただけだ。自ら折れた訳ではないぞ。


「ったく、もう耐えられんみたいな顔しやがって。分かってんだぞ、クソガキが」

「まだ言うか部屋から追い出すぞ」

「冗談だ。お前の部屋に来たのは話したい事があったからだよ」


 僕の悪態をスルリとかわしてつむぐは話を持ち出した。


「今日散歩の時あった先生、多分前世で俺と関わりがある奴だ」


 この子犬はいつも重要な事をあっけらかんと言う。

 初めてつむぐの声を聞いた時のようにフリーズした。

 相澤先生と関わりがある?


「えええ、お前そういう事はもっとテンション上げて言ってよ!知り合いだったの⁉︎ 」

「うるせえ。俺もさっき、やっと思い出したんだよ。あースッキリした」

「思い出せて良かったね〜。じゃないだろ!犯人に繋がるかも知れないんだぞ⁉︎ 」


 本人は思い出せてスッキリしただろうけどこの情報は思いも寄らない事だ。

 まさか数日で、しかも先生が知り合いだったなんて。

 福交換神経がグルリと回転したのが分かる。完璧に目が覚めてしまったじゃないか。


「もしかしたら相澤先生がつむぐを殺したのかな…? 」

「なきにしもあらず。だな」


 あの人見知りな先生が殺人なんて出来るのか…?

 いかんいかん、思い込みすぎだ。

 そんな、すぐ犯人だなんて決まった訳でもないのに勝手に先生を殺人犯にするのはよろしくない。

 しかしこれは有益な情報だ。やっと一歩踏み出せた気がする。


「しかし世間は狭いな。すぐにヒントが転がって来やがった。犯人がわざと落として行ってるみたいだ」

「そんなの出来レースすぎでしょ。見つけてくださいって言ってるようなものだもの」


 果たして、僕達は思考を巡らせありとあらゆる可能性を話し合ったがこれと言ったオチは決まらなかった。

 それでも次への道には行けそうだ。

 目が覚めた、なんて言ってたが既に今日の分の思考回路はもう使い切ってるらしい。

 またまた交感神経がグルリと回転したのが分かるように眠気が脳を支配してきた。


「だめだ、もう眠い。また明日話そう」


 幸い今日は金曜日だ。輝かしい二連休が僕を待っているに違いない。

 僕とつむぐはお互いの寝床に潜り込み、僕は秒で寝落ちした。


 つむぐは少し考え事をしてから、ようやく一人と一匹の寝息が聞こえ始めた。

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